あけるだけでおめでたいのは、新年くらいである。まったくおめでたい。
世の中に仕事の付き合いほど非効率的なものはないと思う。「仕事の付き合い」というのは、まあ、一仕事終えた上で、会社の同僚や上司や部下たちと一杯飲んだり、二杯も三杯も飲んだり、酩酊してカラオケをがなったり、それで最終電車にみんなで体をふらふらぶつけながら乗る行為を指す。
何が非効率と言って、仕事はそもそもが効率で人々を結びつけるものであり、職場とは効率を最適化するべく工夫された機能集団である。その組織に属するもの同士がわざわざ効率を忘れて飲み騒ぐ時点で、極めて陰湿に非効率である。
仕事が終われば一刻も早く休めばよい。明日に備えて十分な体力回復と精神的安らぎを確保すればよい。それなのに世間巷のネクタイを風になびかせるサラリーマン諸氏は、あえて徒労と二日酔いの道を選ぶ。非効率を仕事と同じで効率よくやろうとするがあまり、学生でもあまりやらないような泥酔をして体を壊してしまう。ストレスの発散にいいとみな口を揃えて言うが、その目的を達成しているサラリーマンは彼らの中でもほんのごく一部、わがままな上司かもっとわがままな平社員くらいのものであろう。
誰もが薄々それに気づいている。「今日も飲みか。やれやれ」と人々は退社時間を過ぎた後もひそかに溜め息をこぼしている。
非効率は人間が生きていく上で必要な何かである。そういう卓見を披露する諸氏もいるが、彼らもそういうことを言うときは、決まって非効率な飲み会の真っ只中である。結局、あまりあてにはならない。
何が非効率と言って、仕事はそもそもが効率で人々を結びつけるものであり、職場とは効率を最適化するべく工夫された機能集団である。その組織に属するもの同士がわざわざ効率を忘れて飲み騒ぐ時点で、極めて陰湿に非効率である。
仕事が終われば一刻も早く休めばよい。明日に備えて十分な体力回復と精神的安らぎを確保すればよい。それなのに世間巷のネクタイを風になびかせるサラリーマン諸氏は、あえて徒労と二日酔いの道を選ぶ。非効率を仕事と同じで効率よくやろうとするがあまり、学生でもあまりやらないような泥酔をして体を壊してしまう。ストレスの発散にいいとみな口を揃えて言うが、その目的を達成しているサラリーマンは彼らの中でもほんのごく一部、わがままな上司かもっとわがままな平社員くらいのものであろう。
誰もが薄々それに気づいている。「今日も飲みか。やれやれ」と人々は退社時間を過ぎた後もひそかに溜め息をこぼしている。
非効率は人間が生きていく上で必要な何かである。そういう卓見を披露する諸氏もいるが、彼らもそういうことを言うときは、決まって非効率な飲み会の真っ只中である。結局、あまりあてにはならない。
冬になる一ヶ月も前から、もうすぐ冬だと思い続けてきた。歳を重ねるにつれ、季節よりも思いが先行するようになってきている。生き急いでいるわけでもないのに、季節の変わり目に対するこの期待感はなんだろう。
季節は生活にドラマを生む。人生に思い出を残す。そういうことか。
季節は生活にドラマを生む。人生に思い出を残す。そういうことか。
一朝一夕から漸々堂へ。しかし「漸々」と漢字を打ち出すのがまどろっこしいので、たたむ、とさらに改名しました。いよいよ意味はありません。
後年コアラの絵を見たときに、ああ、これが彼女の目だ、と思った。彼女は草食動物のような黒目がちの目をしていたのだ。可愛い目をしばたたかせて、丸いあごに手を当て、ううん、と考え込みながら話すのが、何とも好印象だった。私との会話を大事にしてくれている、と私は一人合点した。実際には、いついかなるときでも、いかなる相手に対しても、彼女は「ううん」と考え込みながら話していたのだが。性急な人をじらす子であった。はっきりとものを言わないので、勘ぐりの強い人には不正直だと思われた。私はしかし、言葉を選びながら宙を見つめる漆黒の瞳の奥にあるものを、信用した。
「誰かを好きになるだけじゃ、ううん、どうかな、幸せにはなれないと思いますよ」
私は苦笑いしながらコーヒーに口をつけた。内心少し傷ついたのだ。誰かを好きになる人は幸せだ、と私が言った直後のことだった。
「それは幸せの観点が違うよ」と私は言い返した。「幸せの観点が違う。いや、ぼくの言っているのはだね・・・ぼくの言いたいのは、誰も好きになれないよりは、誰かを好きになった方が、人生は面白い、と、この、面白い、という意味で、幸せだと言ったんだよ。うん。もちろん、一方的に好きになるだけじゃ幸せはつかめないさ」
「ううん」
彼女はコアラの黒目を左だけ少しゆがめた。花園に吹くほんのかすかなそよ風のようで、私は彼女の悩める表情を見るのがとても好きだった。
「どうなんでしょう。そういう意味でもないんだけど」
「そういう意味じゃないって?」
