熊本にいる恩師が退官するという情報を得た。迷った末、週末、信州松本から肥後熊本に向かう。金曜日の夜十時まで仕事をし、十時半から夜行バスに乗って大阪へ。大阪から新幹線と特急列車を乗り継ぎ、土曜日午前11時に熊本着。さっそく挨拶したり飲んだり食べたり、最終講義を聞いたりなどして、同日夕方六時にはまた熊本を発ち、行きと反対のルートを辿り、翌日曜日朝六時に松本帰着。行きに十二時間、帰りに十二時間。現地の滞在時間およそ六時間。帰松後そのまま朝九時から夜の十時まで仕事をしたのだから、37歳はまだまだ若いんじゃないかと妙な自信がついた。
奇跡的にハプニングらしきものはほとんどなかったが、行きの博多駅で、新幹線から在来線に乗り継ぐとき、誤って(というより乗り継ぎの時間に焦って何も掲示を見ていなかったのだ)外に出る改札口で機械に切符を通してしまった。当然切符は機械に入ったまま出てこない。近くにいた駅員に、「すみません間違えました在来線に乗り換えるんです時間がないんです」といったようなことを赤い顔で早口にまくしたてたら、若い彼は「月に三度はこういう奴が出てくるんだな」という表情をして、機械を開け、八組くらい混ぜ合わされたトランプカードの中から一枚を探し出すように、私の切符を探し当ててくれた。発車時刻は迫るし、行き交う人は原始的な作業風景に興味を示して、こちらをじろじろ見てくるしで、冷や汗の三、四筋は流したと思う。間違えて機械に入れた切符を取り戻そうとすると、こんな苦労を味わうのだとつくづく認識した一コマであった。(つづく予定)