た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

諭吉forever

2015年11月26日 | 断片
天は人の先に道を作らず 道の後に人を作らず と言へり
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忘れたころのヒロコちゃん。

2015年11月23日 | 断片
枯れ葉がさらに朽ち枯れる、晩秋ですね。

HP『火炎少女ヒロコ』に、第三話を掲載しました。
よろしければちょっとだけでも見て行ってくださいな。

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狂歌一首

2015年11月21日 | 短歌
  こうのとり   運ばぬものは   数知れず


            犠牲となりし   生まれえぬ子ら 
   
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エレベーターの神様

2015年11月19日 | 短編

 

(吉田こういち君の独り言) 保科さんが来た。まずいな。さっき会議でぼろかすに言ったばかりなのに。エレベーター、まだ来ないかな。怒ってるだろうな、俺のこと。会議中泣きそうだったもん。それとも泣いたのかな? でもこの子が悪いんだよ。どんくさ過ぎるんだよ、やることすべてが。まだ来ないのかエレベーター。このエレベーターもどんくさいんだよな。うちの市役所はどんくさいもので満ちているな。どうしてこの子、いつも抱えきれないほどの書類を抱きしめているんだろう。そこから間違ってるんだけど。今どき両手に山盛りの書類なんて、能率の悪い仕事をしてますって白状してるようなもんじゃないか。でもまあ、ちょっと赤い顔して、一生懸命書類を抱えている姿がとっても似合うって言えば似合うんだけどな。そういうのが似合う子だよな。おいおい、エレベーターのやつ、一階で寝込んでるんじゃないのか。あ、付箋紙が落ちた。拾ってやるか。

 

 「あ、あの、あの、すみません。ありがとうございます」

 「いいえ。先ほどはどうも」

 「あ、こちらこそいろいろ、あの、ご指導ありがとうございます」

   「ご指導ね。ご指導か。ご指導ついでだけど、ちょっと荷物多すぎない?」

 「あ、これですか、すみません。でもこれ全部必要な書類なんです」

 「へえ。付箋紙も一束必要なんだ」

 

(保科かおりさんの独り言) やな人。ほんとやな人。まだ私を攻撃し足らないのね。イヤミばっかり言って、にやにや笑って。いつもイヤミ言ってにやけてるんだから。私にばっかり。私に気があるのかしら。多分そうね。自分が格好いいと思ってるから、いじめてやったほうがむしろ自分に惚れるだろうくらいに思ってるのよ。おあいにく様。確かにちょっとは格好いいかもしれないけど、心が醜いんです。心が醜い人は駄目なんです。ほんと悔しい。そりゃ私がいけないんだけど、でもあんなに言うことないじゃない。そりゃ私はまだ仕事ができませんよ。無駄な動きが多いですよ。勘違いばっかりですよ、確かに。じゃあどうすりゃいいの? 脳ミソ取り出して洗浄すりゃいいの? エレベーター遅いなあ。あ、やっと来た。

 

            砂の噛んでいる音を立ててエレベーターの厚い扉が開き、どやどやと四人の男が降りた。三人はスーツ姿で、一人はくたびれたジャンパーを着た浅黒い男である。みな、つまらぬ場所からつまらぬ場所へ移動するような表情をしている。彼らをやり過ごしてから吉田君と保科さんがエレベーターに乗りこむと、他に乗る者は誰もいなかった。エレベーターの扉は再び砂の噛む音を立てて閉じた。

 

(吉田こういち君の独り言) おいおい、保科ちゃんと二人っきりかい。まいったな。気まずいでしょ、いくらなんでもこれは。なんだかこっちまで緊張してくるな。さっきの言い過ぎのお詫びにお茶にでも誘ってみるか。案外喜んだりして。でも絶対に断るタイプだよな。

 

  「また付箋紙落ちそうだよ」

 「あ、大丈夫です。すみません」

 「ほらほら、ペンが落ちたよ」

 「あ、すみません、すみません。大丈夫です。自分で拾えます」

 「いいよ。かがまない方がいい。ほらまた付箋紙が落ちた」

 

 (保科かおりさんの独り言) 笑われてる! 笑われてるわ! 悔しい。私が間抜けなのよ。私っていつでも間抜けなんだから。コアラみたいに荷物抱えこんで。でもそんなに笑うことないじゃん。吉田さん最低。人がうろたえるのを見て喜ぶなんて、人間として最低。四階まだ? このエレベーターも最低! あれ?

