白石和彌監督が、彼の存在を広く知らしめるきっかけとなった出世作『凶悪』に戻って手掛ける仕切り直しの作品。初心に戻ると同時にさらなる進化系を提示した。主人公は、空洞でしかない心を抱えたシリアルキラーの阿部サダヲと、彼に導かれて彼の犯罪を探り、やがては彼に操られていくことになる大学生岡田健史。ジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』を思わせる。随所に描かれる刑務所での面会シーンが素晴らしい。ふたりが対峙し、 . . . 本文を読む
あらゆるジャンルの小説を手掛けるあさのあつこだが、こういう家族小説を扱っても見事だ。この緊張感と意外な展開に魅了される。サスペンスが最後まで持続する。簡単なところで落ち着かさない。ちゃんと子供たちが描かれるのは当然だが、それだけではない。主人公の主婦の抱える問題が、単なる不安には収まらない。社会に目を向けることなく、小さな世界で閉じていたのが、高校生の息子の反発(そして娘の肥満)という家庭内の小さ . . . 本文を読む
武田綾乃の『世界が青くなったら』とセットで考察したい映画だ。このお正月見た前作『スパイダーマン ノーウェイホーム』の続き。こんなインターバルで連続して新作が作られるって、なんだか昔の日本映画みたいだ。もちろんお安く作られた安直な映画ではなく、気合十分の大作である。それはわかっているけど、ヒットを見込んでどんどこ作るっていうところがなんだか安易で、もういいかげん、見るのをやめれば、と自分に言い聞かせ . . . 本文を読む
初めて読む作家の本は緊張する。どういうふうに出てくるのかわからないから、ドキドキする。つまらなかったら、どこでやめるのかの判断が難しい。でも、一応どこかで引っかかったから読み始めたのだから、自分の判断を尊重して、できることなら最後まで読もう、とも思う。今回もその境界線上で揺れた。でも、最後まで読んだ。まぁまぁ、かな、と思う。前半はかなりつらかった。短編連作のスタイルで同じバターンのお話が続く。1話 . . . 本文を読む
これは老いと向き合うことをテーマにした小説なのだが、とてもよくできていて、心に沁みる1作だ。敢えて老人を前面には出さないのもいい。ここに描かれる問題は老人だけのものではない。
シニア劇団を舞台にする。世界的にも有名な演出家が、55歳以上に限定して、演劇未経験者も含めて劇団員をオーディションで選び、劇団を作る。そこに集う高齢者たちのドラマである。でも、これは独立した短編として評価したい。それぞれの . . . 本文を読む
監督はアレックス・レーマン。全く知らない人だ。調べるとこの映画の後で『パドルトン』(2019)という作品を作っている。もちろん日本では未公開だ。さらにこの作品の前に『アスペルガーザらス』(2016)というドキュメンタリー映画でデビューしている。2作ともネットフリックスで見れるようだ。
たまたまである。この地味なモノクロ映画を見たのは。1時間20分の映画で、登場人物はふたりだけ。昔2人がよく通った . . . 本文を読む
この男はないわぁ、と思う。でも、なんだか最後は少しだけ可哀そう。こんなふうにしか生きられなかったのか、とも。ずっと連絡を取っていなかった母親のところを訪ねるシーンは自業自得だけど、胸が痛い。家族と縁を切って、自分の夢を追うために生きた。成功してアメリカからロンドンに戻ってきた。見栄を張り、自信もあるけど、「虚飾と野望」に引き裂かれていく男をジュード・ロウが演じる。鼻持ちならない男だけど彼が演じると . . . 本文を読む
昨年は大長編力作『らんたん』で気を吐いた柚木麻子の最新作だ。今回も凄い。短編集なのだけど、容赦ない。菊池寛大先生を主人公にした1作目から7編。この本の版元である文藝春秋を舞台にして、やりたい放題。「いいのか、こんなことを書いても、」と恐れおののくほど。(いや、冗談ですが)
かつての自分(柚木麻子ですよ、僕ではない!)をモデルにしたような新人小説家が、文藝春秋の担当編集者に虐められるところから始ま . . . 本文を読む
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズで大きな成功を収めたはずのジェームズ・ガン監督が、マーベルからDCに鞍替えして挑むシリーズ第2作。いろいろ大人の事情があるのだろうけど、そんなことはどうでもいい。映画さえ面白かったなら、それが一番。
間抜けすぎるキャラクターが大挙して登場し大暴れするし、さっさと死んだりもする、大忙しのアクション映画。デビッド・エアー監督による前作は「まじめな」(退屈 . . . 本文を読む
久々の文庫本だ。通勤途中で読むのは文庫のほうがいいのだけど、新刊を読みたいからあまり文庫は活用していなかった。だけどこれは文庫オリジナルだし、久々の通勤電車(この1年仕事をしていなかったので)なので、ついつい文庫に手を出した。
堀川アサコの前作(たぶん)『定年就活 働きものがゆく』は自分にとってはタイムリーだったし、なかなか面白かったので、なんとなくこれを読み始めたのだが、失敗だ。電車で細切れに . . . 本文を読む
この映画のたわいなさはちょっとした驚きだ。こんなにもお話がない映画は珍しい。しかも、それをすまなそうにする(見せる)わけではない。もちろんえらそうにもしない。なんだかとても自然体なのだ。自然体で、もの足りない。ストーリーで見せる気はまるでない。ただのスケッチだ。さりげない、ということすら言えないほど、どうでもいいことの羅列だ。でも、それが、それなのに、心地よい。ラストに至ってはそれはないでしょ、と . . . 本文を読む
待ちに待った期待の新刊。一昨年の正月、偶然図書館で彼女の『私を月に連れてって』を手にして、衝撃を受けた。こんな凄い作家がいたのか、と。しかも現役高校生! 慌てて彼女の既刊も読んだ。14歳でデビューして毎年1冊ずつ刊行しているなんて、驚きだった。しかもデビュー作『さよなら、田中さん』の時点でもう凄い作品を書いている。もちろん最高傑作は『私を月に連れてって』なのだが、これまでの4冊、いずれも面白い。
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ロベール・ブレッソンの未公開映画が、劇場公開されたので見てきた。僕が初めて見たブレッソンは『白夜』だ。あれはなんとも不思議な映画だった。お話はある。でも、何も起こらない。突き放したような描写。感情移入なんかできない。ただただ冷静に見守るだけ。でも、そこに心惹かれる。静かなスクリーンに釘付けされた。その後、遺作となった『ラルジャン』まで。作品自体は少ないけどリアルタイムですべて見た。といっても3本ほ . . . 本文を読む
こんなにもつらい小説だなんて思いもしない。表紙のかわいいイラストのイメージから描かれるドラマは遠すぎる。だが、あの優しい光景は確かにこの小説世界を象徴する。決して嘘ではない。子供たちは生き生きしているし、主人公であるまだ20代後半になったばかりの若い女先生は一生懸命で素敵だ。だから、この過酷はお話はつらい。
読みながら、「これは無理だ、」と思った。これでは彼女自身が壊れてしまう。でも、逃げるわけ . . . 本文を読む
5月13日の劇場公開にさきがけてネットフリックスでの配信がスタートした。なんだか不思議な話だ。映画は「配信で見るもの」と何の疑いもなく思う人がこれからは大多数になる時代がやってくるのか。時には「劇場でも見ることが可能」なんていう。なんだか寂しい。でも、今回みたいに配信で先行公開されたらついつい見てしまう。
映画館で予告編を見た時から、これは凄いと思った。カメラが彼らを追う。彼らはそこで自由自在に . . . 本文を読む