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で諸君、諸君はこの川が貫いている“Esteros de Patino”すなわち『パチニョの荒湿地』なるおそろしい場所を知っているかね。いや、ブラジルには通り名がある。パチニョというよりも『蕨の切り株』――。俺はその名を知らんとはいわさんぞ」
パチニョの荒湿地、一名「蕨の切り株」――それには、また人々の中がザッとざわめき立ったほどだ。読者諸君も、蕨の切り株とはなんて変な名だろうと、ここで大いに不審がるにちがいない。蕨といえば、太さ拇指ほどもあれば非常な大物である。それだのに、それが樹木化して切り株となる魔所といえば、それだけ聴いても、この「蕨の切り株」なる地がいかなるところか分るだろう。でまず、順序としてピルコマヨ川の、化物然たる不思議な性質から触れてゆこう。
――小栗虫太郎「人外魔境 水棲人」