桂文珍独演会:神戸酒心館
江嵜企画代表・Ken
桂文珍独演会が、神戸酒心館(078-841-2612)で開かれ、家族と楽しみにして出かけた。前座に弟子の桂一楼が、中継ぎに、本人は、「目の保養のため」といっていたが、内海英華師匠が出て、見事な三味線の音色を聞かせてくれた。
文珍さんは、先日、一昨年から、日本全国くまなく回り、生の落語を聞かせた功績が
認められ、芸術選賞部門で、文部科学大臣賞を受賞された。そのお披露目と文珍さんの演壇姿のラベルが貼られたお酒一升が当館社長の安福幸雄さんから贈られた。
この日の演題は、前座の一楼さんも文珍さんも、認知症を取り上げた。一楼さんは、「行き倒れ」になった仏さんを「本人確認」する話である。出かけた先で倒れて死ぬ。だから「行き倒れ」。ところが、「生き倒れ」だから、まだ生きている。「本人確認」が必要だと話を展開させて笑いを誘う。
昨今、なにかというと「本人確認」、「本人確認」を求めるが、そのあたりの世相も
風刺しているから笑いを取れるのであろう。
文珍さんは、「自分の出た小学校の同級生の名前がわかららない(忘れた)」ということを落語の枕に使った。文章に起こせば、なんの変哲もないが、話はこうだ。
マネジャーが見せた一枚の手紙。卒業した小学校の同級生が落語のあと文珍さんに会いたいと書いてある。そこに6名の名前が並んでいた。「まったく覚えがない。」そのあとのやり取りが落語の枕に使われた。
マネジャー「同級生の名前すら忘れたんすか?」
文珍さん 「見たことも聞いたこともない」
後で分かるが、文珍さんの生まれが昭和23年。訪問客の卒業の年が昭和26年。小学校にも 行ってない。3歳の子供が同級生の名前を覚えているはずがないでないかと、ここでまた笑わせた。
文珍さんは時事問題から入る落語が多い。北朝鮮もオバマさんも出てくる。この日のようにストレートに認知症を取り上げるのは珍しい。この日は、息子が親の顔を忘れる話が出て来た。「どちらさんですか?」と息子が言う。「お前の母親やないか」と母。
老人が老親を介護するのは日常茶飯だが、その一方で、最近、若年認知症が日本でも急激に増えてきており、深刻な事態に直面しつつあると、先日もテレビで紹介していた。60,70でボケが進むのはある面止むを得ない。しかし、30,40代からボケが始まり、先日の放送では50代が一番多いという。
近くの喫茶「いけだ」でもボケの話がよく出る。先日もボケをボケと呼ばず、ボケを認知症と呼ぶようになってから一段と自分のまわりにもボケが増えたのではないかと誰かが言い放っていた。
藤山寛美さんが差別用語禁止で喜劇が面白くなくなったと生前率直に話しておられた。電波に乗せない生の落語会が受けるのも一面、ボケをボケというところから、本来の落語を楽しめると常々思っている。
ボケがボケだと認知出来ている間はボケでない。ボケをボケと認知できなくなれば正真証明の認知症である。ボケないよう、ボケないようにと、気にしないことがボケ防止の近道かもしれない。
第22回、「春秋落語会」の会場の様子をいつものようにスケッチした。(了)