■松本幸四郎×草間弥生@SWITCHインタビュー 達人達 vol.169 さぁ、闘っていきましょう
【ブログ内関連記事】
草間彌生展「わが永遠の魂」@国立新美術館(2017.4.19 ネタバレ注意
草間彌生美術館(2017.12.14)
私は町歩きしていた時に、市川染五郎さん時代にすれ違ったことがある
お子さんを連れていて、目が合った時、見ず知らずの私にもほがらかな笑顔が印象的だった
*
松本さんはヴェガスでプロジェクションマッピングとコラボ 3日間で10万人を動員
フィギュアスケート×歌舞伎のコラボも成功させた(相手役はまさかの大ちゃん?!
無類のチャレンジャー、アイデアマンとして知られる
そんな彼が会いたいと願ったのは、前衛芸術家・草間弥生 「水玉の女王」とも呼ばれる
名だたる美術館から個展のオファーを受け、企業とのコラボも相次ぐ
88歳の現在も作品が無尽蔵に生みだされている
NHKスペシャル「“水玉の女王”草間弥生の全力疾走」(2012放送)
●対談相手に希望した理由は?
松本:
草間さんが大好きだから それに尽きますけれども
最初に作品を観た時、とても美しさを感じた
なぜか、それが自分の大好きな歌舞伎の美しさに共通するものを感じた
「絵を描くこと 生きることは闘いだ」とおっしゃっていたので
そのエネルギー源はどこにあるのかだったり、
何のために人にお見せするのかということを伺ってみたいと思う
Q:今日はどんなお話をされたいですか?
草間:
あらゆることについて 人間の愛とか これは録画してるの? 勘弁してw
少し長くなっても構いませんか?
●2017.12 新宿のアトリエを訪問
訪問は3回目ほどだという松本
草間はこのアトリエで日々創作を行っている
草間:
我々の住んでいる世界の中で、輝く星のようなあなたが
私のところにおいでになったことについて非常に感動しております
うちのスタッフも「ぜひひと目見たい」みんなそう言います
ほんとに人々に愛されている
ま:今描かれている絵は、あとどれくらいで完成?
く:
3日に1枚か、または1日1枚とか、1枚につき1年間とかみんなそれぞれ
なぜかというと、作品によって違う たとえば、こういうのとか中に作品がいっぱい埋もれてて
3つか4つくらい重なる時があります
ま:
いっぺんに何枚もという時もある
まだまだ描きたいものがあるってことですか?
く:
いくらでも出てくる 頭の中にどんどん出て来る
こんなものが出るとか全然知らなかった 描いているうちにこうなる
今日も死ぬほど絵を描いて、それでうんと疲れて
3時半ころに目を覚まして、夢の中に出てくると
朝までに描き直して作り直す
私は自殺しそうになった時に、ものすごく落ち込んだ時
結局、絵を描くことによって忘れることができる
あなたは落ち込んだことはないでしょ?
ま:しょっちゅうありますけど
く:
あなたは素晴らしい歌舞伎の大きな存在だけれども
それで落ち込んだ気持ちが治ることがあるでしょう?
ま:
幸せなことに舞台は常にそばにいてくれるので
なにか役を演じることで、それに支えられたり、励まされたりする
く:そうでしょうね 闘いだと思いますよ あなたの場合、いろいろ大きな仕事をやっていらっしゃるから
ま:先生は作品を人にお見せするというのは、どういうテーマというか?
く:
いろんな要素がいっぱい入ってる
死ぬこと 生きること 原爆 神さまの住処
●草間が作品に込めるテーマは、生と死、平和、愛、永遠、宇宙など多岐にわたる
ま:死に向かってる意識のほうが大きいというか、今を生きているというか、限りがあるというか?
く:
生と死についての闘いよね
少しでも素晴らしい仕事を後世に遺していきたいという気持ちが私を動かしています
こういった作品をつくった人は誰もいない おたくの場合どういう風にやるの?
ま:ただただ頑張るしかないんですが
く:
だって頑張るのは私たちと違って難しい いろんなやり方があるでしょ?
それを学ぶのには一生かかる だから大変な事業をあなたは引き受けたと思うよ
気の毒に思うよ 普通の芸術家よりも何倍も努力しなかったら成し遂げることは難しい
ま:僕の場合は歌舞伎が好きなので
く:
あ、そのせいですか 私が絵が好きだってことと、あなたが歌舞伎が好きだってこと
それで一生懸命やってるの? いつ頃からそうなった? 子どもの時から? 親から言われたから?
