Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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末梢神経障害を認めない成人発症異染性白質ジストロフィー

2005年02月22日 | 白質脳症
異染性白質ジストロフィー(MLD)は,ライソソーム酵素の一つであるarylsulfatase Aの欠損により,その基質であるスルファチドが,脳・腎などに蓄積する疾患で,臨床的には白質ジストロフィー・末梢神経障害を呈する.スルファチドの蓄積を反映してトルイジンブルーで異染性を示す顆粒が神経細胞,グリア細胞,末梢神経ではSchwann細胞内に認められる.遺伝子座は22q13.31-qterに存在し,遺伝形式は常染色体劣性遺伝である.病型は,乳幼児型,若年型,成人型に分類される.成人型 は集中力低下・知能低下・情緒失禁・精神症状などを呈し,統合失調症と間違われることもあるが,神経伝導速度が著明に低下する (20 m/sec 前後)ことや凹足などの足の変形の存在が鑑別診断上,重要なヒントとなることがある.
しかし,今回,臨床的・電気生理学的に末梢神経障害の合併を認めないMLD症例が報告された.この女性は30歳ごろよりapathyにて発症し,以後,進行性痴呆と行動異常が増悪した.神経学的に末梢神経障害を疑う所見はなく,神経伝導速度も正常.腓腹神経生検でもMLDに特徴的な所見は認めなかった.MRIではT2WIにて大脳白質のhigh intensityを認めた.末梢血白血球arylsulfatase A活性は欠損していた.遺伝子診断ではARSA遺伝子(arylsulfatase Aをコードする)のexon3において新規のミスセンス変異(F219V)を認めた.この変異を導入した発現ベクターをBHK細胞に一過性発現したところ,arylsulfatase A活性は通常の1%未満であった.
以上の結果は,末梢神経障害を合併しないMLDが存在することを示している.通常,伝速異常を認めない時点でKrabbe病やMLDの可能性をあまり考慮しなくなってしまうが,白質ジストロフィーを疑ったら,ライソソーム酵素の測定は念のために行っておいたほうが無難と言えそうだ.

Arch Neurol 62; 309-313, 2005
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