Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症の予後に影響を及ぼす症候と自律神経機能検査

2016年01月25日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症(MSA)は運動症状(パーキンソニズム,小脳性運動失調)に加え,自律神経障害を認める神経変性疾患である.生命予後に対し,種々の臨床症候(病型,発症年齢,性別,初期の自律神経障害)が及ぼす影響については様々な報告が存在する.そのなかでも,自律神経障害が予後を予測する因子として重要であるとする報告が多い(新潟大学Tada et al. 2007など).

MSAの生命予後に影響を及ぼす因子を明らかにする目的で,米国Mayo Clinicにおける多数例での検討がBrain誌に報告されているのでご紹介したい.本研究は後方視的研究(1998年か ら2012年)であるものの,事前に定められた自律神経機能検査が全例に対し行なわた点で,非常に素晴らしい研究といえる.

症例は臨床診断がMSAである685名で,うち594名がGilman分類のprobable MSA,残り91名がpossible MSAである.病型としてはMSA-Pが多く,430名(63%)を占めていた.発症年齢はMSA-CがMSA-Pより有意に若かった(58.4歳VS 62.3歳;P < 0.001).発症から死亡までの期間(中央値)は7.51年(95%信頼区間7.18~7.78年)で,診断から死亡までは3.33年(2.92~3.59年)であった.初発症状は,運動症状(61%),自律神経障害(28%),両者の合併(11%)の順に多かった.

注目の生命予後に影響をおよぼす因子に関しては,病型は生存期間に影響しなかった(P = 0.232). 初発症状も影響しなかった.しかし,単変量解析の結果, 複数の自律神経障害や自律神経機能検査異常が予後不良を示唆することが分かった.さらに多変量解析にて確認したところ,以下の6項目が生命予後不良を示す因子と考えられた(ハザード比の大きい順に示す:図1).

1. 発症3年以内の転倒(ハザード比2.31,P < 0.0001)
2. 膀胱症状;定義は尿意切迫,頻尿,尿失禁である(ハザード比1.96,P < 0.0001)
3. 発症3年以内の尿道カテーテル留置(ハザード比1.67,P < 0.003)
4. 発症1年以内の起立性調節障害;定義は起立時のめまい感,視覚異常,吐き気,脱力,疲労,coat-hanger painである(ハザード比1.29,P < 0.014)
5. composite autonomic severity score(CASS*)で評価した自律神経機能障害の重症度(ハザード比1.07,P < 0.0023)
6. 高齢発症(ハザード比1.02,P = 0.001)

*ちなみにCASSは,発汗ドメイン(0-3),心臓迷走神経ドメイン(0-3),アドレナリン作動性ドメイン(0-4)の合計(0-10)で,点数が高いほど重症の自律神経機能障害を示している(Low RA et al. Mayo Clin Proc 68; 748-752, 1993).
興味深いことは2-5が自律神経障害に関係した項目であることである.1についての詳細な考察はないが,非常に興味深いものと言える.

本研究の限界としては後方視的研究であることがあげられる.近年,MSAの臨床診断は必ずしも容易でないという報告があるが,これに対しては36例で病理診断が行われ,全例がMSAであったという結果を持って,臨床診断に大きな問題はなかろうと述べている.

以上,本研究は,臨床症候によりMSAの生命予後を推定することが可能とした点で意義のある論文と考えられた.とくに自律神経機能検査は,MSAの診断や,自律神経障害に伴う症状に対する早期からの対応を可能にするだけではなく,生命予後を予測する因子としても重要であることが示された.

最後に2名の米国の神経内科医の写真を示す.左がGeorge Milton Shy(1919-67),右がGlenn Albert Drager(1917-67)である.論文に対する査読者のコメントのなかで,この二人が50年以上も前に,臨床病理学的に単一の疾患であると報告していることに触れている(Arch Neurol 2; 511-527, 1960).Gilman分類において,かつての線条体黒質変性症(SND),オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA),Shy-Drager症候群はMSA-PとMSA-Cのみに分類され,このShy-Drager症候群がなくなってしまったが,とくに本邦においてはSDSの分類をなくしてしまったことは好ましくないのではないかという議論があった.海外からも"MSA-A"として,自律神経障害を主徴とするMSAについて検討したケースシリーズも若干ながら報告されている.個人的にも,2007年のTadaらの報告以来,この病型を独立させたほうが良いように考えてきたが,その是非はここではこれ以上議論しないまでも,ハザード比や確認のしやすさから,<font color="blue">「発症3年以内の転倒」「膀胱症状」「発症3年以内の尿道カテーテル留置」「発症1年以内の起立性調節障害」の4項目については,今後,十分に確認すべきものと考えられた.



Clinical features and autonomic testing predict survival in multiple system atrophy. Brain. 138:3623-3631, 2015. 
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