続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

孤独。

2017-01-22 07:54:40 | 日常

 近所のアパートに住んでいる高齢の女性、腰がすっかり90度というほどに曲がり、老女然としている。
 
 干し物を取り込もうとしたら偶然彼女を見かけた。買い物帰りらしいが、ため息をつき休み休みの態。すれ違った後ろ姿は明らかに彼女と至近の家の人なのに挨拶を交わす様子もなく遠ざかって行った。

 荷物を地に下ろし、ため息をついている彼女を見て、ためらいなく外に出て彼女に声をかけてみると、
「いいです、もうすぐですから」と言い、荷物を持とうとするわたしを拒んだ。
 それでもと荷物を持つと、それは非常に軽くて、大きく見えたものはティシュの箱を重ねたものだった。
 彼女は「大丈夫ですよ、歩かないと足が駄目になるから」と言い、袋の中から取り出したのは、
「このお人形がわたしの話し相手なんです」という女児のぬいぐるみだった。

「わたしはね、ずっと働いてきたんですよ。最後は缶詰工場でした」と身の上話をし、今は娘さんと暮らしているという。
「もう80才になりましたからね。腰がこんなに曲がるなんて思いもしませんでした」

 そう、誰だって思いがけない道を歩いている。明日がどうなるかなんて想像もつかない道である。

「ここでいいですよ」と言うので荷物を放し、別れた。

「足がね、歩けなくなるといけないので…」
 同じです、わたしもそういう毎日を過ごしています。

 人形が話し相手の老女、わたしもブログが話相手の老女。似たもん同士じゃありませんか。淋しいけど頑張りましょうね。


マグリット『不思議の国のアリス』

2017-01-22 07:11:32 | 美術ノート

 『不思議の国のアリス』

 目と鼻の付いた擬人化された樹、雲間からその樹に誘いかける擬人化された洋ナシ。洋ナシの表情はどこか企みを孕んだような、善とは裏腹の笑みを浮かべている。
 背景はメルヘンチックな優しい彩色の海山である。

「さあ、さあ、」強引なまでに誘いかける洋ナシに対し、樹は困惑しているのか馬耳東風なのか洋ナシの方へは視線を向けていない。

 樹の根元の穴から不思議な世界へ落ち込んでいったアリス。不思議な世界を孕んでいる樹に、洋ナシは空の世界へと誘い込んでいる。
「こっち(天上=空)の方にだって万化の不思議が展けているんだ、地中に不思議があるなら、空には更に不思議が…」と言わんばかりである。
 重力によって地上に落果するはずの洋ナシが浮遊している。即ち重力のない解放された世界である。

『不思議の国のアリス』の秘密はここにある。
 つまりは重力からの解放、物理的根拠からの逸脱、自在な変化/擬人化、空間の膨張・圧縮、恐怖と困惑・・・あらゆる差異と観念の解放によって自由な世界を展開させ人間の心理を見せている。
 生きて在るものの混沌や迷いの風景、それが『不思議の国のアリス』の扉に隠された内実である。

「さあ、さあ」と誘う不敵な笑みの洋ナシ、驚いたように目を見開く樹、不条理こそが世界を動かすエネルギーかもしれない。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)


『注文の多い料理店』17。

2017-01-22 06:46:00 | 宮沢賢治

 そして硝子の開き戸がたつて、おこに金文字でかう書いてありました。
   「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
 ふたちはそこで、ひどくよろこんで言ひました。


☆照(あまねく光が当たる=平等)の詞(ことば)の解を図る。
 襟(心の中)を問い、弐(二つ)を署(配置する)。
 新しい訣(人との別れ)の縁(つながり)を慮(あれこれ思いめぐらす)字の図りごとが現れる。


『城』2534。

2017-01-22 06:34:58 | カフカ覚書

たえずおなじことを訊くのです。おなじ年ごろの少年には残されている極楽とんぼの年月が自分にはもはやなくなったのだということを、あの子はすでに知っていたのかもしれません。


☆たえずおなじことを訊くのです。配慮のない険しい事情は先祖の期待と異なっているということを、すでに知っていたのかもしれません。