海と橋の見える、とあるマンションの最上階。下の階で5世帯分に当たる面積を、ここでは1人の男が占有している。いわばセレブ。バルコニーも広々ととられており、観葉植物がほどよく配置されている。
その一角に、木目も鮮やかな円形のテーブルとロッキングチェア。そして今、そこに住んでいる男がうたた寝をしている。テーブルの上には、シルバーのケータイ。
マナーモードになっていたケータイが、唸り始めた。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
しかし熟睡している男の意識には上らない。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
やがて、その振動によりテーブルからずり落ちたケータイは、ちょうど男の膝に当たってバルコニーの縁に。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
それでも鳴り続けるケータイは、縁から徐々に動いていってついには下の方へ。落ちている間も鳴り続ける。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
幸い、真下の街路樹で一度バウンドしたあと中2階にあるパン屋のサンシェードに引っ掛かるが、しばらくするとそこからも落ちてすぐ下の歩道橋へ。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
人ごみの中、哀れケータイは見向きもされずに通行人の蹴飛ばされるところとなり、ちょうど下を走り抜けたトラック荷台のコンテナの上へと。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
ケータイはトラックに乗ったまま港に到着し、そのままコンテナごと貨物船へ。デッキの上にコンテナ、そのまた上に小さなケータイ。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
出港した船は、太平洋を南へ進む。震えることをやめないケータイは、コンテナの上を滑り、デッキの上を滑り、やがて海の中へ。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
ちょうどそこは、世界一深いと言われる海溝。深く深く沈みながらも、ケータイは依然として鳴ることをやめようとはしない。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
ついでながら、あなたの頭の中でも、きっと鳴り続けている、はず。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
Copyright(c) shinob_2005
その一角に、木目も鮮やかな円形のテーブルとロッキングチェア。そして今、そこに住んでいる男がうたた寝をしている。テーブルの上には、シルバーのケータイ。
マナーモードになっていたケータイが、唸り始めた。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
しかし熟睡している男の意識には上らない。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
やがて、その振動によりテーブルからずり落ちたケータイは、ちょうど男の膝に当たってバルコニーの縁に。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
それでも鳴り続けるケータイは、縁から徐々に動いていってついには下の方へ。落ちている間も鳴り続ける。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
幸い、真下の街路樹で一度バウンドしたあと中2階にあるパン屋のサンシェードに引っ掛かるが、しばらくするとそこからも落ちてすぐ下の歩道橋へ。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
人ごみの中、哀れケータイは見向きもされずに通行人の蹴飛ばされるところとなり、ちょうど下を走り抜けたトラック荷台のコンテナの上へと。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
ケータイはトラックに乗ったまま港に到着し、そのままコンテナごと貨物船へ。デッキの上にコンテナ、そのまた上に小さなケータイ。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
出港した船は、太平洋を南へ進む。震えることをやめないケータイは、コンテナの上を滑り、デッキの上を滑り、やがて海の中へ。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
ちょうどそこは、世界一深いと言われる海溝。深く深く沈みながらも、ケータイは依然として鳴ることをやめようとはしない。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
ついでながら、あなたの頭の中でも、きっと鳴り続けている、はず。
「ンー、ンー、ンー、ンー、…」
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