私は逃げようがないのです。と、花は答えた。
私はただ、ここで咲き続けるしかないのです。
あなた方に狂わされた日の光に照らされても
最後の水一滴が喉元から消えて去るまで
ただじっと微笑み続けるしかないのです。
それから静かに項垂れ、枯れ果てて
あなた方に踏まれる時を待つのです。
私は逃げようがないのです。と、花は答えた。
私はただ、ここで咲き続けるしかないのです。
あなた方に狂わされた日の光に照らされても
最後の水一滴が喉元から消えて去るまで
ただじっと微笑み続けるしかないのです。
それから静かに項垂れ、枯れ果てて
あなた方に踏まれる時を待つのです。
暑い。孤独だ。
五十になって、自分で選んだ自営業の道に孤独を感じるとは、今日が暑過ぎるせいだろう。
もっと同僚とふざけ合いたかった。
上司に叱られたり褒められたかった。
部下に恰好つけたかった。
いろいろな煩わしさを振り払ったがため、
発泡スチロールのようにすかすかな日々になってしまった。
やむを得ない。これも自分で選んだ道だ。
孤独と暑さのあまり事務所を飛び出し、近くの商店に飛び込む。
店という店が軒並みコンビニとモールに食いつぶされた中で、
辛うじて昔ながらの個人商店として続けている稀有な店だ。
百円のトマトをひっつかみ、金を払い、
事務所に帰ってかぶりつく。
ジュースのように分かり易い甘味はないが、旨い。かすかに大地の香りがする。
百円のトマトが、自分にはお似合いだ。
窓から七月の青い空を睨み、
少しだけ闘争心を取り戻す。
雨が重い。
今日という日の一つ一つを雨が黒く塗りつぶす。
青空に浮かぶ雲。
そよ風を感じる散歩。
賑わう街角。
あの人の笑顔。
雨はいつの間にか私の心の中にまで降りしきる。
もっと楽しかったころの記憶。
もっと自由だったはずの人生。
あの人の横顔。
窓辺の長い沈黙。
後悔と
孤独。
雨は無慈悲にすべてを冷たく濡らしていく。
それが雨の慈悲なのだ。
できないことがあることは
ほんとに不幸なことかしら
できないことがあることは
希望を持てることであり
できないことがあることは
明日を想うことである
できないことがあることは
世界のあらゆる人々と
できないことがあるだけに
今の自分の存在を
できうる限りの真心で
どちらも尊ぶことである
少女の伸ばした手は届かなかった
道端に落ちたテディベアに
強烈な閃光が駆け抜け地面が吹き飛び
世界を揺さぶる音が幼い命を切り刻んだ。
少女はただ拾いたかっただけなのに
毎晩眠るときキスしていた大切な友だちを
今日もママとの買い物で握りしめていた大切な友だちを
大混乱の中
逃げ惑う人とぶつかり地面に落としてしまった大切な友だちを
ママの手を離してまで
ただ拾いたかっただけなのに
人は誰しも
忘れ物をした地点がある
それは
夕日に染まる川原の無数のとんぼだったり
夏を過ごした奥座敷のにおいだったり
返さないままになったあの人の言葉だったり
誰しも
そこから歩んだ一本道を
もうさかのぼることさえ不可能な
そんな哀しい分岐点がある
だから人は
ときに不意に涙を流し
またときに
そのぬくもりに救われるのだ
万物は回転する
漆黒の時空を超えて
(つまり高速も低速もないわけだ)
哀しみと歴史は共鳴し
過ちと愛は重複する
波動は終わりと始まりを繋ぎ
引力はあなたを今に引き寄せる
だから、ほら
惨めなまでにちっぽけなこの私でも
生きる愉しみが尽きないじゃないか。
♪
むなしいなったら むなしいな
むなしいなったら むなしいな
夢を語れと言われて今日まで
騙(かた)った夢は数知れず
へとへと三十 気づけば四十
叶った夢はつゆ知れず
むなしいなったら むなしいな
むなしいなったら むなしいな
個人の自由と言われりゃそこまで
浅いご縁でごめんなさい
ネットあるからニートでいいと
こもるお前は五十歳
むなしいなったら むなしいな
むなしいなったら むなしいな
平和共存人類兄弟
実現いかんは運次第
土壇場で押すボタンを握る
政治家選びは金次第
むなしいなったら むなしいな
むなしいなったら むなしいな
道路伸ばして海埋め立てて
豊かな暮らしで熱中症
今さら止めれぬ経済成長
責任逃れは永田町
むなしいなったら むなしいな
むなしいなったら むなしいな
優しさだけでは生きていけぬと
他人(ひと)に言われりゃ気も荒(すさ)む
金なく友なく公園で鳴く
ハトにエサやり口ずさむ
むなしいなったら むなしいな
むなしいなったら むなしいな
♫
世界中の時計が止まった。 All the clocks have stopped.
人が消え、街が残った。 They gone, the town's left.
ショーウィンドーの片隅で In the window a flower withered
萎れた花が涙を落とした。 and her tear has just dropped.