■『心臓抜き』(早川書房)
原題L'Arrache-c?ur by Boris Vian
ボリス・ヴィアン/著 滝田文彦/訳
初版2001年 700円
※2002.10~のノートよりメモを抜粋しました。
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
最後の長編小説。タイトルは前作『うたかたの日々』でアリーズが殺人に使った道具。
架空のモノながらインパクトが強い造語だ。
ひと言でいえば今作は、丘の上の富豪の家で産まれた三つ子が、
異常に過保護な母と、お産を手伝った自称精神科医ジャックモールによって育てられてゆく様子。
タイトルからミステリーか何かと想像していたら見事に外れた。
難解でトリッキーな文章にまどわされがちだが、訳者があとがきで書いていたように
彼は、自分の心の目で見えるさまを、より本質的に描写しようとしているだけで、
イタズラ心はあっても、単なる言葉遊びではない。
読むたびに新しい発見が生まれる、今までにないスタイルだというのがようやく分かってきた。
私が気に入ってるのは、時々出てくるお茶目なシーン。
今作では子どものテディベアが会話に入って“猿の尾をつける”ことについて
「考えておきましょう」なんて真面目に答えてるシーン。
この子たちの飛翔はイメージの世界か?
フランスでは子どもの教育に無頓着で、小さいうちから働かせる話は聞いたことがある。仏に限らないか。
片田舎の連帯意識、前記憶のないJには異様に見える慣習も
ふと冷静に考えると、身近に存在し得る光景だと思うとゾッとする。
下層労働階級の子どもが、鳥かごに入れられた三つ子を見て羨ましく思うシーンは、
幸せが人によって一様ではなく、本当の幸せな生活とは何か?を考えさせられる。
▼あらすじ(ネタバレ注意
ジャックモールは通りかかった屋敷で出産を助けて居候する
夫アンジェルは、孕ませた恨みで2ヶ月監禁されていた
Jはアンジェルに、自分は過去を持たない精神科医で、他人の欲望を吸収するため田舎に来たと説明
三つ子のベッドを頼む途中で老人売買を目撃する
家具屋では、小僧がこき使われて死んでいた
子どもを憎む妻クレマンチーヌは、それぞれジョエル、ノエル、シトロエンと名づけ
「彼らは私を何年も苦しめ、一刻一刻が目標になるでしょう」と言いつつも、冷静に洗礼などの手配をする
教会に行く途中、Jは人々の恥を受け取る職人ラ・グロイール号の老人に会う
彼は、人々が腐らせて捨てたあらゆるものを川から口で拾い、
その代わりにお金をもらい、家の中は金ぴかだが、それで何も売ってはもらえない
日曜のミサに行くと、司祭に雨を降らせようと皆は石を投げ、
司祭は悪態をつきながら「雨が降る!」と言うと、本当に降って皆は満足して帰る
Jはメイドを診察するため、毎日のように抱くが、女は自分を語りたがらないため診察は進まない
クレマンチーヌはロッククライミングが趣味なのか?!
お乳までの時間を利用して近所の崖に登っている
Jは今度は通りの外れで馬を磔にして虐待している連中を見かける
アンジェルが女を買おうとしても良心の呵責で熱が出るというので舟をつくる提案をして、なかなかいい船が仕上がる
アンジェルは妻が台所のテーブルの上で自慰をしているのを見て傷つき、船で暮らしはじめる
メイドはいつも後ろ向きでしか寝ないのは、11歳の時に父にレイプされていたことが原因だと話してから
Jを嫌うようになるが、仕立て屋のメイドを代わりに見つける
蹄鉄工は、クレマンチーヌの服を作らせて、自動人形に着せて抱いている
同じ時刻、クレマンチーヌも自慰で楽しんでいる偶然が奇妙
アンジェルは1人船に乗って町を去る
子どもが1人で歩き、遊ぶようになってから、嫌っていたはずの母親は異常な心配性になり
あらゆる事故、病気の可能性をひねり出して怯えあがる
教会では司祭の新しい見世物があった
リング上で司祭演じる神と、道具係演じる悪魔とのボクシング試合だが、インチキで神の勝利
皆から「金返せ!」の怒号が飛ぶ
クレマンチーヌはJに子どもが心配だと相談する
パンツにそそうしたジョエルに、クレマンチーヌは犬か猫のようにお尻を舐めてあげる
クレマンチーヌは空腹時に腐った残りものを食べて、子どもへの代償だと満足する
嫉妬したシトロエンらは、ジョエルのクマを木の上にかけ、それを知った母は早速全部の木を切り倒させる
もうこの頃には、3人とも飛行できるようになっていて、門すら危険だと取り払われ
ついにクレマンチーヌは3人に鳥かごを作る決心をする
反対したJは家を出て、死んだラ・グロイールの代わりを務めはじめる
「あなたは、自分が彼らの世界でありたいと願っている。その意味では破壊的です」
小僧は鳥かごにクラス三つ子を見て、思う
「みんな一緒にあんなに甘やかしてくれる人がいて、
ほかほかと温かくて愛に満ちた小さな鳥かごの中にいられたらどんなにステキだろう」
*
今作でいまだに印象的なのは、ラ・グロイールという老人
どこかの書評に名前の由来と、彼の役割が書いてあって納得した記憶があるけれども忘れてしまった/汗
原題L'Arrache-c?ur by Boris Vian
ボリス・ヴィアン/著 滝田文彦/訳
初版2001年 700円
※2002.10~のノートよりメモを抜粋しました。
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
最後の長編小説。タイトルは前作『うたかたの日々』でアリーズが殺人に使った道具。
架空のモノながらインパクトが強い造語だ。
ひと言でいえば今作は、丘の上の富豪の家で産まれた三つ子が、
異常に過保護な母と、お産を手伝った自称精神科医ジャックモールによって育てられてゆく様子。
タイトルからミステリーか何かと想像していたら見事に外れた。
難解でトリッキーな文章にまどわされがちだが、訳者があとがきで書いていたように
彼は、自分の心の目で見えるさまを、より本質的に描写しようとしているだけで、
イタズラ心はあっても、単なる言葉遊びではない。
読むたびに新しい発見が生まれる、今までにないスタイルだというのがようやく分かってきた。
私が気に入ってるのは、時々出てくるお茶目なシーン。
今作では子どものテディベアが会話に入って“猿の尾をつける”ことについて
「考えておきましょう」なんて真面目に答えてるシーン。
この子たちの飛翔はイメージの世界か?
