金メダルが目標で必死にがんばる人生、それでは、人間として情けない生き方です。東大進学をめがける、とか、ノーベル賞を取るという目標も同じこと。
具体的で目に見えるものを追い求めるのは、人間=独自の内面宇宙をもつ存在としては、情けないとしか言えないのです。
ウサイン・ボルトが眩いまでの強烈なオーラを発揮しているのは、彼の目標が、自分自身であることで伝説になること、伝説をつくることにあるからです。短距離ランナーではなく、スポーツ競技者でもなく、「偉大な人間」=人間としての誇りをめがけているからです。「人々にスピリットを与えたいと考えている」(ボルト)
かつてのカシアス・クレイ=モハメット・アリも、一流のボクサー(一八歳でオリンピック優勝、金メダルは川に投げ捨ててしまった)・ヘビー級世界チャンピョンであることを超えて、最も偉大な人間、彼の言葉では、Iam the greatest man として生き抜いたからです。一人でアメリカ政府を倒した男として知られます(ベトナム戦争反対で徴兵拒否、捕まり裁判になり、全米に反戦を訴え、キング牧師も説得し、ついに最高裁で勝利)。
彼らは、一i競技者という枠をはるかに超えて、全人的な人間として輝かしいオーラを発揮した(している)のです。
「金メダルが目標」では、人間としては、情けないのです。
武田康弘