無人駅で素敵な出会いをするには。
知る人ぞ知る、出会いの場所として無人駅ほどふさわしいところはない。無人駅は出会いのためにあり、出会いは無人駅のためにある。と言えばもちろん言い過ぎであるが、しかしもし、あなたが映画監督であるなら、一度は無人駅を舞台にしたラブ・ストーリーを撮ろうと考えるはずである。あなたが詩人であるなら、無人駅での出会いと別れを数行の言の葉に託したいと試みるはずである。あなたが旅番組のリポーターであるなら、無人駅で降り立った瞬間、何かを期待してマイク片手にきょろきょろするはずである・・・リポーターだったら、どこでもきょろきょろするかも知れないが。
セーラー服姿の女子高生が一人、塗料の禿げたベンチに座って電車を待っている。
可憐な女の子である。
カン、カン、と遮断機の降りる音がして、誰一人通らない踏切が遮断される。急行列車が轟音を立てて疾走する。急行列車の去った後、列車の残したつむじ風に襟元と髪の毛を巻き上げられて、女子高生はやっぱりベンチに一人座ったままである。
空は抜けるように青い。山々は迫りくるほどに緑である。蝉の大合唱が、水田や曲がりくねった田舎道に沁みていく。
踏切を渡って、バッグパックを背負った学生風の男がやって来た。逞しく日焼けした肌。旅人らしい遠い目線。
男はベンチの横にバッグを降ろし、立ったまま汗を拭う。構内は彼ら二人だけである。
「すみません」
「あ、はい」
「ここに次に停まる電車は、何時になりますか」
女子高生は男の逞しい体にどぎまぎしながら視線をさまよわせる。
「あの、どちらに行かれるんですか」
男は一瞬問いの意味がわからなかったのか、遠い山を見やって、それから笑顔を彼女に向ける。
「いや、次に停まる電車が向かう方向へ」
女子高生はその答えを聞き、なぜか無性に切なくなり、胸元の赤いスカーフを握りしめる。
・・・ああ、これはもう立派な出会いである。ただしこういう出会いができるのも、二人がスマホとか携帯とかに顔を埋めてない限りにおいてである。そんなものが両者の右手にあれば、女子学生は決して右手から顔を上げることはないし、学生も問いかけるのを諦め、ネットで駅ナビでも検索し始めるだろう。
ね、だからあんまり便利な道具も考えものですよ。