た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

すすき川

2005年07月29日 | 短歌
すすき川 花火のけぶりの去ったあと
          友と語らう夢のあとかた
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市民J

2005年07月26日 | 習作:市民
 ここは───コンビニ。とすればオレの理性はまだ今日も正常なわけだ。正しい道を通って正しい目的地に正しい時間以内に到着するヘイボンナ小市民テキニチジョウセイカツ。いつもの店員。愛想のない女子大生。ダケドカワイイ。目許ガ。クリクリシテ表情ノナイ目許ガ。
 「いらっしゃいませこんにちは」
 いつもの挨拶。訓練されたマニュアル通りの決まり文句。真心の欠如したおざなりのワンフレーズ。
 何を買うのか。何も買うものはない。何もすることがないからここに来たのだから。でもおそらく牛乳パンとコーヒー牛乳。いつもの組み合わせ。牛乳パンとコーヒー牛乳。
 
 雑誌は見ない。見たいけど。あいつまたエロ本コーナーで立ち読みしてやがる。エロ本コーナーで立ち読みはオレもしたいけど、可愛いあの子がレジにいるのにどうしてエロ本コーナーで立ち読みなんかできるのだ? どういう神経をしているのだ? 蹴ってやろうか。後ろから。ぶよぶよの汗臭いオシリを。
 ここは? 缶ジュースのコーナー。オレに用はない。オレは500mlパックのコーヒー牛乳を飲むのだから、缶ジュースのコーナーに用はない。

 さすがに5月からは新しい仕事探さなくちゃいけないな。いつまでも親のすねをかじってるなんてあの子にばれてしまうぞいつもこの時刻にここに来てたら。あの人毎日牛乳パンとコーヒー牛乳買って行くけど仕事は何してるんだろう? 自宅で何か事務所を構えているのかしら? ひひ、ちょっとうちに寄ってみるかい。オレの入れたカフェオレはうまいよ。500mlパックのコーヒー牛乳なんて卒倒するほどうまいよ。でもオレは500mlパックのコーヒー牛乳の安っぽい甘さも好きなんだよ。ねえちゃん、誰でもときどきは安っぽい甘さに安心するんだよ。わかるか? わからなきゃオレが体で教えてやるよ。ひひひひ。

 5月から仕事探さなきゃ、オレほんと廃人になっちまうな。
 コーヒー牛乳と・・・牛乳パン。オレの分は必ずある。
 あの子、今日はオレだけに「がんばってください」とか言ってくれないかな。「がんばってください」って言ってくれるだけでいいんだけど。「がんばってください」。それでオレはがんばれるんだよ。がんばって、みんなに馬鹿にされても仕事続けることができるんだよ。こんどこそほんとに長続きさせるつもりで仕事しようって思うんだよ。わかって下さい。安っぽい励ましで充分なんだよ。畜生あのデブ、どうしてあの子がレジにいることわかってエロ本持っていきやがるんだ? ほんとにレジ打ちさせる気か? おい、本気か? 畜生、そのぶよぶよの青臭いシリをほんとに蹴飛ばすぞ! 蹴るぞこら! 止めてくれ。頼むよ。恥を知れよ。
 あの子も───あの子もなんで平気で袋詰めできるんだ? それエロ本だよ。ねえ。わかってるだろう? 眉が引き攣ってる? そうだよな。わかってる。緊張してるよ、ひそかに眉が。内心じゃすっごい嫌悪感に耐えてるんだよな。仕事だからか? 仕事だからって、何で君が助平デブ男の脂ぎった手で差し出されたエロ本を袋詰めしなきゃいけないんだ? ソレガ社会カ?
 「お待ちのお客様? どうぞ」
 お待ちのお客様。お待ちのお客様なんてこの子に言われてしまった。それマニュアルにないよね。あるのかな? でもありがとう。それだけでありがとう。
 「2点で210円になります」
 はい。210円ですね。がんばって、なんて言わなくていいです。もう充分ありがとう。210円あるけどごめんね、千円札で払わせて。
 「はい、1010円お預かりします」
 うん。だめだオレ。おどおどしてお辞儀なんかして。オレ客だろ?
 「800円のお返しになります。ありがとうございます」
 触った───あの子の爪がオレの乾燥して荒れたてのひらに触った。ごめんね。あとで拭いておいてね。オレちょっと皮膚病持ってるんだよ。エロ本と皮膚病には触っちゃ駄目だよ。
 どうせ手を洗うんだろうけど。あの子清潔好きだから、十分ごとに手を洗ってるもんな。そんなこともマニュアルにあるんだろうか。でもオレは今日一日手を洗わないよ。悪いけど。


 畜生、まぶしいなあ。梅雨の前に夏が来たんじゃないか? 五月に入ったら絶対仕事探さなきゃ。がんばれるかな。こんどこそ。

(おわり)
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音のぜいたく

2005年07月25日 | essay
 片手間に駄文を書き散らす人間として、芸術というものは少しは気になる。小説は死んだと言われる。死んだのかもね。絵画は行き詰ったと言われる。最近あまり観てませんから。音楽は───音楽は? 音楽は相変わらず盛んである。二十四時間何かしらのメロディーを耳にしていたいという人は割合多い。何より私が感心するのは、一般消費者の音に対する貪欲な追求である。よりよいスピーカーで、より高音質の共鳴を。スピーカーの木箱に数十万かけることはそんなに珍しいことではない。
 映像───視覚と比べ、聴覚に対する人々の姿勢というものは、ちと厳し過ぎやしないだろうか?

