青山七恵さん
江嵜企画代表・Ken
第44回「よみうり読書芦屋サロン」が11月17日(土)午後2時から、芥川賞はじめ数々の賞を受賞しておられる作家の青山七恵さん(35)を招き、芦屋ルナホールで開かれ、楽しみにして出かけた。会場の様子をいつものようにスケッチした。事務局の方の話では220人ほどが参加されたそうだ。
恥ずかしながら青山七恵さんの作品を一冊も読んだことがない。今回は青山七恵さんが読売朝刊に寄せた掌編小説「あの眼鏡のひと」の創作秘話などを聞く会である。有名作家が1時間半とはいえ、その間に何を語るかが何よりの楽しみだ。しかも、かぶり付きの席、無料というのがなんとも魅力的だ。
青山さんは「前日、新神戸駅近くのホテル泊、近くの山上遊園地で布引の滝が見られるゴンドラに乗ったあと神戸の商店街を散策、グルメも楽しんだ。神戸は初めてです」と冒頭、司会者の質問に答えた。
青山さんは埼玉県の生れ、現在は東京に住んでいるが、都心からそれほど離れてはいない。それでも地方から出て来たという感覚はいまだに抜けない。自分の作品にもそれがどうしても出てしまう。」と話した。
「今回の「あの眼鏡のひと」の作品は、読売朝刊が人生相談などを載せている同じぺーじにある「子供の詩」からヒントをもらった」と話を始めた。愛用していた眼鏡が壊れ、周囲との関係がおかしくなる物語で「鼻先にぶつかるくらい、鏡に顔を近づけた。私は眼鏡をかけていた。」で終わる。
司会者と青山さんとの十数分のやり取りのあと「ここで皆様からのご質問をお受けします」と早くも会場に呼びかけた。顔はよく見えなかったが、か細い声で「青山さんの作品はこの掌編小説では現実と夢が同席しているようにも感じる。ホラー小説と思う作品が多い。いかがですか。」と一番手にご婦人が質問した。
青山さんは「新聞掲載の「子供の詩」を読んだあと書きはじめ,書きながら作品が出来ていた。書いているうちに小説になることは多い。この掌編小説もそうだ。夢の世界かもしれない。そうでないかもしれない。現実でもあるし、夢の世界であるかもしれない。ホラーを書こうとしたつもりはない。書いていたら小説になった。」と答えた。「書き終わった後、はじめ自分が思っていたより大きなものが書けたなと思うときは嬉しい」と話した。
質問を受けたあと青山さんと司会者とのやり取りに戻る。それの繰り返しで進む。この日は10人近くの人が熱心に質問した。なかには中国人留学生と思しき女性も質問した。聞き取りにくい言葉もあったが、青山さんは熱心に聞き,真摯に答えられる姿が印象に残った。
ある女性が「青山さんはユーモアをとっても大事にしておられる。いかがですか」と聞いた。「ユーモアは大事にしています。面白かった。思わず吹き出しそうになったと聞いたとき、嬉しかった」と答えた。
眼鏡がテーマのやり取りでは「眼鏡をかけていると、本当の自分と眼鏡の自分との境目がつかなくなる。眼鏡をかけた自分と本当の自分が一体化してしまう。どれが本当の自分なのか分からなくなってしまうから怖い。今回の掌編小説はそれを書いた。」と青山さんは話した。
青山さんは「メガネの詩を書いた子供の名前も詳しい言葉も覚えていない。その子供は詩を残した。それが私の小説になった。今、大学で講座を持っています。
相手は女子学生ですが、自分がいなくなった後、誰かが読んでくれると思いながら書くと教えている。」と話した。
数人質問のあと終盤に、ある高齢の男性が「青山さんの小説の狙いは何ですか」と聞いた時も青山さんは開口一番「自分が死んだあとの誰かに向かって書いていると思います。」と答えた。この日聞いた話を反芻しながら家路に着いた。(了)