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『チコ(アニミズム会議の記録)』(グランまま社)
なかえよしを/作 上野紀子/絵
本書も図書館巡りで見つけた掘り出しもの。
上野紀子さんのダークな絵が目を惹いた。
幻想的な絵本かと気軽に思っていたら、
環境破壊問題について語られた、大人向けに書かれた本で驚いた。
たくさんの人に訴えたいテーマや、とても素晴らしい言葉がたくさん詰まっているのに、本書も
閉架扱いなのが納得いかない。
みんな切羽詰った環境問題よりも、ロマンスやミステリーのほうが好きなのかな
▼あらすじ
いまから5年5ヶ月後のある日のあるところ。
何日も前から、
あらゆる動物が消えてしまい、メディア
で大騒ぎになっていた。
チコという少女は、望遠鏡で小さな森を見つけ、
「遅くなったぞ、急がなくちゃ」と、まるで『不思議の国のアリス』みたいに
森のほうへ慌てて走っているウサギを見つけて、チコも一緒に森に入って行く。
そこでは途方もなく長い机に、動物ばかりか、花
、石、光
、月
、あらゆる自然のものたちが会議をしていた。
ニンゲンが自分たちを破壊していることについて。
チコは気まずい思いだったが「子どもになら分かってもらえるかもしれない」と会議への参加を許される。
そこでは、大人たちが物質文明や、軽薄なコマーシャリズムに踊らされ、
自然の大切さをすっかり忘れてしまっていると皆嘆いているのだった・・・
【内容抜粋メモ】
ライオン議長「わたしたちの未来は人間の子どもたちといっしょなんですから」
うさぎ「それが困るんだよね、大人になるとね、ぼくたちの声が聞こえなくなるんだよ。
聞こえなくなるばかりか、大人になると、とても大切なものが見えなくなってくるんだ」
童話の本が自分でページをパラパラとめくりなが言いました。
「わたしは人間に作ってもらったものです。でもわたしは、ここにいるみなさんと人間の子どもたちを結ぶ役目をしてきたつもりです。
そんなわたしも、もう、これからはいる場所がなくなってしまうでしよう」←なぜか旧かなちっく
(面白いのは、ここに著者が心配になって混じってくるという構成
こういったことは童話などでは比喩でいうべきことかもしれません。
でも、自然環境の問題に関しては、たとえ話をしているほど悠長なことを言っておられません。
森や林、湖
を壊し、動物たちを傷つけ、空気や水を汚し、食べるもの
にまで毒になるものを混ぜ、
どこかでは
放射能が漏れ続けて、汚れは空から、山
から、野原から、街から、川から、そして海までも、隙間なく広がっているのです。
童話は、子どもたちに未来があるということで作られるものです。
これまでは、子どもたちに未来があるということなんて、当たり前のことで、
10年後も20年後も当然いまと変わらずにあると思っていましたし、
それどころか今よりももっとよくなり生活しやすくなるものと思ってきました。
汚れた水を飲んだからといって、すぐに眼に見えて変化が起こるわけでもないかもしれません。
しかし、それは眼に見えないだけで、子どもたちの体の中では少しずつ何か奇妙なものがたまっているのです。
「何か奇妙なもの」は、なんとか見つからないように、ある量に達するまでは隠れ通すでしょう。
今の大人はいいです。どんなに自然が壊され、ゴミが溢れ、汚れた空気を吸おうが、
添加物や農薬まみれの食べものを食べようが、
紫外線や放射能を浴びようが、それらの影響が体の外に「何か奇妙なもの」として現れるころには、
もう充分と人生を楽しんで生きてしまっているのですから。
いまや元気のいい大人たちで毎日、事件や事故・争いごとやゴシップで新聞やテレビは大賑わいです。
自然環境のことなど考えていたらできない身勝手なことばかりです。
今の大人の子どもの頃は、川で泳げばはメダカに出会い、
たんぽぽやつくしんぼうの野原で寝っ転がって大自然
の真ん中で遊び育ったはずなのです(わたしも
それなのに大人になって気がつくと、自然とお話をするどころか、自然をいじめるほうにまわってしまっているのです。
それは童話の世界を忘れてしまって、動物やお花とお話ができなくなってしまうからです。
大人になってしまうからです。
そして、ついには自然の世界にはない、
お金というものに出会い、それがあれば何でも手に入ることを知ります。
友だちであったはずの動物
やお花まで買うことができるのです。
そうやってたくさんの物を持つことで、
人は自分が動物であることを忘れ、
自分が動物や自然より勝っていると思うようになるのです。
「いつまでも、そんな子どもみたいなこと言ってると、この厳しい世の中渡っていけないよ」と、早く大人になるようにとうながします。
大人の求める合理的で、豊かで、自由で、便利で、楽をしながら楽しむ生活をするには、
動物やお花などとお話をしている暇なんてありません。
