た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

中房温泉

2019年06月20日 | 写真とことば

 

 中房(なかぶさ)温泉はいい温泉である。1400メートルばかりも山道を登ったところにあり、そこからさらに燕岳(つばくろだけ)へ登山する入口になっているのだから、山の中の中である。渓谷に蝉時雨が響き渡り、野猿が道端でお迎えしようかというような奥地である。新緑に目を潤し、清涼な空気に喉を洗う。衣服を脱ぎ捨てて露天風呂に入れば、巨石が取り囲む湯船に、透明だが硫黄臭のある温泉がなみなみと溢れている。湯船は二つ、熱いのとぬるいのがある。まずは熱い方に入る。湯がじんじんと体中のツボを刺してくるが、しばらく入っているうちに熱さも落ち着き、柔らかく体を包んでくれるのを感じる。見上げれば青空に松。これで元気が出てこないはずはない。元気は元気だが、なんともゆったりとした元気である。隣のぬるいのに移れば、効能ある泉水に全身を浸らせているという感覚はさらに増す。このまましばらく眠ってもいいかなと思う。もちろん眠るわけにはいかない。

 湯上りには前庭の長椅子に座り、呆然とそよ風に当たる。なんだか来る途中に見た猿になったような気分である。あいつらは文明を眺めてぼうとしていた。自分は自然をながめながらぼうとしている。そんなに大差はない。

 またいつか、猿になりにここに来よう。

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戸隠一景

2019年06月17日 | 写真とことば

 

   雨脚消えゆく 水面に向かひて 忽然と気づく愛もある。

 

 

※写真は小鳥ヶ池

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本末転倒

2019年06月11日 | 写真とことば

 

 日曜日は登山、が続いている。

 霧ヶ峰の隣にある鷲が峰を目指したら、霧が深くて断念。売店の人に尋ねたら、これくらいの霧は日常茶飯事だそうだ。「何しろ霧が峰ですからね」と、さも当たり前のことのように言われた。仕方なく下山して諏訪湖を一周する。一周できるというのは噂で聞いていた。初めてやったが、スタートからゴールまでの全行程を常に眺めながら歩くのはなかなか辛いものである。

 そもそも今回の目的は、何を隠そう買ったばかりの携帯コンロでラーメンを作ることにあった。その思い止みがたく、帰路牛伏寺の階段工に立ち寄り、誰も訪れない川岸で試す。刻々と悪くなる空模様を気にしながら慌てて作ったので、噴きこぼれもあったが、なんとか無事完成した。山頂でというわけにはいかなかったが、旨かった。

 食べたら早々に退散。

 

 

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底知れぬ闇を抱いて

2019年06月04日 | 悲しみの表明

 

無差別殺人とか大量殺人とか

 

彼は

 

誰と語り合う言葉を持っていたのだろう

 

誰がそれに耳を傾けてくれたのだろう

 

いつから

 

それらをすべて諦めたのだろう

 

・・・・・・・・・

 

何が

 

彼の言葉を少しずつ奪っていったのか

 

誰に向けて最後、彼は語りかけたのか

 

いつから

 

いつからこんなことになってしまったのか。

 

 

 

いつから。

 

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