Lorenzo's Oil(邦題;ロレンツォのオイル/命の詩;1992年) という映画がある.Nick NolteとSusan Sarandonという2人の名優が夫婦役を演じた映画で,副腎白質ジストロフィー(ALD)に侵されてしまったひとり息子Lorenzoの命を救うため,生化学に何の知識もない銀行員の身でありながら必死に医学論文を読んで勉強し,試行錯誤の末についにこの病気の特効薬を発見してしまうという実話に基づく物語である(必見の名作映画).この薬は少年の名にちなんでLorenzo's Oilと名付けられた.
ALDでは血清中の極長鎖脂肪酸(VLCFAs)の増加が認められ,診断にも利用されている.Lorenzo's Oilは炭素数22のエルカ酸と,18のオレイン酸という2種の脂肪酸の1:4混合物で(それぞれ菜種油・オリーブ油の主成分),ミエリンに対して有害な炭素数24・26の極長鎖脂肪酸によく似ていながら体に害を与えない.つまりLorenzo’s oilを1日30ml程度服用することによって,「今は十分な極長鎖脂肪酸がある」と酵素を「だまし」,それ以上有害な脂肪酸を合成させなくするという原理である.しかしLorenzo’s oilは極長鎖脂肪酸を正常化させるものの,一端発症した神経症状の進行を抑制する効果はないという報告が多く,その治療効果については疑問視する声もあった.また未発症者やadrenomyeloneuropathy (AMN)における大脳型への進展の予防効果に関しては十分な報告はなかった.
一方,ALDに関する治療としては,小児型で発症早期の場合には造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation; HSCT)が有効であることが報告されている.移植後1~2年は症状が緩徐に進行するものの,その後停止する例が少なからず報告されている.しかし,ある程度症状が進行した症例では無効なこともあり,治療法自体にも負担を伴うためHSCTの適応は慎重に検討する必要がある.
さて話は戻り,今回,ALD未発症者(神経所見,画像所見とも正常)で7歳以下の小児89人を対象にしたおよそ7年間の経過観察において, Lorenzo's Oilを毎日2-3mL/kg/day服用し,中等度の脂肪摂取制限を行うとMRIで観察される脳の病変や神経所見の出現を防止できるという研究が,アメリカから報告された.具体的には.89例の無症候性ALD(4.7±4.1歳)を6.9±2.7年間(0.6-15年)経過観察している(14例はHSCTも施行)(12例がその観察期間中にfollow-upできなくなった点は評価の上で問題).結果として,81例(91%)は生存,8名は死亡(9%),66例(74%)は神経所見もMRI所見も正常,13例(15%)はMRI所見のみ異常,8例(9%)は神経所見もMRI所見も異常(残り2名はMRI未施行)という結果であった.また極長鎖脂肪酸であるヘキサコサン酸(C26:0)上昇とMRI病変の程度(ALD用に作られた34-point scaleを使用)の間に有意な相関が認められた.すなわち,ヘキサコサン酸上昇を抑制することは治療として有効であることを示したことになる.
もちろん,今回の方法では治療群だけで対照群との比較がないという問題がある.しかし疾患の性格上,対照群を作りにくく,さらにALDの自然歴はすでに良く分かっていて,Lorenzo's Oil治療群が治療しない場合と比べ明らかに予後が良いこと,ならびに,ヘキサコサン酸低下によりMRI上の病変の出現が抑制されることを示すことによって,ある程度の説得力を持ってLorenzo's Oilの有効性を示したと言えよう.今回の報告はLorenzo's Oilが未発症者に対して有効であることを初めて示したとともに,ALDにおける治療はいかに未発症者を探し出すか,ということにかかっているかを示したものと言えよう(本症は伴性劣性遺伝なので,スクリーニングはなかなか難しい).
ちなみにLorenzo's Oilは日本では保険適応はないため,アメリカから個人輸入するしかない.新潟大学では代理輸入を行っている(代金は実費).
Arch Neurol 62; 1073-1080, 2005
ロレンツォのオイル 命の詩
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ALDでは血清中の極長鎖脂肪酸(VLCFAs)の増加が認められ,診断にも利用されている.Lorenzo's Oilは炭素数22のエルカ酸と,18のオレイン酸という2種の脂肪酸の1:4混合物で(それぞれ菜種油・オリーブ油の主成分),ミエリンに対して有害な炭素数24・26の極長鎖脂肪酸によく似ていながら体に害を与えない.つまりLorenzo’s oilを1日30ml程度服用することによって,「今は十分な極長鎖脂肪酸がある」と酵素を「だまし」,それ以上有害な脂肪酸を合成させなくするという原理である.しかしLorenzo’s oilは極長鎖脂肪酸を正常化させるものの,一端発症した神経症状の進行を抑制する効果はないという報告が多く,その治療効果については疑問視する声もあった.また未発症者やadrenomyeloneuropathy (AMN)における大脳型への進展の予防効果に関しては十分な報告はなかった.
一方,ALDに関する治療としては,小児型で発症早期の場合には造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation; HSCT)が有効であることが報告されている.移植後1~2年は症状が緩徐に進行するものの,その後停止する例が少なからず報告されている.しかし,ある程度症状が進行した症例では無効なこともあり,治療法自体にも負担を伴うためHSCTの適応は慎重に検討する必要がある.
さて話は戻り,今回,ALD未発症者(神経所見,画像所見とも正常)で7歳以下の小児89人を対象にしたおよそ7年間の経過観察において, Lorenzo's Oilを毎日2-3mL/kg/day服用し,中等度の脂肪摂取制限を行うとMRIで観察される脳の病変や神経所見の出現を防止できるという研究が,アメリカから報告された.具体的には.89例の無症候性ALD(4.7±4.1歳)を6.9±2.7年間(0.6-15年)経過観察している(14例はHSCTも施行)(12例がその観察期間中にfollow-upできなくなった点は評価の上で問題).結果として,81例(91%)は生存,8名は死亡(9%),66例(74%)は神経所見もMRI所見も正常,13例(15%)はMRI所見のみ異常,8例(9%)は神経所見もMRI所見も異常(残り2名はMRI未施行)という結果であった.また極長鎖脂肪酸であるヘキサコサン酸(C26:0)上昇とMRI病変の程度(ALD用に作られた34-point scaleを使用)の間に有意な相関が認められた.すなわち,ヘキサコサン酸上昇を抑制することは治療として有効であることを示したことになる.
もちろん,今回の方法では治療群だけで対照群との比較がないという問題がある.しかし疾患の性格上,対照群を作りにくく,さらにALDの自然歴はすでに良く分かっていて,Lorenzo's Oil治療群が治療しない場合と比べ明らかに予後が良いこと,ならびに,ヘキサコサン酸低下によりMRI上の病変の出現が抑制されることを示すことによって,ある程度の説得力を持ってLorenzo's Oilの有効性を示したと言えよう.今回の報告はLorenzo's Oilが未発症者に対して有効であることを初めて示したとともに,ALDにおける治療はいかに未発症者を探し出すか,ということにかかっているかを示したものと言えよう(本症は伴性劣性遺伝なので,スクリーニングはなかなか難しい).
ちなみにLorenzo's Oilは日本では保険適応はないため,アメリカから個人輸入するしかない.新潟大学では代理輸入を行っている(代金は実費).
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薬は出来る。
簡単に考えては。
女性は雌雄の可能性をもっている
そこがかぎ