 こんな話を聞いたことがある。目は、まぶたを閉じれば何も見ないですむ。鼻だって、息をしなければ何も嗅がない。しかし耳は、それ自身の努力では音をシャットアウトすることが難しく、手で覆ったり耳栓をしたりしなければ外界と遮断できない。両手でぴったりと耳を塞いでも、それでもかすかな音が漏れ伝わる。
 つまり、音は人にとって元来とても暴力的なのだ。こちらの要求いかんに関わらず一方的に感覚野に入ってくる傍若無人なやからなのだ。日常生活においてそのように防ぎがたい侵食者だからこそ、どうせ耳に入るならよい音を、と人々は願うようになった。

 だとすると、私はちょと拍子抜けである。人々が良質の音を求めるのは、音というものがそもそも悪質だからなのか! と私が一人結論付けて嘆息しては、それはさすがに早急だろうか。しかし、いい音を求めるのは、豊かな理想の探求よりも貧困な現状の回避なのだとしたら。
 そもそもいい音とは?

 ううん、よくわからなくなったから音楽でも聴こう。
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2005年07月22日 | 写真とことば
その蒼はワタシの未練を奪った。
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意思疎通

2005年07月21日 | Weblog
意思疎通は多くの人にとって人生の大目標である。

それができただけですべてを満足してしまう人もいれば

それができないばかりにすべてを投げ出す人もいる。

裏返せば、人は悲しいかな、

それだけ他人という存在に揺さぶられる生き物なのだ。

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2005年07月20日 | 写真とことば
恋する人の庭で鈴虫が鳴く。
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限界と無限

2005年07月17日 | 写真とことば
狭き畦にも千の雲通りにき。

ここを以って後

我が名を阿是の二文字とす。

※「あぜ」と読み「あ、こりゃ」に非ず。
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ラップ・スクラップ2(なぜか関西弁)

2005年07月15日 | ラップ
 ♪
地球温暖化誰が呼んだんか
世界の環境破壊ほんまかい
川に蛍おらんほたらどんならん
蛙鳴かん田舎帰る気ならん
沖縄サンゴ死んだら大きな誤算
平和?へぇいいわねでもそれだけじゃ
                 ♪
   ヨーヨー
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極短編 橋の下 (1)

2005年07月12日 | 連続物語
 大雨が来た。橋の下で、彼はいよいよ空腹に苦しんだ。
 彼は一冊の小さな単行本を手にしていた。風前の灯火である命を暖めるものはもはやそれしかないかのように、両手でその本を胸に押し当てた。彼はもう三日間もろくなものを食べていない。屋根の下で寝なくなって三日目。雨の飛沫は容赦なく、体臭のきつい彼の服にも、度の強い眼鏡にも、やせこけた頬にも、胸元に抱きしめられた薄汚れた単行本にも飛び散った。彼は水洟を垂らした。それを震える手の甲で拭った。
 彼は死にたがっていた。どうせ死ぬのだから。生きていく希望はこの雨のように叩き落された! しかし彼が手っ取り早く寿命を縮める手段は、雨宿りしているこの橋の下にはなかった。目の前の河川は嘔吐物のように灰色に濁って増水していたが、そこに飛び込み泥水を飲み込んで死ぬことは、元来繊細な彼にはとても耐えられなかった。
 
 きれいな生き方というのはそうざらにないが、きれいな死に方はそれを選ぶことができる。
 
 何かの動く気配を感じ、彼は頭を巡らせた。セメントの柱を這っている虫。艶やかな背中。雨に濡れたゴキブリである。彼はひどく身震いした。

 どうせ自殺なんてできない。結局何とか生きようとするに決まっている。死にっこないのだ。そんなきれいな勇気は自分にはない───自分は、醜いほどに弱い。

 どこで落ちたものか、黄ばんだ発泡スチロールが濁流に翻弄され押し流されてきた。彼は度の強い眼鏡越しに、それを自分であるかのように凝視した。

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極短編 橋の下 (2)

2005年07月12日 | 連続物語
 彼は新任の国語教師だった。半年前まで。
教師になりたての頃、彼は理想に燃えていた。白墨のひんやりした、硬質と脆さを併せ持った触感が彼は好きだった。しかしもちろん相手は白墨ではなく、受け持ちのクラスである中学一年生34名である。34名。忘れたい、忘れ難い名前の数。安楽椅子のように体を沈める子。机の下で漫画をめくるのに忙しい子。机を叩く子。机を蹴る子。
 クラスは五月に崩壊した。砂の城が必ず崩壊するように、彼の教室の秩序は崩れ去った。彼は朝起きても通勤できない日が続いた。職員会議。PTA。子どもたちと大人たち、すべての周りの人々の、憐れみさえも含んだ、彼を非常に低く値踏みする視線。 
 彼は入院し、退院し、学校を辞め、無職になった。

 シンプル。何とシンプルなことか。入院、退院、辞職、無職。

は! はは!───彼は激しく咳き込んだ。彼は五月に入院して以来、喉の痛みが退いていない。

 理想の教育。
 ワタシハ理想ノ教育ヲ目指シタ。
 そして今は雨を避ける住処さえ逃げ出してきた。
 理想の───母に頼るわけにはいかない───せめて理想の、人生に対する、責任の取り方。
 
 彼は豪雨を見つめた。狭い川の向こう岸すらぼやけて見えた。土手の上の街は完全に彼から姿を消した。雨と川のうなる中、彼だけが立っていた。
 薄い本をいっそう強く胸に押し当て、彼は三歩前に出た。
 彼は全身を雨に打たれた。

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