ま:それはないです
く:それは大したこと 天才のやること それをうんと大事にしなかったら後世に遺らないよ
ま:肉体は休まなければいけない時間も必要で
く:うんと描くから、だから倒れちゃう
ま:
それはもう今日はここまでってなるんですか?
僕は稽古はここまでにしようとか すぐヘタっちゃうんですけどw
く:
私だってへたっちゃうわよ
お互い芸術家で闘っているでしょ?
絵をあんまり一生懸命に描いて、お昼ご飯がきているのを忘れちゃって
午後3時ころになってクラクラって倒れそうになって
「草間先生はご飯食べてないからそうなる」
「あ、そういえば、そうだった」
ま:「お腹空いた」とかはないんですか?
く:それはあるけど、絵のほうに夢中になってる
●草間作品の特徴は繰り返し反復されるモチーフ
70年以上にも及ぶ芸術家としての人生
ま:先生の作品は描かれて残るじゃないですか 僕は舞台で演ったものは形に残るものではない
く:
そんなことない 一番神秘的なのは、みんなが染五郎さんのところへ「わー」て来る
ひと目見たいってそれがスゴイね あなたは特殊な芸術家
私たちは黙って絵を描いているけど、あなたの場合、みんなが「キャーキャー」言ってる
ほんとよ どうして? そのことを聞きたい 教えて
一般の人たちが憧れてるのね 私の場合は憧れてる? どう? 私の絵(時々周りのスタッフに尋ねる
ま:それはもう世界中から憧られていると思います
く:
芸術家になったことは大変なこと
芸術は創造の世界でしょ 新しい世界を創り出して、新しい人類の岐路を創っていく
私たちは旗手なんです
ま:自分が目指しているものを信じて生きるってことなんでしょうか?
く:
そうでしょう やっぱり人生の闘いの中に芸術は存在していて
それを乗り越えていくことが、人間としての存在感だと思う
ま:ずっと先生のそばに絵というものはあった?
く:
絵で私は自殺未遂を乗り越え、精神的に落ちくれていた時にどうやって元に戻すかって絵の世界です
だから私は絵描きであり、芸術家である
あなたは歌舞伎役者であって、その中の輝いた星である
あなた自身は「キャーキャー」言う人たちどころの騒ぎじゃなく
自分で鍛え直して、もっと前に進む その姿勢があなたの人生観の重みであり誇り
あなたはひとつの大きな誇りを持っている
私も誇りを持っています 芸術に負けないで、それを乗り越える
自分の人間としての努力 それに対して私はひとつの誇りをもって生きています
あなたは私たちよりももっと努力が必要だったと思う 今だってそうでしょ? よくやってると思いますよ
●草間弥生プロフィール
草間は子どもの頃から絵を描くのが大好きで画家になることを夢見ていた
10歳の頃に描いた母親の絵
草間は幼い頃から幻覚・幻聴に悩まされていた
時にはスミレや動物が話しかけてきたこともあった
襲ってくる不安や恐怖をしずめるために没頭したのが絵画だった
京都の美術学校で日本画を学びはじめる
当時から個性的な作品を生み出していた草間は、日本の画壇に馴染めなかった
(天才的で、高い評価のある芸術家はみんな日本の画壇に馴染めないのね
く:
子どもの頃はあまりにも惨めな生活をしていて、戦争の真っ只中で
明日をも知れないようなB29の空襲 食糧難とか、学徒動員・・・
(戦争が終わって)親戚が「弥生ちゃん、そんなにも苦しんでいるんだったら
日本を捨てて外国に行くんだったら僕手伝ってやる」と言われて
そしたらおばさんが東京に来て「この娘さんだったら預かります」と言ってくれて
それで私は向こう(アメリカ)に行って、死ぬほど闘ってまいりました
1958 単身NYへ 29歳の無名の画家は最先端のアートシーンに挑む
食べることにも困りながらも一心不乱にキャンバスに挑み続ける
渡米してしばらくして、人生を一変させる作品を発表
ひと筆、ひと筆、執拗に描かれた網の目が無限に広がる
ポップアート黎明期に衝撃を与えた
●1960年代後半 アメリカの社会運動に関心を向ける 「ハプニング」
街中に突如現れて、全裸の男女に水玉を描く 人間の身体と魂の解放を訴えた
ヴェトナム戦争など世界中の争いに対して反戦メッセージがあった
(ヨーコさんや、ウォーホルとも親交があったりするのかな?
