旧家の時代から残された芝生の前庭から、中庭へのアプローチが延びています。コンクリート平板を並べただけの簡素なもの。セメントを固めただけの多孔質なものなので、隙間に苔が生え、5年の歳月の間に随分と味わいを増してきました。廉価な材料も、「時間」を見方につけて実に生き生きとしています。
屈曲するアプローチを曲がると、突然風景は変わります。白い空間から黒い空間へ。芝生の前庭とはうってかわって、奥の中庭は一面に砂利がしきつめられた場所 。奥には黒い壁が控えています。この黒の正体は、黒漆喰。風雨にさらされて、独特の風合いを醸し出しています。手前には植栽が植えられました。そして真ん中には灯籠がひとつ。実はこれは錆びた鉄でつくられています。
黒い漆喰。錆びた鉄。こうした「古びていく」素材を通して、この敷地、この場所にずっと流れ続けてきた時間の厚みが、少しでも意識されるようになれば、という思いを込めたものでした。毎日目にする光景が、ゆっくりゆっくり時を重ねていく。そんな「時間」のデザインをしたいと思ったのです。すべてのものが、時を宿していく・・・。西の果てリスボンで感じたような雰囲気を、思わずこの東の果ての場所に重ね合わせてみました。
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