見つめる、という行為それ自体が、その女性にとっては一つの駆け引きになっている。あまり幸せな家庭に育ったのではないかもしれない。何気ない日常の眼差しの中にさえ、警戒や防御や誘惑や攻撃や、そしてなによりほとんど無意識に見境なく発してしまう愛情豊かな女性性─────それを、この人は幼いころから、自分の欲望のためよりは、むしろ自分の身を守るために使用してきたのだろう、いかなるときにも、いかなる「他人」に対しても─────といったものが、涙のように溢れている。大きな眼である。不遜でどこか何かを諦めたような目つきである。ほとんど正視できない魅力である。瞬きするたびに、もう見つめるのをやめそうな気配がするのだが、彼女はなかなかどうして見つめることを止めない。
喫茶店で私は彼女と向かい合わせに腰掛けた。我々二人の間は、実際には二つのテーブルと汚らしく禿げ上がった親父のうしろ頭と競馬新聞と紫煙によって隔てられていたのだが、それでも彼女は頬杖をだらしなく突いたまま、しばらく私を見つめていた。瞬きを何度かした。それから面白くもなさそうに飲み干したアイスコーヒーのストローに顔を戻した。
私は席を立った。支払いをするため彼女のテーブルのそばを通り過ぎたとき、彼女が遠目よりもふくよかな体をしていることに、私は気づいた。その上小柄であることにも気づいた。彼女は老婆のように背を丸めていた。その姿勢がなぜか、支払いを済ませてその店を出たのちまでずっと、私には、彼女にとても良く似合っているように思われた。
喫茶店で私は彼女と向かい合わせに腰掛けた。我々二人の間は、実際には二つのテーブルと汚らしく禿げ上がった親父のうしろ頭と競馬新聞と紫煙によって隔てられていたのだが、それでも彼女は頬杖をだらしなく突いたまま、しばらく私を見つめていた。瞬きを何度かした。それから面白くもなさそうに飲み干したアイスコーヒーのストローに顔を戻した。
私は席を立った。支払いをするため彼女のテーブルのそばを通り過ぎたとき、彼女が遠目よりもふくよかな体をしていることに、私は気づいた。その上小柄であることにも気づいた。彼女は老婆のように背を丸めていた。その姿勢がなぜか、支払いを済ませてその店を出たのちまでずっと、私には、彼女にとても良く似合っているように思われた。