★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

王威の御座しまさむかぎりは、いかでかさることあるべき

2024-01-08 23:24:42 | 文学


この種材が族は、純友討ちたりしものの筋なり。この純友は、将門同心に語らひて、おそろしきこと企てたるものなり。将門は、「帝を討ちとり奉らむ」といひ、純友は、「関白にならむ」と、同じく心をあはせて、この世界に我と政をし、君となりてすぎむ、といふことを契り会ひて、一人は東国にいくさをととのへ、一人は西国の海に、いくつともなく、大筏を数知らず集めて、筏の上に土をふせて、植木をおほし、よもやまの田をつくり、住みつきて、おほかたおぼろけのいくさに、動ずべうもなくなりゆくを、かしこうかまへて、討ち奉りたるは、いみじきことなりな。それはげに人のかしこきのみにはあらじ、王威の御座しまさむかぎりは、いかでかさることあるべきと思へど。

承平天慶の乱の記述であるが、「王威の御座しまさむかぎりは、いかでかさることあるべき」とあるから、当時は語り手の強がりだったのかもしれないが、こういう言葉が本当に実現してゆくとはほんとに予言というものはあるものである。反乱はもう王位を揺るがすことはない。ということは、事実天皇の存在があるかぎり、すべての動乱は反乱ではないということだ。ということで、国家の敗戦如きで反乱を成立させることはできない。反乱はむろんいつでもどこにでもある。しかし、天皇を倒さない限りそういうことにならないとなれば大変なことだ。ここまで反乱の困難が上昇してしまった国があるであろうか。しらんけど。

こういう反乱の困難を抱えていることが、いろいろに影響していることは確かだ。安倍元首相とか、戦後レジームとか言うし、それを、ポストモダンじみて「ポスト戦後レジーム」とか言いたがるひとは、言葉の重みを漬けようと思い、大概そこに敗戦とか大震災とかを重ねている。今回の地震もそうだし、破局がいつもいろいろなところで起こっているのをことごとく相対化しがちなのはほんとあれなのであるが、それもそうである。レジームごときは天皇の存在にかないそうにないからだ。

われわれは何かに負けたとき、いつもそれを昇華し損なった。そこそこ現実的に対処してひたすらに復興を遂げているのは、来たるべき反乱を引き延ばしているからであろう。例えば、ヒトラーが死んだときにラジオでブルックナーが流れたみたいな話がある。非常に皮肉なことに、独逸文化=ブルックナーの緩徐楽章はヒトラーの悲惨を浄化しさえするのだ。けれども、保田與重郞の「やぽんまるち」ではないが、敗北のときの音楽というのは太平洋戦争の時、日本ではどうだったんだろうな。。。調べたことないが。

昼間、NHKの知恵なんとかという番組で、平安時代のエリート女作家達の特集やっていた。政治の報道もひでえけど、同じ程度にかかる教養番組?もひでえからね。さしあたり原因はおなじと考えるべきだ。実際、今日の放送では、――日本語をひらがなでかくことで気持ちを書けるようになりましたみたいな話の直後に、生活を「enjoy」していた紫式部みたいなナレーションを接いだNHKに大和魂をみた。まさに、大和心はそういう対処に長けているのであった。無論、ふざけきった話だ。武士の反乱だって、結局は、そういう心の動きによって対処されたのである。困ったときに新羅登場。

さて壱岐・対馬国の人を、いと多く刀伊国にとりていきたりければ、新羅の帝いくさをおこし給ひて、皆討ち返し給ひてけり。さて使をつけて、たしかにこの島に送り給へりければ、かの国の使には、大弐、金三百両とらせてかへさせ給ひける。このほどのことも、かくいみじうしたため給へるに、入道殿、なほこの帥殿を捨てぬものに思ひきこえさせ給へるなり。

確かに、庭で雀が餌食ってたのでわたくしが接近していったら逃げた――で、雀の子を犬君が逃してしまったの、と細に言ったら美事無視されたのは当然である。源氏物語をふまえることなんか簡単だからである。しかし、問題は対処の反射神経のほうだからだ。

人々も「さる事は知り、歌などにさへうたへど、思ひこそよらざりつれ。なほこの宮の人にはさべきなめり」と言ふ。

というんだから、これは一種の幇間的な反射神経とも言うべきで、清少納言のすごいのは教養の問題じゃねえわな。みんな香炉峰の雪は簾を撥げて看る、ぐらいは知ってんだから。むしろしったかぶりの歌詠みがどんくさくみえるわけである。

ここまでくると、この知の世界を大和心だから魂だかで振り回してゆく世界がいやになってくる。我々に最後に残るのは四季、いや寒いとか暑いことだけだ。そりゃ我が故郷だってだいたい札幌と同じような気温だから大したことはないんだが、冬の寒さがどれだけ人間の体に苛酷なのかわかっていないやつが多すぎるなコヅクゾと若い頃は思っていた。しかし、いま、暖かくて油断しまくり結果的に室温が一番寒くなってるとかいう県に住んでいる。確かに、小学校の頃までは枕元のコップの水が凍りきっているようなことはしょっちゅうで、いま思うとよく生きてたなと思うが、いまは夏40度とか、同じくよく生きてるよなと思わざるをえない。


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