ま:私はNYに行ったことがない どういう所でしょう?
く:
いっぺん行くといい NYはいろいろ新しいものを出していて
自分のやりたい放題のことをやっても、それを認める力、エネルギーがある街
ま:今でも闘いですか?
く:芸術家は一種の闘い
ま:闘うための力はどこから生まれる? そこに芸術があるから?
く:
自分は今何を求めて、どういうことをして社会に尽くすことができるか
前衛芸術家として自分がやれることはどういうことか
いつも考えながら人生の道を歩んでいきたい それが私の念願であります
ま:社会の動き、今の世の中を知るのも必要なこと?
く:
そうです だからいつもいろんな社会の動き、原爆に対するみんなの扱い方
貧乏な人々に対する人々の愛情とか、生活に行き詰った人たち
芸術に敗北して自殺した人々 そうした人たちに対する
私たちの限りない愛情、興味、励ましをもって
芸術家として私たちはもっと歴史の中に素晴らしい社会を作りたい
そういう立志を持って毎日を過ごしていき
こういった絵を描いていくたびに、もっともっといい作品を作りたいと思うことが
結局、私の大きな生きがいでありました
あなたにこんなものを読んで笑われるかなと思ったけど
ひと言、私の絵を描いてる気持ちを出したい 聞いていただける?
【草間弥生から世界の皆さんへのメッセージ】
「今、世界ではさまざまな国々や、人々の争いの中に
騒然として美しい平和とは遠い中で悩みは一層深くなっていきます・・・」
この1000文字に及ぶ世界へのメッセージは、去年OPENした草間弥生美術館に掲げられたもの
最後は草間の詩で締めくくられている
“さあ、闘いは無限だ
もっと独創的な作品をたくさんつくりたい
その事を考えると眠れない夜
創作の思いは未知の神秘への憧れだった”
私は前衛芸術家として宇宙の果てまでも闘いたい 倒れてしまうまで
これまで私の芸術の発展に力を貸してくださった多くの皆様に心からありがとうと申し上げます
ま:
“神秘”ていうのもすごい言葉ですね
舞台のお客さまに向けて、当然そこに届くよう、感動していただけるように努めるわけですが
よく考えると、神、天に向かって自分はやっているのかなと思う時がある
それを皆さんが観ているというような
く:
あなたは本当に素晴らしい芸術家ですね
だから間違いなく1人はいるでしょ 劇場に その素晴らしさに打たれているの
続いてくる体の神秘的な発想が永遠に続くって
そういった神秘感にみんな惑わされて、無我夢中で劇場に走っていくわけよ
そう思わない? 正しいでしょう?
ま:そうなり得たいと思います 願っている
く:これは1つの哲学だよね
●絵画シリーズ『わが永遠の魂』
草間は朝6時~夕方6時までキャンバスに向かう
今取り組んでいるのは、絵画シリーズ『わが永遠の魂』
2009年に制作を始め、9年間で出来た作品は550点以上
唯一の悩みは時間が足りないこと
『無限の網 草間弥生自伝』(新潮文庫)
●草間の今の望みは描き続けること
く:毎日、毎日、絵を描かない日はないです
ま:その中でも、今年、昨年の作品もいろいろ変化して、進化している
く:もっといいものを描いている
ま:それは自然と変わってくる?
く:
(スタッフに)知ってるよね? 私は1年ごとにいい仕事をしている
こういうところが(腰)痛いとか言っていられない
体を叩きのめして、闘って、作家として成り立っている
体に負けちゃいられないの
ま:歌舞伎役者の残し方とは?
く:
遺ってるじゃない あなたの体の中に先祖からの 体で、スタイルで遺ってるの
私は絵や彫刻 あなたの場合、生きた人間が次から次へ遺ってる あなたは誰のお弟子さんになったの?
ま:父から教わっています
く:それは大したもんだ
ま:私の家自体は曽祖父から歌舞伎役者で、息子もしています
く:大事業だね どういうことに耐えてきた? 毎日、毎日、勉強でしょう?
ま:
逆にリアルタイムに皆様にお見せできる 舞台は生なので
「なんとか終わったら明日こそは」という思いの連続
でも終わった時に舞台はその瞬間で消えていく
遺るというのは、ご覧になった方の中に遺るってことですよね
受け継がれたもの、教わったものは、自分の中に遺るもの
それが永遠ということなんでしょうか?
