た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
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佐渡へ渡る!(その3)

2024年10月15日 | 紀行文

 私はやたら道を外れたがる。そのくせ重度の方向音痴なので、道に迷ってばかりいる。この時も早く海岸が見たいがあまり、海に近づきそうな脇道へと不意にハンドルを切ってしまった。

 その道は、本当に何もない道であった。家など一軒も見当たらない。畑すらない。ただただ放置された茂みが続く。分厚い緑に圧倒されそうである。ひょっと恐竜が道に飛び出しても、さして違和感のない風景であった。佐渡の素顔をいきなり見せつけられた気がした。

 佐渡は想像以上に「島」だった。

 ようやく海に出たが、殺風景で、まったく人気のない海である。海岸線はすぐに行き止まりとなった。仕方なく、別な山道を通って正規のルートへ。時間のロスである。助手席は文句の一つも言いたいところだろうが、毎度のことなので黙っている。私は心の中で一人反省した。途中で道路工事の人に出会い、道を尋ねなければ、二日間、ただただ道に迷って終わったかも知れない。

 道路がようやく湾に出たところで、おしゃれなカフェの看板が目に留まった。

 旅のガイドブックにも載っている店である。よく手入れされた芝生や生け垣が見え、若者の行列ができている。そこだけ熱海かバリ島かと見まがうような洗練された空気が漂っていた。妻の機嫌も取らねばならず、立ち寄ることに。しばらく待たされた後、犬同伴でも入れるデッキに陣取ってパスタを食べた。

 海を一望できる高台に位置するが、海辺の田舎じみた部分は客の目に入らないよう、巧妙な高さで生け垣が植えられている。だから海原と遠景の対岸しか見えない。よくできている。よくできているが、なぜか落ち着かなかった。さきほど迷い込んだ鬱蒼とした森こそが、佐渡の素顔じゃないのかという声が頭の片隅に響いていた。

 妻は満足してオニオンスープを啜っている。犬はここが目的地かとうたた寝の準備に入っている。私は彼らを促し、再び車に乗り込んだ。

(つづく)

 


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