「いえ、その・・・・。幸せになるには、好きになる、ってだけじゃ足らないような気がするんです」
「ほう」
私は大袈裟に相槌を打った。「足らないって、何が?」
「ううん。わかんないです」
さらにしばらく考え込んでから、彼女は思考を諦めたように顔を上げて、私に向かって微笑んだ。「□□さんは、誰も女の人を好きになれないんですか」
いや、ちがう。そう答えようとして、私はとっさの言葉に逡巡した。私は沈黙した。彼女に感染されたように、うーん、と唸って頭を抱えた。
そのとき私は気づいたのだ。まったく偶然に。私は誰も好きになれないのではなく、現にそのとき目の前にいた彼女に強く心を惹かれていたにも関わらず、私は、まるで心すさんだ殺人鬼のように、好き、という言葉を心の辞書から失っていたのだと。私はいつの頃からか、好きなものを好きであると言えない人間になっていたのだと。言えないのではなく、言わない人間になっていたのだと。私は、誰かを好きであると言えるための努力すら怠ってしまっていたのだと。彼女がそういう意味ではない、と言っていたことも、おそらくこういう意味のことなんだろう、と。
私は有袋類のつぶらな瞳が注ぎかける好奇の視線を前にして、苦笑いしながら戸惑うばかりであった。
あれから三年が経った。彼女は職場が変わり遠くに行ってしまった。彼女の黒い瞳を見返しながら気づいた自分なりの結論は、不幸にも、いまだ変わらずにある。
「誰かを好きになるだけじゃ、ううん、どうかな、幸せにはなれないと思いますよ」
私は苦笑いしながらコーヒーに口をつけた。内心少し傷ついたのだ。誰かを好きになる人は幸せだ、と私が言った直後のことだった。
「それは幸せの観点が違うよ」と私は言い返した。「幸せの観点が違う。いや、ぼくの言っているのはだね・・・ぼくの言いたいのは、誰も好きになれないよりは、誰かを好きになった方が、人生は面白い、と、この、面白い、という意味で、幸せだと言ったんだよ。うん。もちろん、一方的に好きになるだけじゃ幸せはつかめないさ」
「ううん」
彼女はコアラの黒目を左だけ少しゆがめた。花園に吹くほんのかすかなそよ風のようで、私は彼女の悩める表情を見るのがとても好きだった。
「どうなんでしょう。そういう意味でもないんだけど」
「そういう意味じゃないって?」
「いえ、その・・・・。幸せになるには、好きになる、ってだけじゃ足らないような気がするんです」
「ほう」
私は大袈裟に相槌を打った。「足らないって、何が?」
「ううん。わかんないです」
さらにしばらく考え込んでから、彼女は思考を諦めたように顔を上げて、私に向かって微笑んだ。「□□さんは、誰も女の人を好きになれないんですか」
いや、ちがう。そう答えようとして、私はとっさの言葉に逡巡した。私は沈黙した。彼女に感染されたように、うーん、と唸って頭を抱えた。
そのとき私は気づいたのだ。まったく偶然に。私は誰も好きになれないのではなく、現にそのとき目の前にいた彼女に強く心を惹かれていたにも関わらず、私は、まるで心すさんだ殺人鬼のように、好き、という言葉を心の辞書から失っていたのだと。私はいつの頃からか、好きなものを好きであると言えない人間になっていたのだと。言えないのではなく、言わない人間になっていたのだと。私は、誰かを好きであると言えるための努力すら怠ってしまっていたのだと。彼女がそういう意味ではない、と言っていたことも、おそらくこういう意味のことなんだろう、と。
私は有袋類のつぶらな瞳が注ぎかける好奇の視線を前にして、苦笑いしながら戸惑うばかりであった。
あれから三年が経った。彼女は職場が変わり遠くに行ってしまった。彼女の黒い瞳を見返しながら気づいた自分なりの結論は、不幸にも、いまだ変わらずにある。
*
公園の噴水は
冬にはとても寒そうで
噴水を眺める人は
誰も遠巻きで
でも映画を見損なったカップルが
やっぱり今日は楽しかったと思えるために
世の醜さを嘆く詩人が
それでも美しいものもあると思い直すために
薄給に唾を吐いたサラリーマンが
ところでクリスマスには子どもたちに何を贈ろうかと
楽しい空想に耽るために
公園の噴水は
今日も寒空の下
ただただ仕事をしています
公園の噴水は
冬にはとても寒そうで
噴水を眺める人は
誰も遠巻きで
でも映画を見損なったカップルが
やっぱり今日は楽しかったと思えるために
世の醜さを嘆く詩人が
それでも美しいものもあると思い直すために
薄給に唾を吐いたサラリーマンが
ところでクリスマスには子どもたちに何を贈ろうかと
楽しい空想に耽るために
公園の噴水は
今日も寒空の下
ただただ仕事をしています
この冬、クリスマスに向けて、欲しいものがニ、三、心に湧きあがってくるような、そんな高揚感が欲しい。
(この冬何が欲しいか、というブログ練習用の問いに答えて)
(この冬何が欲しいか、というブログ練習用の問いに答えて)