気になる本

2009-02-13 21:02:12 | 

090213

最近、ずっと読み続けている本があります。

須賀敦子さんの全集。僕は須賀敦子さんのことは最近まで知りませんでした。昨秋たまたま本屋さんで手に取った雑誌「芸術新潮」(これもケッコウ愛読してます)で、須賀敦子さんの没後10年の特集をしていたのでした。中味をぱらぱらめくっていくと、しっとりとした質感のある写真の数々~それは彼女が暮らしたイタリアの街並みや、彼女が幼少期を過ごした芦屋界隈の風景を写したもの~がとても印象的だったのです。書物は「一期一会」と信じる僕は(笑)、迷わず購入し眺めました。

僕も昔、少しだけイタリアを旅したことがありました。でも須賀さんがはじめてイタリアに渡ったのは戦後まもなく、今とは日本人を見る目もまったく異なる時代でした。そのままイタリアにいれこみ、十数年後に帰国した彼女は、翻訳や、国内外の大学教師の仕事などをこなしながら、やがて自身の追憶をたどるようにイタリアでの思い出をエッセイに綴り始めたのです。そしてその文章の品格!

こうして僕は須賀さんの著作にはまってしまったのでした。彼女のエッセイの多くは、追憶からできています。イタリアでのこと、日本でのこと。それらが、ヴェネチアの運河に寄せる波の音に誘われるように重なり合っていきます。そう、文字通り、時空を超えること。現在という時間が過去につながり、今いるこの場所が、遠くの場所とつながる。そのように感じることは本当に可能なのだと思います。そして本当にそれを感じられたとき、目の前にある物事の価値は見たままのものではなく、独自の価値をもつようになるのだと思います。文学も、芸術も、そして建築も、そんな懐の深さをしっかりともっているべきなのだと思います。僕は、たんなる日々の暮らしに、そんな深さをもたらしたいと願っています。日々の暮らしが、須賀敦子さんの文章のように気品に満ち、追憶をうながすような深さをもつことを。

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