Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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米国における小脳型進行性核上性麻痺(PSP-C)の検討

2016年02月07日 | その他の変性疾患
小脳性運動失調は,進行性核上性麻痺(PSP)の臨床診断基準において除外項目の一つである.しかし日本人において小脳性運動失調を主徴とするPSP症例が報告されていた.我々新潟大学のグループは,このようなサブタイプをPSP-Cと名付け,昨年,サンディエゴで行われた国際パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDS)にて診断基準案を提唱した(図).

今回,Mayo clinicから米国におけるPSP-Cの頻度についての検討が報告された.また小脳性運動失調の有無により,臨床,病理,遺伝学的背景に違いがあるのかどうかも検討された.対象は剖検により診断が確定した1085例とした.まずMayo clinicが経験した連続100例が検討され,つぎにブレインバンクの985例では,生前診断がMSAか,小脳変性,下オリーブ核肥大,著明な菱脳のタウ病理が目立つ症例が選ばれた.その後,小脳症状・病変の有無により分類した2群において,臨床,病理,遺伝学的な相違が検討された.

さて結果であるが,Mayo Clinicシリーズでは1/100例(1%)のみPSP-Cと考えらえた.この症例の頭部MRIでは,小脳萎縮,軽度の中脳萎縮,上小脳脚萎縮を認めた.またブレインバンクの4例がPSP-Cと考えられた.つまり合計で5例となるが,うち4例は生前,MSAと臨床診断されていた.病理学的解析では,リン酸化タウ陽性プルキンエ細胞といったタウ病理や,小脳歯状核や小脳求心路核(下オリーブ核,橋核),その他の部位(視床下核,黒質,淡蒼球)の変性の程度は2群間で明らかな差を認めなかった.タウ遺伝子型についても差はなかった.

以上より,米国におけるPSP-Cの頻度は,Mayo clinicケースシリーズで1%,全体では5/1085(0.46%)と少なかった.これは欧州からの報告と同程度で,日本人と比べると稀と考えられた.これは遺伝的,民族的背景が関与している可能性が考えられた(日本人では,MSAやALDでも小脳型が多い).今後,PSP-Cの危険因子となる遺伝学的背景の検討が必要と言える.

PSP-C はMSA-Cと鑑別が必要となるため,我々は前述のようにPSP-Cの暫定診断基準案を提案した(図).症状の組み合わせによりprobableとpossibleに分類する.また除外項目として,Gilman分類を満たす自律神経障害と,頭部MRIにおけるhot cross bun signを設けた.この診断基準を今回の5症例に当てはめると,1例はprobable,3例がpossibleを満たした(核上性垂直方向性眼球運動障害を認めなかた).残り1例は,発症から2年以内の転倒を伴う姿勢保持障害を認めなかったため診断基準を満たさなかった.また全例がGilman分類の自律神経障害やhot cross bun signを認めなかった.著者らは,日米の検討結果を踏まえ,我々の診断基準案は妥当と述べている.また小脳性運動失調はPSPの除外項目として適当ではないと述べている.

また病理所見に関して,我々はPSP-Cで,リン酸化タウ陽性プルキンエ細胞の頻度が高い可能性を報告したが,本研究では有意差は認められなかった.また小脳虫部や小脳歯状核の変性の程度も小脳性運動失調を説明するものではなかった.残念ながら,本研究では小脳性運動失調の責任病変を見出すことができなかった.

本研究の問題点としては,第1に後方視的研究であり,小脳性運動失調の頻度が低く見積もられている可能性があること,第2に,ブレインバンク症例のカルテ記載が不十分で見落としがありうること,第3に病理学的に検索していない部位に小脳性運動失調の責任病変がある可能性がありうることを挙げている.

本研究では,どのように正確にPSP-Cを臨床診断するかについての情報を得るに至らなかったが,海外においてもMSAの鑑別診断としてPSP-Cを検討すべきこと,非典型的なパーキンソン症状に失調症状を伴う症例においてはPSP-Cも鑑別診断に挙げることが明らかにされた.

Koga S, et al. Cerebellar ataxia in progressive supranuclear palsy: An autopsy study of PSP-C.
Mov Disord. 2016 Feb 3. doi: 10.1002/mds.26499.


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