『エルシノア』
エルシノアとは何だろう。林(あるいは森)が城郭の形を模して切り取られている。薄い平面状に見えるが下部の林立には奥行きを感じる。手前は草の平原、空は白雲。この城郭を模した林はこの空間にぬっと出現したという感じである。
この城郭を模した林の壁面は《見えているが、何かを隠してもいる》。
城郭という一つの世界は入口(門)であるが閉じていて、人力では跳ね返されるような無言の威圧がある。
こちら(鑑賞者の立ち位置)と、あちら(城郭を模した林の向こう)は、つながっているが、決して超えることの出来ない強固な《門》として『エルシノア』の幻が存在している。
上部は平面に見えるが、人が入って行こうとする下部には光なき迷路の奥行がある。この幻『エルシノア』の前で人は傍観するしか手立てを持たない。生きて在る人には許されない《門》である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
そして玄関には
RESTAURANT
西洋料理店
WILDCAT
山 猫 軒
といふ札がでてゐました。
☆幻に換(入れ替わる)。
済(救い)の要(かなめ)は霊(死者の魂)の裡(内側)を展(開くこと)である。
太陽の平(平等)を顕(明らかにすること)である。
雑(いろいろなものが混じり合っている)。
ところが、わたしたちは、そういうことはなにもしないで、家にとじこもったきりでいたのです。なにを待ち受けていたのか、いまではおぼえてもいません。たぶんアマーリアが断をくだしてくれるのを待っていたのでしょう。あの子は、あの朝一家の指導権を奪って以来、ずっとそれをにぎりつづけていました。それも、とくになにか計画をしたり、命令をしたり、懇願したりするのではなく、ほとんど沈黙だけで一家を支配していたのです。
☆わたしたち何によらず、ただ待っていました。もしかしたらアマーリアが決定してくれるのを待っていたのかもしれません。あの子は当時一族を裂いたまま荒地へ導きました。個別の評価や命令や懇願などはなく、ほとんど沈黙したままでした。