先生は、“永遠”という、肉体は滅びても、描いたものが永遠に遺っていく
く:これは、今日のミーティングのトップ的なテーマだね 今日は大変な哲学を語った
***SWITCH***
●2018.1 歌舞伎座
アトリエでの対談から1ヵ月半 襲名披露公演に草間がやって来る
Q:緊張されてます?
ま:
してますよ 毎回、毎回、お会いするのは一期一会だと思っています
歌舞伎座に入っていただくこと自体、こんな光栄なことはない
く:
このような立派なところに招いてくださって本当にありがとうございます
着物がとてもよく似合いますね よろしくお願いいたします
●草間さんにどうしても見てもらいたいものがあった
く:(目に入った瞬間)ああ素晴らしい 本当に素晴らしい と涙が流れる
「祝い幕」に草間弥生の絵が使われた 高さ7.1m×幅30.3m
幸四郎自らが手紙を書き、デザインを依頼
最新の2017年の作品の中から2人で選び出した
く:こんなにステキになって、ほんとに感激いたしました
その言葉に幸四郎さんの目にも涙
ま:ここのためにあるマークのような感じがして
草間はテーマをつけた 「愛を持って人生を語ろう」
この祝い幕を前に人生を語り合う
く:
このような立派な装丁や作品の新しさにかこつけて、素晴らしい視覚を私たちに与えてくれること
私は深く心から嬉しく思っております
ここまで私を導いてくださったあなたに私の深い感謝の気持ちを捧げたいと思っております
ま:
この大きさで先生の作品を観ることが出来るのは、こんなに幸せで贅沢なことはない
なぜ先生の作品が好きかというと、ここにあるものももちろん、ここにある先を見せていただいている
精神性、人間愛、平和などを見せていただいている
観ていて洗われる気持ちがありますし、力を頂いている
く:
あなたのような方がいらっしゃるということは、私たちの気持ちの中で大きく花咲いているということを知って
全世界の人々に私たちの感動を伝えていきたいという思いを、強くいつも持ち続けて芸術家としてやっていきたい
ま:
幕をお願いする時に先生が「新しいことをやりましょうよ」と言っていただいた
これがすごく僕の中で強烈に残っていて、僕自身もいろんなことを考えるのが好きなたちで
この幕が開いて、我々がその舞台に立っているということになりますが
先生の作品の中で舞台に立つことも妄想したりしてますw
く:
あなたの中で驚きは、歌舞伎というのは、ひとつは人間の最先端の姿でありながら
もう1つは古い世界をも押し砕いて、その両方を握りしめている
人間として、芸術家としてなさねばならなかった、その姿の一端を
私の人生が掴むことができたら、私は本当に幸せだと思います
ま:その思いを持ち続ける強さのスゴさにとても感動を受けて感動しています
●松本幸四郎(市川染五郎)さんプロフィール
歌舞伎の名門に生まれ、幼い頃から父を真似て歌舞伎ごっこで遊ぶ子どもだった
5歳で踊りの稽古が始まり、6歳で初舞台を踏む
8歳で8代目市川染五郎を襲名 芸の道を歩みはじめる
ま:
私は曽祖父から歌舞伎役者の家で、生まれた時から歌舞伎の環境で
ほぼ生まれた時から歌舞伎の舞台に立ちたいという思いがあって、6歳で初舞台を踏ませていただいた
正直その時の記憶は「やっと舞台に立てた」という記憶しかない
それがなぜなのか分からない部分はある
ただ好きだっていうだけじゃなく、やはり、父や祖父がこの舞台に立つ姿を見てカッコいいとか、憧れるとかがあって
それをずっと追い続けて今にいる
く:みんなあなたに期待してますからね お忘れなく
ま:
もちろん先人がやってきた素晴らしい芸をみなさんにお伝えすることも役目ですし
一方で新しいこと、これから生まれることを生むのも一つの役目だと思っています
く:
もっともっと高く品格のある素晴らしさ 人間愛に満ちたあなたの今までの人生に
私たちは強い尊敬の念を持っております
●2018 高麗屋 三代の春
それぞれが父の名を継ぐ
●2018.1.2 襲名披露口上初日
ま:
1月に襲名をさせていただきましたが、まだまだ名が変わったことを実感するには時間がかかる
今回、父、私、息子と三代同時に襲名させていただくということは、とても珍しいこと
父も現役で舞台に立つ 息子も舞台に立ちたいという憧れがある中でないと出来ないことなので
一生に一度しかない時間なので、先生の作品に力を頂いて披露が出来る
こんなありがたい、幸せなことはない
(だから3枚の絵なのか
●『勧進帳』について
弁慶は豪胆で仁義に厚い人物像 猛々しいセリフ回し、深みのある芸が求められる
松本幸四郎家にとって弁慶は特別 曽祖父が1600回以上演じ、祖父、父と受け継がれてきた
