「さむさむっ」なら構わない。「さむさむさむっ」ならくどいのはなぜか。
「ぜんぜん」なら普通である。「ぜんぜんぜん」ならとたんにしつこくなるのはなぜか。
無論、「ぜんぜん」は「全然」なので、同じ言葉の羅列ではない。それにしても、である。
今日、晴れた日曜の昼下がり、風の強い川沿いを歩いていてふとそう思った。
人間は繰り返しであれば許容する。繰り返しを繰り返されると感じた途端、人は激しい違和感を覚える。
ああ
川の流れはこんなに連綿と続いているというのに。
いやいやいやそんな大層な。
「ぜんぜん」なら普通である。「ぜんぜんぜん」ならとたんにしつこくなるのはなぜか。
無論、「ぜんぜん」は「全然」なので、同じ言葉の羅列ではない。それにしても、である。
今日、晴れた日曜の昼下がり、風の強い川沿いを歩いていてふとそう思った。
人間は繰り返しであれば許容する。繰り返しを繰り返されると感じた途端、人は激しい違和感を覚える。
ああ
川の流れはこんなに連綿と続いているというのに。
いやいやいやそんな大層な。
一見おでんにあるような普通のゆで卵。割ると黄身まで変色している。朝鮮人参に漬けたものか。
小さな中華料理屋で食べた。小さな中華料理屋にそんな珍奇な食べ物があるとは、どうせラーメンと餃子とチャーハンくらいだろうと高をくくっていたので、しかも百円という珍味を食するには思いがけない安さであるので、私は喜び勇んで注文して食べた。定食を食べ終わる頃にその珍なる一品の存在に気づいたので、わざわざご飯を一口分だけ残して、追加注文して食べた。
まあそうこうして朝鮮人参卵とやらを食べたわけだが、一口噛むと、ああ、腐っている、と直観した。しかし我慢して二口三口噛むうちに、私は自分の直観を打ち消した。これは腐っているのではない。そのような風味がしただけなのである。
世の中には不思議な食べ物がゴマンとあるもので、かびたチーズも正にそうだが、かびの臭いがしても美味しかったりする。この朝鮮人参卵も然り、腐った味が最初に口を襲ったが、よくよく噛むと美味であった。なにかだんだんとても美味しい気がしてきた。癖になりそうな予感がした。私の味覚がおかしいのか、その小さな中華料理屋がおかしいのか、あるいは何もおかしなことはないのか、いずれかであろう。
この記事は、以前、「にんにく卵」と間違えて表記して掲載した。どうして朝鮮人参とにんにくを間違えたかわからない。第一、臭いが全然違うではないか。私の思うに(思っている前に早く謝罪すべきである。ごめんなさい)、どうしてこのような勘違いが起こったかと言うと、その大きな原因はやはり、昨今巷を賑わす「にんにく卵黄」の存在にあるであろう。
しかし何よりも原因は、無論、私の粗忽に尽きるのであり、重ねてごめんなさい。
小さな中華料理屋で食べた。小さな中華料理屋にそんな珍奇な食べ物があるとは、どうせラーメンと餃子とチャーハンくらいだろうと高をくくっていたので、しかも百円という珍味を食するには思いがけない安さであるので、私は喜び勇んで注文して食べた。定食を食べ終わる頃にその珍なる一品の存在に気づいたので、わざわざご飯を一口分だけ残して、追加注文して食べた。
まあそうこうして朝鮮人参卵とやらを食べたわけだが、一口噛むと、ああ、腐っている、と直観した。しかし我慢して二口三口噛むうちに、私は自分の直観を打ち消した。これは腐っているのではない。そのような風味がしただけなのである。
世の中には不思議な食べ物がゴマンとあるもので、かびたチーズも正にそうだが、かびの臭いがしても美味しかったりする。この朝鮮人参卵も然り、腐った味が最初に口を襲ったが、よくよく噛むと美味であった。なにかだんだんとても美味しい気がしてきた。癖になりそうな予感がした。私の味覚がおかしいのか、その小さな中華料理屋がおかしいのか、あるいは何もおかしなことはないのか、いずれかであろう。
この記事は、以前、「にんにく卵」と間違えて表記して掲載した。どうして朝鮮人参とにんにくを間違えたかわからない。第一、臭いが全然違うではないか。私の思うに(思っている前に早く謝罪すべきである。ごめんなさい)、どうしてこのような勘違いが起こったかと言うと、その大きな原因はやはり、昨今巷を賑わす「にんにく卵黄」の存在にあるであろう。
