Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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アルツハイマー病の発症リスクは父と母のいずれから引き継ぐのか?

2024年06月18日 | 認知症
遅発性アルツハイマー病(AD)の発症において,家族歴は高齢に次ぐ最大の危険因子と言われています.しかし父と母の認知機能がどのように影響を与えるかは不明でした.JAMA Neurology誌に,記憶障害のない高齢者におけるアミロイドβの蓄積が,父と母のいずれの記憶障害に影響を受けるのかを検討した米国からの研究が掲載されています.

方法は抗体療法によるAD発症予防を目的として行われたA4試験に参加した4413人(平均年齢71歳,女性59.3%)のデータを用いています.1554人が両親ともに記憶障害なし,632人が父親のみ,1772人が母親のみ,455人が両親ともに記憶障害がありと自己申告しました.参加者は全例,ベースライン時に認知機能は正常でした.アミロイドPETを施行し,小脳を参照領域として関心領域値を算出するSUVR(平均標準化取り込み値比)を計算しています.

さて結果ですが,SUVRで測定したアミロイドPET負荷の平均値は,父母ともに記憶障害がある人(1.12)または母のみの既往がある人(1.10)では,父のみの既往がある人または家族歴がない人(いずれも1.08)に比べて有意に高いことが分かりました.また親の発症時年齢を調べたところ,父親では65歳未満の発症のみがアミロイドβ増加と関連していましたが,母親ではどの年齢でも関連していました.個人的には親からのリスクに性差があるのは意外でした.

以上のように母親の影響が強いメカニズムとしては,生物学的および社会的な可能性が考察されています.前者は,ADの母からの伝播は,母体のX染色体,ミトコンドリア,特定のゲノムインプリンティングを子供に伝えることに関連している可能性があります(図).一方の社会的要因としては,ADを発症した女性の世代は,男性に比べて正式な教育を受ける機会が少ないことから,脳の予備能力が低下した可能性があります.



また研究の限界としては,両親の既往歴は自己申告であり,AD以外の認知機能障害が含まれている可能性が高いこと,また横断研究でADの経時的変化について不明であることが挙げられます.あと「アミロイドβの蓄積=AD」と考えている点を問題とする意見もあるかと思います.

Seto M, et al. Parental History of Memory Impairment and β-Amyloid in Cognitively Unimpaired Older Adults. JAMA Neurol. 2024 Jun 17.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2024.1763

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