「飛び六方」は最後の見せ場
(スキップのように花道をはけていく
ま:
1月に演ったちょうど最後の場面 これは曽祖父の代からずっとやり続けているお芝居で
披露の題目として演らせていただきました
く:
ほんとに感動的です 昔の人も今の人も十分に、このすべての精神的な力
人間愛に対する素晴らしさというものを十分に出しているということ
私たちはつくづく感動をもっております
ま:
私も生まれてすぐ、父、祖父が演った弁慶を観て、歌舞伎役者になりたいと思った演目、役でもある
それで襲名披露が出来るのは本当に幸せなことでした
く:
襲名は非常に大きな仕事でしたね 歌舞伎の世界でこれは非常に大きな出来事であって
その中にあなたたちが立って、突き抜けて、最大に天下にこれらを叫び続ける
そうした歌舞伎役者としての精神力の強さを、観ている人たちは非常に強く感じる
ま:
とても苦しかったですね 弁慶を演じる実感を持ちながら、務められたという幸せ
それだけとてつもない作品、役なんだと毎日実感しながら演れた感じ
自身でも自分がやるべきこと、教わってきたこと、自分を信じることが正直難しくて、すぐ不安になるんですけど
でもそれを信じて舞台に立つことへの闘いをしている
く:
私は何十年と絵筆を持って闘い、そしてあなたも歌舞伎という素晴らしい世界
今日まで生きてこられて、なおかつ、もっと強く、もっと素晴らしく生きていこうとする人格に
多くの人々が涙をこぼして、あなたを支持していること(言葉を詰まらせ
そうした気持ちをみなに与えてきたのがあなたの人生というもの
ま:
不安とかではなく“こうしていきたい”その思いの強さが大事なんでしょうか
妄想ですけれども、こんなことがあったら面白い、こういうことをやってみたいと
考えるのが趣味のような人間で、その思いを形にしていくことも大事だと思いますし
「何をしたいか」ということがとても大事だと強く感じる
なにかそれが化学反応が起きるようなことができないかなと考えている
●2017.5 氷艶
歌舞伎とフィギュアスケートのコラボは史上初
Q:幸四郎さんのエネルギー源は?
ま:
お芝居もフィクション 中でも歌舞伎は、堂々たる大ウソつきの世界ですから
フィギュアスケートショーでも架空のものですから
そういうものにどっぷりハマりこんでしまうということは、ある意味、現実逃避ですかねw
現実逃避力がエネルギーみたいな感じ
その妄想することが楽しいし、それを現実にするにはどうしたらいいんだろうってことも楽しい
実際そういうチャンスがあったら、そこからは時間との闘い
最初の思いを大切に忘れずにいれば、それこそ闘っていける
形になった時に、自身も感動が得られるのではないかと思ってます
●2015 アメリカ ラスヴェガス
恋の化け物をプロジェクションマッピングでダイナミックに表現(立ち見なんだ/驚
ま:
僕自身は歌舞伎の力になることを信じて、
先生のように、自分は闘っているんだということを自分で言えるような人生を過ごしていきたい
そのためには歌舞伎の舞台に立ち続ける
く:
そうすべきよ これだけの絵でもね(祝い幕)歌舞伎の世界のこと、言葉を
ひとつの形だけでなく、うんと投げかけてきている
みんなそれぞれの世界の中に入っている
それを見つけるために私は何十年て人生を歩いてきて、ようやくここ来て
もっともっと感動的な世界に入りたいと望んでいる
(このパワー、エネルギーは太郎さんにも通じるな
どんな原子爆弾でも、地球が壊れても、壊れることのない、最高の道を歩んでいきたい
芸術家として、これ以上ないという姿として
自分の功績を芸術として遺していきたい
死んだ後も永遠に遺していきたいと思ってまいりました
ま:ほんとにこれ(祝い幕)を力にして務めたいと思っています
く:いつもあなたの芸術の姿というものを私たちはみんな観てる みんな死に物狂いでやってますよ
ま:僕もそう努めたいと思います
く:これからもうんと闘っていきましょう
2人は握手した
●2月1日 大歌舞伎初日
草間弥生の祝い幕が観客にお披露目され、大勢が写メっていた
【ブログ内関連記事】
草間彌生展「わが永遠の魂」@国立新美術館(2017.4.19 ネタバレ注意
草間彌生美術館(2017.12.14)
私は町歩きしていた時に、市川染五郎さん時代にすれ違ったことがある
お子さんを連れていて、目が合った時、見ず知らずの私にもほがらかな笑顔が印象的だった
*
松本さんはヴェガスでプロジェクションマッピングとコラボ 3日間で10万人を動員
フィギュアスケート×歌舞伎のコラボも成功させた(相手役はまさかの大ちゃん?!
