テーブルのデザイン

2008-11-03 20:34:54 | アート・デザイン・建築

前回に引き続き、家具のデザインの話。

千葉の住宅「印西爽居」では、ダイニングテーブルとベンチを、この住宅のためにオリジナルにデザインしました。施主のご実家に大きく分厚いケヤキの板が以前から保存されていて、住宅の新築にあわせて使おう、ということになったのです。製作をしてくれたのは、甲府で工房を構える家具職・古市健さん。僕が村田さんの事務所のスタッフだった頃からの付き合いです。古市さんにははるばる材木を引き取りに来てもらいました。

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普通ではなかなか手に入らない大きな無垢の板。その良さを最大限に引き出すことがデザインのテーマとなりました。

厚さ4.5センチに製材し、天板を2枚接ぎにしました。脚は板状の脚(板脚と呼びます)とし、端部を丸く削ってもらいました。板脚の継ぎ目には、シャープな化粧溝を一本だけ入れ、デザインは、これだけ。カタチを簡素にすることによって、板材が持つ質感が生き生きと感じられるようにしたいと思いました。

長年にわたりずっと保管してあった材木。もちろん表面には無数のひび割れもあります。それでも、この板材がずっと歩んできた時間を物語っているようで、愛着がわきます。無垢の木の良いところは、使い込むほどに味が出ること。このケヤキのテーブルも、少し経つ間に色がすこし濃くなってきました。家族が集まる長さ2メートルの大きなテーブル。食事の時以外にも、新聞を読んだり、小さなお嬢さんがお絵かきをしたり宿題をしたり。想い出がぎっしりつまるテーブルだからこそ、家の中心にレイアウトしました。

物事の価値というのは、そのカタチのデザインや値段などとは別に、そこに宿る個人的な「記憶」や「思い出」といった付加的な価値があると思います。そんな「記憶」や「思い出」をきちんと慈しむ心を持つこと。そしてその心をもって適切に物事を配置すること。そうすると、素朴ながら独特の雰囲気を持つ空間ができると思っています。茶室の空間というのはそうであったろうし、晩年のル・コルビュジエの言う「得も言われぬ空間」の真意も、きっとそのあたりにあるだろうと予感しています。

テーブルのある風景。写真家・垂見孔士さんに撮っていただいた写真から。

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