フランスでは子どもの教育に無頓着で、小さいうちから働かせる話は聞いたことがある。仏に限らないか。
片田舎の連帯意識、前記憶のないJには異様に見える慣習も
ふと冷静に考えると、身近に存在し得る光景だと思うとゾッとする。
下層労働階級の子どもが、鳥かごに入れられた三つ子を見て羨ましく思うシーンは、
幸せが人によって一様ではなく、本当の幸せな生活とは何か?を考えさせられる。
▼あらすじ(ネタバレ注意
ジャックモールは通りかかった屋敷で出産を助けて居候する
夫アンジェルは、孕ませた恨みで2ヶ月監禁されていた
Jはアンジェルに、自分は過去を持たない精神科医で、他人の欲望を吸収するため田舎に来たと説明
三つ子のベッドを頼む途中で老人売買を目撃する
家具屋では、小僧がこき使われて死んでいた
子どもを憎む妻クレマンチーヌは、それぞれジョエル、ノエル、シトロエンと名づけ
「彼らは私を何年も苦しめ、一刻一刻が目標になるでしょう」と言いつつも、冷静に洗礼などの手配をする
教会に行く途中、Jは人々の恥を受け取る職人ラ・グロイール号の老人に会う
彼は、人々が腐らせて捨てたあらゆるものを川から口で拾い、
その代わりにお金をもらい、家の中は金ぴかだが、それで何も売ってはもらえない
日曜のミサに行くと、司祭に雨を降らせようと皆は石を投げ、
司祭は悪態をつきながら「雨が降る!」と言うと、本当に降って皆は満足して帰る
Jはメイドを診察するため、毎日のように抱くが、女は自分を語りたがらないため診察は進まない
クレマンチーヌはロッククライミングが趣味なのか?!
お乳までの時間を利用して近所の崖に登っている
Jは今度は通りの外れで馬を磔にして虐待している連中を見かける
アンジェルが女を買おうとしても良心の呵責で熱が出るというので舟をつくる提案をして、なかなかいい船が仕上がる
アンジェルは妻が台所のテーブルの上で自慰をしているのを見て傷つき、船で暮らしはじめる
メイドはいつも後ろ向きでしか寝ないのは、11歳の時に父にレイプされていたことが原因だと話してから
Jを嫌うようになるが、仕立て屋のメイドを代わりに見つける
蹄鉄工は、クレマンチーヌの服を作らせて、自動人形に着せて抱いている
同じ時刻、クレマンチーヌも自慰で楽しんでいる偶然が奇妙
アンジェルは1人船に乗って町を去る
子どもが1人で歩き、遊ぶようになってから、嫌っていたはずの母親は異常な心配性になり
あらゆる事故、病気の可能性をひねり出して怯えあがる
教会では司祭の新しい見世物があった
リング上で司祭演じる神と、道具係演じる悪魔とのボクシング試合だが、インチキで神の勝利
皆から「金返せ!」の怒号が飛ぶ
クレマンチーヌはJに子どもが心配だと相談する
パンツにそそうしたジョエルに、クレマンチーヌは犬か猫のようにお尻を舐めてあげる
クレマンチーヌは空腹時に腐った残りものを食べて、子どもへの代償だと満足する
嫉妬したシトロエンらは、ジョエルのクマを木の上にかけ、それを知った母は早速全部の木を切り倒させる
もうこの頃には、3人とも飛行できるようになっていて、門すら危険だと取り払われ
ついにクレマンチーヌは3人に鳥かごを作る決心をする
反対したJは家を出て、死んだラ・グロイールの代わりを務めはじめる
「あなたは、自分が彼らの世界でありたいと願っている。その意味では破壊的です」
小僧は鳥かごにクラス三つ子を見て、思う
「みんな一緒にあんなに甘やかしてくれる人がいて、
ほかほかと温かくて愛に満ちた小さな鳥かごの中にいられたらどんなにステキだろう」
*
今作でいまだに印象的なのは、ラ・グロイールという老人
どこかの書評に名前の由来と、彼の役割が書いてあって納得した記憶があるけれども忘れてしまった/汗