目に見えるものだけを見て信じ、よく覚え、目の前のことを一生懸命こなしていけば、早く大人になれます。
見えないものを見、聞こえない声に耳を傾けられる感性の人と、
見えないものは見ない、聞こえないものは聞かないという人の差こそが、
自然環境を平気で壊せる人と、壊せない人との差になっているのです。
そこで確かなことは、
童話が見えない世界を見、聞こえない声を聞く感性を育ててくれるもののひとつであるということです。
(自然会議に戻って・・・)
「私たちはよく鉄砲とか弓矢で狙われて、それも暇つぶしのためにですよ。
チーターさんだって自分の足が速いからって、それを自慢するためや、暇つぶしのためにレイヨウさんを追いかけたりはしませんよね」
「僕らに人間の真似をさせ、それが少しでもできると喜ぶんだ。僕らには辛くて、ちっとも楽しくないのに
」
「私たちだって食べられるのが嫌なわけじゃあないの。
わたしをきちんと食べて生きてもらえば、それは自然のことだから。
ただ、わたしたちを食べるのが当たり前だという気持ちで、いい加減な食べ方をされるのがとても辛くて哀しいことなの。
だって、私たちの一生と命を食べてもらうんですから
」
「自然には約束事があるのにね、でもそれは眼には見えない約束事だから。
人間はすぐに言うんだ、約束したのなら証拠を見せろって、誓約書を見せろって」
「人間は違っているのを嫌がるんだよ。自分と違うと差別していじめるんだ」
「人間はよく言ってるよ。人に迷惑さえかけなければ何をやってもいいじゃあないかって」
「誰の世話にもならないって? 空気や水や鉛筆くん
や紙くん
、誰にも世話にならず迷惑をかけずにいられるなんて。
その人間はきっと生きてない人間じゃあないの。生きてるかぎり自由なんてないのにね」
「光である私に言わせてもらえば、今、というのはないんだよね。
みんなが今、見ている眼の前の物だって、私が当たらなくては見えないんだから。
私が太陽さん
を出発して物に当たってから、みんなの眼に見えるまでに8分以上もかかってしまうんだから。
だから、今、を同時に今見ることなんてできっこないのさ。(驚
その程度の今、なのに人間は今を信じ、今を大切にしているんだから」
「迷惑なのはいいさ。私たちだって、お互いに迷惑かけあっているんだからさ」
「そうだよ。問題なのは、迷惑をかけていることに気がつかないことなんだ」
「人間は自分のためだけに、自然は自分以外のためだけに生きているんだから」
(チコは混乱してくる
光「思いを自分の中からお遣いに出さなくちゃあ、思いは相手の気持ちの中に遣わされて、
そこで見えなかった相手の気持ちが見えてくるというわけさ。
こんな器用なことは人間にしかできないことだよ。思いは、明日や未来まで見てしまうんだから
」
チコ「わたしたち人間は、動物や自然に思いを遣(や)っていたかしら。もしやっていたら、自然をいじめたりできないはずなのに」
石「そうだよ、ぼくだって叩かれれば痛いんだから!」
童話「要するに、大人はお説教じみた童話より、もっと明るくて軽くて楽しいのが好きだということなのさ」
(だから自然は人間と競争しているのだと言う
「自然がみんななくなってしまうのと、そのことに人間みんなが気がつくのと、どちらが早いかさ。
今のところは、自然がなくなっていくほうが早いみたいだけどね。
君のように、気がつく人間が増えれば、まだ間に合うかもしれないけどね」
「人間はいつだって、いなくなってから気がついて心配顔をするだけなんだから」
(夜になってチコは帰らねばならず、また来てもいいかと尋ねると、みんながうなずく。
帰り道、プラスチックゴミからも話しかけられる。
ゴミ「私たちは自然から嫌われるのは仕方ないです。
でも、私たちを生んでくれた人間までが私たちを嫌って、こうやって棄てるんです」
(あとがきで、地球さんが本には書かないでねと言ったことを書くことにした著者
地球「人間は、ぼくのことを守ろうとか、保護しようなんて言ってるけど、ぼくは一度もそんなこと頼んだことないよ。
ぼくは45億年も前から生きているんだし、これからもそれくらいは生きていかなくてはならないんだから。
困ることは退屈しちゃうことなんだよ。だから、ぼくの上でいろいろなことが起こってくれることは大歓迎なのさ。
とくに最近になって人間が現れてからは退屈する暇がなくてね。
ぜひとも人間には、今までどおり、争ったり
、いじめあったりして、なるべく何も考えずにやりたい放題やってくれていれば、
これからも永い間飽きずに生きていけるというものさ。
人間がどんなふうに滅(き)えていくのか、興味があるしね。
希望を言わせてもらえるなら、もう少しゆっくりと願いたいんだよね。
それでないと、もうすぐ人間はひとり残らず病に侵されることになり、自分のこととなると真剣に考えるからね。
童話くん、今ぼくの言ったことは書かないでくれよ」