上京する。久しぶりの東京は縦に圧倒してくる。新宿に降り立ち、私は軽くめまいを覚える。
旧知の人何人かと再会し、語らいあう。
夜半に雨。酔い醒ましに、宿を借りた人と、ビニル傘を差しながら深夜営業の牛丼屋に向かう。
「そりゃ大変だね」と彼は私の近況報告を聞きながら相槌を打つ。
「大変です」と私は靴の中まで水が浸透してきたのを意識しながら答える。
近況報告とは、いつも大変なものなのだ。
「すごい雨だね」
「構いません」
構わないどころか、私のスーツは海に浸かったようにびしょ濡れであった。
それでも私は歩きたかった。一年に一度くらい、圧倒され、語らいあい、びしょ濡れになる必要がある。
翌日の夕刻になって、ようやく東京にも晴れ間が見えた。ビル街は赤みがかった輝きを取り戻した。私は済ませるべき用件もあり、都内を東奔西走して、くたくたに疲れた後であった。初めて見るように、私は街を眺めた。ああ、自分の中の大変な何かは、すでに少しずつ解決しているんだと、そのときようやく理解した。