無類のチャレンジャー、アイデアマンとして知られる
そんな彼が会いたいと願ったのは、前衛芸術家・草間弥生 「水玉の女王」とも呼ばれる
名だたる美術館から個展のオファーを受け、企業とのコラボも相次ぐ
88歳の現在も作品が無尽蔵に生みだされている
NHKスペシャル「“水玉の女王”草間弥生の全力疾走」(2012放送)
●対談相手に希望した理由は?
松本:
草間さんが大好きだから それに尽きますけれども
最初に作品を観た時、とても美しさを感じた
なぜか、それが自分の大好きな歌舞伎の美しさに共通するものを感じた
「絵を描くこと 生きることは闘いだ」とおっしゃっていたので
そのエネルギー源はどこにあるのかだったり、
何のために人にお見せするのかということを伺ってみたいと思う
Q:今日はどんなお話をされたいですか?
草間:
あらゆることについて 人間の愛とか これは録画してるの? 勘弁してw
少し長くなっても構いませんか?
●2017.12 新宿のアトリエを訪問
訪問は3回目ほどだという松本
草間はこのアトリエで日々創作を行っている
草間:
我々の住んでいる世界の中で、輝く星のようなあなたが
私のところにおいでになったことについて非常に感動しております
うちのスタッフも「ぜひひと目見たい」みんなそう言います
ほんとに人々に愛されている
ま:今描かれている絵は、あとどれくらいで完成?
く:
3日に1枚か、または1日1枚とか、1枚につき1年間とかみんなそれぞれ
なぜかというと、作品によって違う たとえば、こういうのとか中に作品がいっぱい埋もれてて
3つか4つくらい重なる時があります
ま:
いっぺんに何枚もという時もある
まだまだ描きたいものがあるってことですか?
く:
いくらでも出てくる 頭の中にどんどん出て来る
こんなものが出るとか全然知らなかった 描いているうちにこうなる
今日も死ぬほど絵を描いて、それでうんと疲れて
3時半ころに目を覚まして、夢の中に出てくると
朝までに描き直して作り直す
私は自殺しそうになった時に、ものすごく落ち込んだ時
結局、絵を描くことによって忘れることができる
あなたは落ち込んだことはないでしょ?
ま:しょっちゅうありますけど
く:
あなたは素晴らしい歌舞伎の大きな存在だけれども
それで落ち込んだ気持ちが治ることがあるでしょう?
ま:
幸せなことに舞台は常にそばにいてくれるので
なにか役を演じることで、それに支えられたり、励まされたりする
く:そうでしょうね 闘いだと思いますよ あなたの場合、いろいろ大きな仕事をやっていらっしゃるから
ま:先生は作品を人にお見せするというのは、どういうテーマというか?
く:
いろんな要素がいっぱい入ってる
死ぬこと 生きること 原爆 神さまの住処
●草間が作品に込めるテーマは、生と死、平和、愛、永遠、宇宙など多岐にわたる
ま:死に向かってる意識のほうが大きいというか、今を生きているというか、限りがあるというか?
く:
生と死についての闘いよね
少しでも素晴らしい仕事を後世に遺していきたいという気持ちが私を動かしています
こういった作品をつくった人は誰もいない おたくの場合どういう風にやるの?
ま:ただただ頑張るしかないんですが
く:
だって頑張るのは私たちと違って難しい いろんなやり方があるでしょ?
それを学ぶのには一生かかる だから大変な事業をあなたは引き受けたと思うよ
気の毒に思うよ 普通の芸術家よりも何倍も努力しなかったら成し遂げることは難しい
ま:僕の場合は歌舞伎が好きなので
く:
あ、そのせいですか 私が絵が好きだってことと、あなたが歌舞伎が好きだってこと
それで一生懸命やってるの? いつ頃からそうなった? 子どもの時から? 親から言われたから?
