メランコリア

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ボリス・ヴィアン全集7『人狼』(早川書房)

2005-12-09 23:55:55 | 
ボリス・ヴィアン全集7『人狼』(早川書房)
原題Le Loup-garou by Boris Vian
ボリス・ヴィアン/著 長島良三/訳
初版1979年(1988年 3版) 960円

※2003.2~のノートよりメモを抜粋しました。
「作家別」カテゴリーに追加しました。

ヴィアン短編集『蟻』(1949)、『みせかけの時間』(1962)、『人狼』(1970)の中からの編成。


あらすじ(ネタバレ注意


戦争をひたすら無感動、無関心、暴力的なほど冷静に描いた短編を
イラク戦争が長期化しそうな今読んだことに感慨深い縁を感じる。
ラスト、地雷を踏んで、仲間を先に行かせ、1人で死を待つ主人公の脚に
蟻(痺れ)が這うという終わり方も、限りなくシンプルで鋭いムダのない表現だ。


のぞき魔
人里少ないスキー狂しか来ないような山小屋に泊まった男に対して、3人の娘は妙に冷たい。
脚を折り、小屋へ戻る途中見てしまった裸のたわむれ、
そして男は3人にアッサリ雪だるまにされてしまう。


クラシックは危険
男性教師、女性生徒、いろんな知識を詰め込むことで自由意思を持つように造られたロボットの三角関係。
女の好奇心で1冊の恋愛小説を読ませたためにバランスを崩して人を襲うがスイッチを切られる。


ホノストロフへの旅
数人の男女グループで乗り合わせた列車のブースに、1人喋らぬ男がいるために気まずくなり、
長時間の旅の間中喋らせようと拷問する。
降りる間際「私はお喋りではないですね」と言い、何事もなかったように皆列車を降りる。


良い生徒たち
警察学校の男子生徒2人が、人の殴り方等を学んで、2人の女の子と遊んで、
倉庫へドロボウを撃ちに行って、撃った相手の中にゆうべ遊んだ女の子も入ってた。


人狼
山に住んでいた1匹の狼は、進化して、文明的習慣を身につけ、
草食で、車の部品など集めて暮らしていたが、
ある日、狼人間の男に噛まれて、満月の夜変身し、人狼になり、街へ行く。

女と遊んで、娼婦と分かると追い返し、その後ヒモに脅され、ケンカして骨を折る。
12時になる前に自転車で逃走し、警察に追われるが狼に戻る。
人になって覚えた殺したいほどの怒りに戸惑いながらも魅力を感じてしまう。


恋は盲目
昏睡状態から目覚めた主人公の男は、周り一面に広がる霧に戸惑う。
なぜか服を脱いで歩き回ると、皆同じく裸で、霧には催淫作用があるため、
40代の家主やパン屋のおばちゃんにまで犯されそうになる。
ならばとお菓子屋の17歳の女の子目当てに行くと、すごい行列

通りで出会った女性と抱き合い幸せな日々が続いたが、霧は晴れ、皆目をえぐったというオチ

目に見える物欲を皆で捨てたら、残るのは性欲のみか。そのほうが平和かな?


マルセイユは目醒めはじめた
女スパイは、仕事で下衆な男と寝て情報をとるよう言われて断り、
そのくらいなら肉屋の少年に殺してもらったほうがマシと、
少年に頼んで殺してもらうが、少年も別のスパイにヤラれる。


金のハート
金の心臓を盗んで追われる男が、塀につかまって体力の限界だったところに
少年が来て、手を切り、男はそのままくず箱へ落ちた。


死んだ魚
親分に騙されて散々な目に遭った子分が復讐に行くと、もうこと切れた後。
代わりに親しかった動物を殺して、自分も死ぬ。


黒猫のためのブルース
鶏をけしかけて下水に落ちた猫を助けようと奮闘する兄と妹。
それを聞きつけて集まる娼婦、2人のアメリカ兵。
やっと助け出され、一緒に酒を飲んで祝ううちに飲みすぎて、
命の恩人に感謝して、猫は脳溢血で死ぬ。
兄妹は幸せなその猫を下水の中へ捨てた。




なんとも言えない乾いた笑い。
ブラックユーモア小説というジャンルを初めて仏文学で始めたのはボリスだという。
なんだかワケの分からない独特の世界もあるが、常に背後にあるのは絶対的な死の影。

あっけなく死んでしまう登場人物たち。
身近にある死への不安と恐怖、あらゆる死の形を描き続けたボリスの心の闇の世界が
さまざまな物語となって読者に迫ってくる。


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