明けましておめでとうございます。今年も、このブログにお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。
さて、年初めに初心に還る意味も込め、僕にとって「原点」ともいうべき本の話をしたいと思います。
僕がまだ中学生だった頃、京都にあった自宅の父親の書斎の本棚に、その本はありました。「カタルニア・ロマネスク」。・・・??当然、カタルニアというスペインの地域の名前も知らなければ、ロマネスクという美術史上の名前も知りませんでした。銀色に光る表紙に惹かれて手に取り、ページをめくっていきました。モノクロの、山村の風景。そこに屹立する素朴な礼拝堂の数々。そしてそこに生きる人々と、そこに昔から生きてきた事物の数々。写真家・田沼武能が1987年に撮りためた写真集でした。その写真集との出会いは、とりたてて衝撃的なものでもありませんでしたし、見ながら感動することもありませんでした。ただ、その写真を通して感じる空気感が、なんとなく頭の片隅に残り続けていて、時折、書斎に忍び込んでは眺めるようになりました。
高校生のとき、また本を引きずり出してきて眺めていたときに、僕がやりたいことは建築なのかなあと、直感的に思ったのを覚えています。きっと素朴な礼拝堂の写真や彫刻が多かったせいでしょう。これが、建築を志すきっかけになりました。
実際に建築を学問として学び、実務を通して仕事をするなかで、よく、「カタルニア・ロマネスク」の本のことを思い返します。僕の進んでいる道は、あの写真のようなものになり得ているだろうか、と、自分によく問いかけてきました。
石を積み上げただけの、単純にして素朴な礼拝堂。そこに生きる人々の慎ましやかでありながら美しい日常生活。そう、日常。僕が求めたいのは、石積みの礼拝堂というスタイルではなく、そのような存在によってもたらされる素晴らしい日常です。
昨年は、不穏な事件が多い年でした。不穏な空気感はそのまま社会情勢としてなおも続いていますね。いろいろな価値観が崩れつつある、時代の転換点に立ち会っているのだろうと思います。そんなときこそ、より深く「日常」に目を向けていきたいと思います。余計なことがそぎ落とされた、シンプルでありながら豊かな気持ちになる日々の生活。自分の感覚を鋭くとがらせて、そんな価値観をしっかりつかんでいきたいと思っています。