僕が好きなテレビ番組に、NHKの「世界ふれあい街歩き」という番組があります。世界各地の街を、まるで自分が街中を散歩していくようにカメラが巡っていく、というものです。道すがらの店に寄り道したり、すれ違った人に声をかけて会話をしたり・・・。オトボケ調のBGM、俳優たちの個性あふれるナレーションも魅力で、かしこまった旅番組というより、このゆるゆるさ加減がちょうどいい。日曜日の夜11時半~という時間も、なんとなく休みをこの番組で締める感じでちょうどいい。
仕事がら、視察を兼ねていろいろな街に行ったりしますが、建築関係の案内書だと、建物単体しか載っていないし、ガイドブックだと、やはり名所とか名店といったピンポイントの情報ばかりで、なかなか街の雰囲気というか、空気感を伝えてくれるモノがないんですよね。その点すばらしいのがこの番組。名所巡りは意外になくて、積極的に路地裏なんかにはいってくれたりして、街の息吹や質感を伝えてくれます。
旅に行ってから長く時間が経ったその後、どんなことを思い出しますか?僕の場合は、無意識に見ていたシーンや、街の音など、そんなものが断片的によく思い出されます。しかも行った直後というより、長い時間をかけて、記憶の深みから徐々に浮かび上がってくるようにして。そういう無名のシーンや音というのは、いわゆるガイドブックに載っている類のものではなくて、個人的な街のイメージとして残ったものなのでしょう。「世界ふれあい街歩き」は、そんな無名なものたちを、少し拾い上げてくれている番組なのかな、とも思っています。
2006年に始まったこの番組は、ベネチア巡りから始まったようです。やはり人気の街からなんですね(笑)。下の写真は放送2回目で紹介されたポルトガル・リスボンのもの。2年前に旅したときに撮ったものです。ある教会の出口でしょうか、場所はよく覚えていません。ただ、この瞬間のイメージははっきりと覚えています。扉の向こうからはいってくる光。磨り減った石の床。古びた路面電車のきしむ音。ガイドブックには載っていない、生きた街のイメージ。