しかし何よりも原因は、無論、私の粗忽に尽きるのであり、重ねてごめんなさい。
引越しのための労働歌
さあ引越しだ
働け働け
空は晴れても日は短い
すっかり空にしろ我が部屋
心を満たせ思い出の品々
それは捨てろこれも廃棄だ
いやいや持っていこう古いオルゴール
思い出が荷を重くしても
寒い夜にはそいつが私を温めてくれる
さあ引越しだ
働け働け
春は近づき梅が咲く
すっきりさらばだ我が部屋
友はこれからも末永く友
それは要らないこれも着ない
いやいや持っていこうあの日のマフラー
思い出が涙を誘っても
明日にはそいつが私を励ましてくれる
さあ引越しだ
働け働け
空は晴れても日は短い
すっかり空にしろ我が部屋
心を満たせ思い出の品々
それは捨てろこれも廃棄だ
いやいや持っていこう古いオルゴール
思い出が荷を重くしても
寒い夜にはそいつが私を温めてくれる
さあ引越しだ
働け働け
春は近づき梅が咲く
すっきりさらばだ我が部屋
友はこれからも末永く友
それは要らないこれも着ない
いやいや持っていこうあの日のマフラー
思い出が涙を誘っても
明日にはそいつが私を励ましてくれる
「彼氏は今は別にいいかな、て感じ」
その女は夜の公園を横切って自宅へと帰る道すがら、私に向かってつぶやいた。きらきらする目と純白のドレスが、街灯の頼りない灯りの下でも怪しいほどに光り輝いて見えた。危険な笑顔を持つ人だ、と私は思った。飲み屋で偶然知り合ったばかりのこの私に、その笑顔はとても危険だ。
誰が危険なのか?
「今は、もっと多くの人を愛したい」
彼女の笑顔は、えくぼがくっきりとふくよかな頬につく、とても愛らしい笑顔であった。彼女が笑うとき、あらゆる男の警戒心を打ち砕くかのように、美しく並んだ前歯がわずかに上唇の下に覗く。その前歯がなぜかとてもあだっぽく見えるである。
彼女の全身から出る、何人をも攪乱するこのオーラは、彼女自身、留めることができないのではないか。
事実、先ほどの飲み屋でも、彼女は一人の会社員と一人の社長に美しいと褒めちぎられ、彼女の純白のドレスのせいで飲み屋は日頃ありえないほど男性客で混雑した。
「だれでもいいから」
───そんなこと言っちゃ駄目だよ。
彼女はちょっと驚いた風であったが、すぐに、今までよりはオーラの少ない、どこかおざなりな、しかし自然な笑顔を私に向けた。
「ここが家なの」
そうか、と私は小さく答えた。ずいぶん大きな邸宅だった。
なぜかとても切ない気持ちに、私はなった。ハーフコートの立ち襟にあごをうずめた。
彼女は立ち止まり、ぺこりと私に頭を下げ、ありがとう、おやすみなさい、と言い残して家に入っていった。おやすみ、と私も、声を返した。
その女は夜の公園を横切って自宅へと帰る道すがら、私に向かってつぶやいた。きらきらする目と純白のドレスが、街灯の頼りない灯りの下でも怪しいほどに光り輝いて見えた。危険な笑顔を持つ人だ、と私は思った。飲み屋で偶然知り合ったばかりのこの私に、その笑顔はとても危険だ。
誰が危険なのか?
「今は、もっと多くの人を愛したい」
彼女の笑顔は、えくぼがくっきりとふくよかな頬につく、とても愛らしい笑顔であった。彼女が笑うとき、あらゆる男の警戒心を打ち砕くかのように、美しく並んだ前歯がわずかに上唇の下に覗く。その前歯がなぜかとてもあだっぽく見えるである。
彼女の全身から出る、何人をも攪乱するこのオーラは、彼女自身、留めることができないのではないか。
事実、先ほどの飲み屋でも、彼女は一人の会社員と一人の社長に美しいと褒めちぎられ、彼女の純白のドレスのせいで飲み屋は日頃ありえないほど男性客で混雑した。
「だれでもいいから」
───そんなこと言っちゃ駄目だよ。
彼女はちょっと驚いた風であったが、すぐに、今までよりはオーラの少ない、どこかおざなりな、しかし自然な笑顔を私に向けた。
「ここが家なの」
そうか、と私は小さく答えた。ずいぶん大きな邸宅だった。
なぜかとても切ない気持ちに、私はなった。ハーフコートの立ち襟にあごをうずめた。
彼女は立ち止まり、ぺこりと私に頭を下げ、ありがとう、おやすみなさい、と言い残して家に入っていった。おやすみ、と私も、声を返した。