前川洋一郎氏
江嵜企画代表・Ken
老舗ジャーナリスト、前川洋一郎氏の「地域文化と老舗~阪神間モダニズムと西宮の老舗」と題する講演会が、10月30日(火)午後1時30分から西宮文化協会十月行事として開かれ楽しみにして出かけた。会場の様子をスケッチした。
恒例により講演会冒頭挨拶の中で山下忠男、西宮文化協会長は「前川洋一郎さんは、1944年大阪生まれ、現パナソニック、松下電機産業(株)のご出身というユニークな経歴のジャーナリストです。お酒もたしなまれる先生とお聞きしております。欧州では200年以上の会社のみ入会が許される「エノキアン協会」がありますが、その数は200か300と極めて少ない。日本は200年以上の老舗は10万。最古は金剛組という建設会社で1,400年の歴史があります。私の話はこのへんにして。」とマイクを前川氏に渡した。
前川氏は「大学では経営学部。卒業して製造業に入りました。放言をすると思います。早口で喋ります。パソコンをたたいて資料を用意しました。資料を追いかけながらご覧ください。」と話を始めた。資料はA3サイズで12枚と膨大だった。
「本日のテーマは地域文化と老舗」です。「老舗の元気な街は、幸せ・豊か」です。「幸せ・豊かな町は文化一杯です。老舗と文化は相関しています。」と切り出した。「大衆文化は、高級文化を傷つけるだけではない。社会生活の道徳的基盤全体を破壊する」とデリー・イーグルトンは書いた」と紹介「それこそが大阪の現状ですかなー」と話した。
「文化は18世紀後半、音楽、美術、文学がベーシックな概念であった。現在は①産業・技術、②芸術,③社会体制,④価値観・規範の4つの区分けでとらえなければならない」と話した。「伝統という過去の遺産(名声)だけでは生き残れない。」と言い「常に金くれだけではだめなんです。特に若い人が入っていかんと。」と前川氏は力を込めた。
「そもそも老舗とは」と踏み込み「しぐさを見せるから「しにせ」。まねて、あと継いでいくのが老舗です。老舗の店がある町の人に声をかけると「あそこは大丈夫や。毎日、店の前、水撒いてはります。ちゃんとやってはりますわ」との答えが必ずかえってくる。そういうことが大事なんです。日々繁盛、地元への貢献、地元から信頼されている。そんな老舗が日本で10万と総務省の統計にある。」と話を続けた。
前川氏は「最近、中国のひとが日本の「しにせ」のことを教えてくれという話を盛んにもってくるようになった。中国は、イケイケドンドンで戦後70年やってきた。経営者もどんどん変わる。中国で後継ぎがいなくなってきているようだ。」と話した。日本でもそれは同じで、心配なのはあと継ぐ人がいないことで廃業率がだんだん、だんだん高くなっています」と話した。「大阪は、なぜ老舗が目立たなくなったのか。」と問いかけ「大阪の経済力低下と職住分離で高所得世帯が阪神間と府下以外に分散した。大阪府在住者の大阪への愛着度が極端に低い。東京と地元からの支持が少ないことが問題点だ」と話した。
「あと35分あります」と前置きして「東灘、芦屋、西宮の共通点」を数点あげた後「年金生活と生活保護受給者の増加による格差拡大が問題だ」と指摘した。神戸の問題は財布の大きさが違うことです。「あと15分あります」と前置きして「阪神間モダニズムの戦後」について「いまだ日本有数の高級住宅地だが大阪と神戸のタニマチの衰退でモダニズム創出のエネルギーが枯渇した。阪神間はモダニズム遺産活用地域になってしまった。残念なことです。もっともっと付加価値をつけてもらう人が入って来てもらわんといけませんなー。大事なことは、昔のことを言っても始まらんということです。」と前川氏はきっぱり。
前川氏は「老舗とは鎮守の森だ」と話した。「古くからその土地に根をはってきた木々は災害に強く,世の変化に負けない。町や村の中心で祭礼、寄合、災害避難などコミニュケーションが頼りになる。大きい小さいではない。永続繁盛と地域社会の為になることです」と老舗を総括した。
そして最後に「ここに中村吉右衛門さんの2018年7月1日の日本経済新聞「私の履歴書」の文章があります」と紹介した。「一生修行、毎日初日。役者にとっては毎日のことであってもお客様にとっては、その日限りなのです。一度滅びた文化を再興するのは難しいです。文化に触れて、人間はこんな素晴らしいことができるんだと称えることで世界は平和になっていく。刀工は火の加減、叩き方全てが経験です。歌舞伎もまた、経験でしかありません。」と書いた。「歌舞伎」を「老舗」に置き換えてみてください!!」と前川氏は80分の講演を終えた。(了)