Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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那須-Hakola病の病因遺伝子と表現型

2005年06月13日 | 白質脳症
1970年代初頭に日本とフィンランドで独立に報告された「那須-Hakola病」は,手首や足首の骨嚢腫形成に伴う多発性の病的骨折,および性格変化などの統合失調症に似た精神神経症状ののち若年性痴呆を必発して死に至る,予後不良の常染色体劣性遺伝病である.画像上,大脳基底核の石灰化を認める.臨床経過は一般的に4つの病期に分けられる.①潜伏期,②骨痛・病的骨折期(30歳代),③初期神経症状期(前頭葉徴候,運動ニューロン徴候;40歳代),④後期神経症状期(痴呆,植物状態;50歳代).その表現型から本疾患は硬化性白質脳症を伴う多発嚢胞性脂肪膜性骨異形成症polycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy (PLOSL)とも呼ばれている.
症例のほとんどは日本人かフィンランド人であるが,フィンランド人における遺伝子解析の結果,原因遺伝子が免疫系において見出されていた活性化シグナル伝達を担う膜アダプター(cell membrane-associated receptor complex)のサブユニット,DNAX activating protein (DAP)12をコードする遺伝子の欠損であることが同定された(Nat Genet. 25:357-361, 2000;ただしどういうわけか本疾患は免疫学的異常を合併しない).DAP12のmRNAは単球,樹状細胞,ナチュラルキラー細胞などに多く発現している.またDAP12欠損マウスが作製され,破骨細胞の発達障害ならびにオリゴデンドロサイトの視床領域での発達障害(視床中心性のミエリン低形成とシナプスの形態異常)を示すことが報告されている.さらに2002年になり,TREM2と呼ばれる,DAP12とともにcell membrane-associated receptor complexを構成するサブユニットをコードする遺伝子も病因遺伝子となることが報告された(Am J Hum Genet71; 656-662, 2002).
 今回,TREM2遺伝子変異を認める那須-Hakola病(自験例6症例)と,DAP12遺伝子変異による那須-Hakola病の表現型について検討した報告がドイツより報告されている.結論から言えば,若干,DAP12遺伝子変異群で骨痛の発現が早い点を除き,両者のあいだに臨床表現型に明らかな相違は認めなかった.人種と原因遺伝子の関連に関しては,日本・フィンランドにおいてはDAP12遺伝子変異が優位に認められるが,その他の地域ではむしろTREM2 遺伝子変異のほうが高頻度であった.
 非常に稀な疾患であり,ほとんど経験することはないと思われるが,前頭葉徴候を伴う運動ニューロン疾患,かつ骨折の既往を認めるときには鑑別診断リストに加え,念のため骨(手首,足関節)の嚢胞性変化の有無を確認しておいたほうが良いであろう.

Neurology 64; 1502-1507, 2005
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