 

            鉄骨を二三本折るような音を立てて、エレベーターは急停止した。溜息のような音を漏らし、電気もすべて消え、機械音が止んだ。扉が開くわけでもない。まるではるか昔から外界と隔たった空気を密かに保管してきた隔離倉庫のように、指先も見えないほどの真っ暗闇に戸惑う若い男女を納め、エレベーターは固く沈黙した。  

 

 「どう・・・どうしちゃったんでしょうか」

 「止まった」

 「壊れたんですか」

 「停電かな」

 「やだ、どうしましょう」

 「さすが市役所のエレベーターだ。人を閉じ込めておいて、アナウンスの一つもない」

 「怖い」

 「大丈夫だよ。知らないけど」

 

            沈黙。心なしか蒸し暑い。

 

 「保科さん」

 「あ、はい」

 「大丈夫だね」

 「はい。あ、やだ、いろいろ落としちゃった」

 「書類も落ちたね」

 「はい。大丈夫です。拾います」

 「今無理して拾わない方がいい。止めなさい。どうせ見えないよ。待っていれば、すぐ明かりが戻る」

 「あ、はい。でも」

 「保科さん」

          「はい」

                「ここって、監視カメラがついてるのかな」

 「え? ええっと…何にも光ってないし、ついてないんじゃないでしょうか」

 「ついてないんだ。さすが、我らが市役所のエレベーターだ」

 「はい、市役所のエレベーターですから」

 

          二人は暗闇の中でくすくすと笑い合った。

 

 (吉田こういち君の独り言) おい、今がチャンスだろ? 今しかないだろ! 完璧なシチュエーションじゃないか。抱きしめてキスしてしまえ! 保科さん怒るかなあ。怒るだろうなあ。でもすべてがどさくさに紛れてってわけでもないんだけどな、俺としては。監視カメラ、本当についてないのかなあ。

 

 (保科かおりさんの独り言) どうしよう。危険すぎないこの状況? 吉田さんと暗い密室に二人きりなんて・・・。京子ちゃんに話したら羨ましがるかも知れないけど、私は・・・私はどうしよう? もし不意に抱きしめられたりしたら! ばっかじゃない、私。私、どうかしてる。あ、もう! やだ、全部落としちゃった。ここ、監視カメラないって本当?

 

  「保科さん」

 「はい」

 「君は、君のやり方でやればいい」

 「え?」

 

 (吉田こういち君の独り言) 何言ってんだ俺?

 

  「保科さん」

 「は・・・はい」

 「全部落としたね」

 「あ、はい。見えましたか」

 「見えてないけどね。拾おう」

 「え、でも、見えません」

 「慎重に手で探れば、わかるよ」

 

    ・・・・・・・・ 

 

  「これで書類は全部かな。ええと、手を出してごらん。そう。受け取ったね」

 「あ、あ、はい。ありがとうございます」

 「それからペンと、ペンは・・・もう一つ向こうに転がったような・・・あった、ペンは全部で三本だね?」

 「あ、はい」

 「書類を抱えたまま、丸めて突き出して。そう。ここに滑らせて入れるからね。落ちないようによろしく。まだ動かないで。それと・・・あった、付箋紙だ。これで全部だろう。これもここに入れておくからね」

 「あ、あの、ほんとに、ほんとにありがとうございます」

 「うん」

 

(吉田こういち君の独り言) さあ、どうする俺?

 

(保科かおりさんの独り言) やだ・・・私・・・どうしよう? 

 

 「保科さん」

 「はい」

 

            唐突に電気がついた。がくん、と揺れたかと思うと、エレベーターが一段登った。中にいた二人はよろめいたが、保科さんも今度は何一つ落とさなかった。ちん、とまるで何事もなかったかのように鈴の音が鳴り、扉が開いた。心配というよりは好奇の目を光らせたスーツ姿の男女たちが十人ほども、身を乗り出すようにして、扉の向こうに寄り集まっていた。

          

 「助かったね」

 「・・・助かりました」

 「お疲れさま」

 「お疲れさまです」

 

         この話はここで終わる。終わるのだから仕方ない。エレベーターを出てきた二人に浴びせられた質問や野次、冷やかしの数々は、ここに記すほどのものではない。(おわり)

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ヨノナカトソト

2015年11月11日 | うた

  「ま、無理だね。やってみればいい」

 

  人は壁のある生活になれている。

  守られ、自らを閉じ込めている。

  壁はときに名前を変える。

  『世の中』であったり

  『自分』であったり

  『人並み』であったり

  『この社会』であったり。

 

  「変わんないね。どうせ、何にも変わんない」

 

  壁の向こうも呼ばれ方は様々。

  『他人』であったり

  『政府』であったり

  『こんな時代』であったり

  そして

  『世の中』であったり。

 

  「ま、仕方ねえだろ。世の中が悪いんだ」

 

  人は壁のある生活になれている。

  いつか、その正体を見失うほどに。

 

  

 

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故郷へ

2015年11月02日 | essay

   法事で郷里の島根に帰省。往路十時間、一泊。復路は出雲大社や鳥取砂丘にたっぷり寄り道して十五時間。法事があるからできたことであり、法事があるからこそ楽しめた日常からの逸脱であった。実家では、年々集まることの難しくなった親族連中のなか、それでも集まることのできた少人数で鍋を囲み、やんややんやと語り尽くした。

   能率だけで片付くものなら、世の中、法事も行事も要らないのである。

   枕を借りた翌朝は霜が降りるほど冷え込んだ。晩秋。

 

 ※写真は出雲大社

  

  

  

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