ま:それはないです
く:それは大したこと 天才のやること それをうんと大事にしなかったら後世に遺らないよ
ま:肉体は休まなければいけない時間も必要で
く:うんと描くから、だから倒れちゃう
ま:
それはもう今日はここまでってなるんですか?
僕は稽古はここまでにしようとか すぐヘタっちゃうんですけどw
く:
私だってへたっちゃうわよ
お互い芸術家で闘っているでしょ?
絵をあんまり一生懸命に描いて、お昼ご飯がきているのを忘れちゃって
午後3時ころになってクラクラって倒れそうになって
「草間先生はご飯食べてないからそうなる」
「あ、そういえば、そうだった」
ま:「お腹空いた」とかはないんですか?
く:それはあるけど、絵のほうに夢中になってる
●草間作品の特徴は繰り返し反復されるモチーフ
70年以上にも及ぶ芸術家としての人生
ま:先生の作品は描かれて残るじゃないですか 僕は舞台で演ったものは形に残るものではない
く:
そんなことない 一番神秘的なのは、みんなが染五郎さんのところへ「わー」て来る
ひと目見たいってそれがスゴイね あなたは特殊な芸術家
私たちは黙って絵を描いているけど、あなたの場合、みんなが「キャーキャー」言ってる
ほんとよ どうして? そのことを聞きたい 教えて
一般の人たちが憧れてるのね 私の場合は憧れてる? どう? 私の絵(時々周りのスタッフに尋ねる
ま:それはもう世界中から憧られていると思います
く:
芸術家になったことは大変なこと
芸術は創造の世界でしょ 新しい世界を創り出して、新しい人類の岐路を創っていく
私たちは旗手なんです
ま:自分が目指しているものを信じて生きるってことなんでしょうか?
く:
そうでしょう やっぱり人生の闘いの中に芸術は存在していて
それを乗り越えていくことが、人間としての存在感だと思う
ま:ずっと先生のそばに絵というものはあった?
く:
絵で私は自殺未遂を乗り越え、精神的に落ちくれていた時にどうやって元に戻すかって絵の世界です
だから私は絵描きであり、芸術家である
あなたは歌舞伎役者であって、その中の輝いた星である
あなた自身は「キャーキャー」言う人たちどころの騒ぎじゃなく
自分で鍛え直して、もっと前に進む その姿勢があなたの人生観の重みであり誇り
あなたはひとつの大きな誇りを持っている
私も誇りを持っています 芸術に負けないで、それを乗り越える
自分の人間としての努力 それに対して私はひとつの誇りをもって生きています
あなたは私たちよりももっと努力が必要だったと思う 今だってそうでしょ? よくやってると思いますよ
●草間弥生プロフィール
草間は子どもの頃から絵を描くのが大好きで画家になることを夢見ていた
10歳の頃に描いた母親の絵
草間は幼い頃から幻覚・幻聴に悩まされていた
時にはスミレや動物が話しかけてきたこともあった
襲ってくる不安や恐怖をしずめるために没頭したのが絵画だった
京都の美術学校で日本画を学びはじめる
当時から個性的な作品を生み出していた草間は、日本の画壇に馴染めなかった
(天才的で、高い評価のある芸術家はみんな日本の画壇に馴染めないのね
く:
子どもの頃はあまりにも惨めな生活をしていて、戦争の真っ只中で
明日をも知れないようなB29の空襲 食糧難とか、学徒動員・・・
(戦争が終わって)親戚が「弥生ちゃん、そんなにも苦しんでいるんだったら
日本を捨てて外国に行くんだったら僕手伝ってやる」と言われて
そしたらおばさんが東京に来て「この娘さんだったら預かります」と言ってくれて
それで私は向こう(アメリカ)に行って、死ぬほど闘ってまいりました
1958 単身NYへ 29歳の無名の画家は最先端のアートシーンに挑む
食べることにも困りながらも一心不乱にキャンバスに挑み続ける
渡米してしばらくして、人生を一変させる作品を発表
ひと筆、ひと筆、執拗に描かれた網の目が無限に広がる
ポップアート黎明期に衝撃を与えた
●1960年代後半 アメリカの社会運動に関心を向ける 「ハプニング」
街中に突如現れて、全裸の男女に水玉を描く 人間の身体と魂の解放を訴えた
ヴェトナム戦争など世界中の争いに対して反戦メッセージがあった
(ヨーコさんや、ウォーホルとも親交があったりするのかな?
