CANVAS(cerebellar ataxia, neuropathy, and bilateral vestibular areflexia syndrome)に認める特徴的なひきつるような慢性咳嗽(smasmodic cough)の機序はよく分かっていませんでした.しばらく前に文献1の研究が報告され,咳の原因としてGERDや食道の蠕動障害(esophageal dysmotility)が関与している可能性が示されました.これを証明するために食道マノメトリーや24時間食道内pH確認を行っています.ただし本当にこれだけが理由かと個人的には思っていました.
文献1.Palones E, et al. J Neurol. 2024 Mar;271(3):1204-1212.(doi.org/10.1007/s00415-023-12001-9)
もうひとつ興味深い総説がフランスから発表されました.図1ではまずCANVASにおける慢性咳嗽の有病率がこの10年間の論文で徐々に増加していることを示しています.おそらく慢性咳嗽が認知されてきたことが一番の要因と考えられます.
つぎに「cough hypersensitivity syndrome(CSS)」の概念を紹介しています(表1).これは通常では咳を引き起こさないような軽度の刺激に対して,過剰な咳反射が生じる状態です.CHSは原因が明らかでない慢性咳患者に見られることが多く,図2に述べる神経機構が関与していると推察されています.つまり咳嗽を来す神経過敏性は,主に後根神経節や迷走神経,延髄の孤束核・傍三叉神経核などの変性により引き起こされるというものです.
表1.Cough hypersensitivity syndromeの特徴
1)喉や胸の上部の易刺激性: 咽頭,喉頭,上気道の異常感覚
2)非咳嗽性刺激による咳の誘発(allotussia): 例として,話すこと,笑うこと
3)吸入刺激への咳感受性の増加およびトリガーの増加(hypertussia):
4)制御が難しい咳発作
5)トリガー要因:機械的刺激(歌う,話す,笑う,深呼吸),温度変化(冷たい空気),化学的刺激(エアロゾル,香り,臭い),仰向けになること,食事
1. 後根神経節
後根神経節が萎縮し,感覚神経細胞が傷害される(neuronopathy).これにより神経が過敏になり,通常では咳を引き起こさない程度の刺激でも強く反応する.
2. 迷走神経
迷走神経の障害により,喉頭や気道の粘膜に終止するC線維(化学感受性侵害受容器)やAδ線維(低閾値機械受容器)が,刺激に対して過敏に反応する.
3. 孤束核および傍三叉神経核
迷走神経からの感覚信号が処理される延髄の神経核である.迷走神経からの感覚信号入力に過敏になり,信号処理に異常をきたすことで,わずかな刺激でも強い咳反射が誘発される.
治療については,GABAアナログ(抑制性神経伝達物質)やオピオイドが効果的である可能性が記載されています.また,P2X3アンタゴニスト(感覚神経終末に存在するATPに反応する受容体で,咳反射の発動に関与する)の効果についても言及されていますが,その具体的な効果はまだ不明です.脳神経科内科医と呼吸器科医の協力が重要と書かれています.
文献2.Guilleminault L, et al. Cerebellar ataxia, neuropathy and vestibular areflexia syndrome: a neurogenic cough prototype. ERJ Open Res. 2024 Jul 29;10(4):00024-2024.(doi.org/10.1183/23120541.00024-2024)
文献1.Palones E, et al. J Neurol. 2024 Mar;271(3):1204-1212.(doi.org/10.1007/s00415-023-12001-9)
もうひとつ興味深い総説がフランスから発表されました.図1ではまずCANVASにおける慢性咳嗽の有病率がこの10年間の論文で徐々に増加していることを示しています.おそらく慢性咳嗽が認知されてきたことが一番の要因と考えられます.
つぎに「cough hypersensitivity syndrome(CSS)」の概念を紹介しています(表1).これは通常では咳を引き起こさないような軽度の刺激に対して,過剰な咳反射が生じる状態です.CHSは原因が明らかでない慢性咳患者に見られることが多く,図2に述べる神経機構が関与していると推察されています.つまり咳嗽を来す神経過敏性は,主に後根神経節や迷走神経,延髄の孤束核・傍三叉神経核などの変性により引き起こされるというものです.
表1.Cough hypersensitivity syndromeの特徴
1)喉や胸の上部の易刺激性: 咽頭,喉頭,上気道の異常感覚
2)非咳嗽性刺激による咳の誘発(allotussia): 例として,話すこと,笑うこと
3)吸入刺激への咳感受性の増加およびトリガーの増加(hypertussia):
4)制御が難しい咳発作
5)トリガー要因:機械的刺激(歌う,話す,笑う,深呼吸),温度変化(冷たい空気),化学的刺激(エアロゾル,香り,臭い),仰向けになること,食事
1. 後根神経節
後根神経節が萎縮し,感覚神経細胞が傷害される(neuronopathy).これにより神経が過敏になり,通常では咳を引き起こさない程度の刺激でも強く反応する.
2. 迷走神経
迷走神経の障害により,喉頭や気道の粘膜に終止するC線維(化学感受性侵害受容器)やAδ線維(低閾値機械受容器)が,刺激に対して過敏に反応する.
3. 孤束核および傍三叉神経核
迷走神経からの感覚信号が処理される延髄の神経核である.迷走神経からの感覚信号入力に過敏になり,信号処理に異常をきたすことで,わずかな刺激でも強い咳反射が誘発される.
治療については,GABAアナログ(抑制性神経伝達物質)やオピオイドが効果的である可能性が記載されています.また,P2X3アンタゴニスト(感覚神経終末に存在するATPに反応する受容体で,咳反射の発動に関与する)の効果についても言及されていますが,その具体的な効果はまだ不明です.脳神経科内科医と呼吸器科医の協力が重要と書かれています.
文献2.Guilleminault L, et al. Cerebellar ataxia, neuropathy and vestibular areflexia syndrome: a neurogenic cough prototype. ERJ Open Res. 2024 Jul 29;10(4):00024-2024.(doi.org/10.1183/23120541.00024-2024)