た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

断片No.1

2013年08月29日 | 断片


 対面車両がすれ違いに困るほどの狭い路地ではあったが、秋の西日のいっぱいに差す中、五人の警官と、ぴかぴかの手錠を掛けられた一人の男が囲まれて歩む姿は、なかなかに荘厳であった。
 下宿屋の老婆は、竹ぼうきを杖代わりにあんぐりと口を開けて、その行進を眺めた。何しろ、彼女の人生でこれだけの数の警官を間近に見たことがなかったからだ。
 「捕まったんだよ! やれやれ、また何をしでかしたのさ!」
 彼女の話相手はおそらく足元を徘徊している三毛猫と思われたが、もちろん三毛猫は主人の呟きに答える気など毛頭ない。
 
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暑さもようやく一段落。

2013年08月27日 | 俳句
虫の音の 主を知りたき 午睡かな
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酷暑のあとで

2013年08月15日 | うた
雨が重い。

暑過ぎた夏を叩きつぶすように街の隅々に降り注ぐ。

執念深く、容赦なく

どこにも二本足で立つものが見当たらないほどに。

雷鳴。

また、雷鳴。

家々は銃殺された罪びとのように沈黙する。

ああ、最近、人間はどんどん小さくなっていくようだ。
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空き地

2013年08月05日 | うた
少年が白球を投げる。

虫の鳴く雑草を踏みしめて八月の陽射しを浴びて投げる。

汗まみれになり、日に焼けたぐちゃぐちゃの顔で、似たような顔の友人に向かって白球を投げる。

彼らは獣のように咆哮し、

壊れた玩具のように笑い、

向日葵のように元気である。

彼らは知らない。

空調のため締め切った二階の窓からこっそり彼らを眺めながら

昔ながらの健康な夏を思い出している大人がいることを。

彼らは知らない。

自分達のしていることが貴重であり、希少であり、

今の世の中では、

ほとんど文化保護活動に匹敵することを。

彼らは知らない。

そんなこと

知ったことかと

白球が炎天のスペクトルを放ちながら

とんでもない方向へと飛んでいく。




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