ま:私はNYに行ったことがない どういう所でしょう?
く:
いっぺん行くといい NYはいろいろ新しいものを出していて
自分のやりたい放題のことをやっても、それを認める力、エネルギーがある街
ま:今でも闘いですか?
く:芸術家は一種の闘い
ま:闘うための力はどこから生まれる? そこに芸術があるから?
く:
自分は今何を求めて、どういうことをして社会に尽くすことができるか
前衛芸術家として自分がやれることはどういうことか
いつも考えながら人生の道を歩んでいきたい それが私の念願であります
ま:社会の動き、今の世の中を知るのも必要なこと?
く:
そうです だからいつもいろんな社会の動き、原爆に対するみんなの扱い方
貧乏な人々に対する人々の愛情とか、生活に行き詰った人たち
芸術に敗北して自殺した人々 そうした人たちに対する
私たちの限りない愛情、興味、励ましをもって
芸術家として私たちはもっと歴史の中に素晴らしい社会を作りたい
そういう立志を持って毎日を過ごしていき
こういった絵を描いていくたびに、もっともっといい作品を作りたいと思うことが
結局、私の大きな生きがいでありました
あなたにこんなものを読んで笑われるかなと思ったけど
ひと言、私の絵を描いてる気持ちを出したい 聞いていただける?
【草間弥生から世界の皆さんへのメッセージ】
「今、世界ではさまざまな国々や、人々の争いの中に
騒然として美しい平和とは遠い中で悩みは一層深くなっていきます・・・」
この1000文字に及ぶ世界へのメッセージは、去年OPENした草間弥生美術館に掲げられたもの
最後は草間の詩で締めくくられている
“さあ、闘いは無限だ
もっと独創的な作品をたくさんつくりたい
その事を考えると眠れない夜
創作の思いは未知の神秘への憧れだった”
私は前衛芸術家として宇宙の果てまでも闘いたい 倒れてしまうまで
これまで私の芸術の発展に力を貸してくださった多くの皆様に心からありがとうと申し上げます
ま:
“神秘”ていうのもすごい言葉ですね
舞台のお客さまに向けて、当然そこに届くよう、感動していただけるように努めるわけですが
よく考えると、神、天に向かって自分はやっているのかなと思う時がある
それを皆さんが観ているというような
く:
あなたは本当に素晴らしい芸術家ですね
だから間違いなく1人はいるでしょ 劇場に その素晴らしさに打たれているの
続いてくる体の神秘的な発想が永遠に続くって
そういった神秘感にみんな惑わされて、無我夢中で劇場に走っていくわけよ
そう思わない? 正しいでしょう?
ま:そうなり得たいと思います 願っている
く:これは1つの哲学だよね
●絵画シリーズ『わが永遠の魂』
草間は朝6時~夕方6時までキャンバスに向かう
今取り組んでいるのは、絵画シリーズ『わが永遠の魂』
2009年に制作を始め、9年間で出来た作品は550点以上
唯一の悩みは時間が足りないこと
『無限の網 草間弥生自伝』(新潮文庫)
●草間の今の望みは描き続けること
く:毎日、毎日、絵を描かない日はないです
ま:その中でも、今年、昨年の作品もいろいろ変化して、進化している
く:もっといいものを描いている
ま:それは自然と変わってくる?
く:
(スタッフに)知ってるよね? 私は1年ごとにいい仕事をしている
こういうところが(腰)痛いとか言っていられない
体を叩きのめして、闘って、作家として成り立っている
体に負けちゃいられないの
ま:歌舞伎役者の残し方とは?
く:
遺ってるじゃない あなたの体の中に先祖からの 体で、スタイルで遺ってるの
私は絵や彫刻 あなたの場合、生きた人間が次から次へ遺ってる あなたは誰のお弟子さんになったの?
ま:父から教わっています
く:それは大したもんだ
ま:私の家自体は曽祖父から歌舞伎役者で、息子もしています
く:大事業だね どういうことに耐えてきた? 毎日、毎日、勉強でしょう?
ま:
逆にリアルタイムに皆様にお見せできる 舞台は生なので
「なんとか終わったら明日こそは」という思いの連続
でも終わった時に舞台はその瞬間で消えていく
遺るというのは、ご覧になった方の中に遺るってことですよね
受け継がれたもの、教わったものは、自分の中に遺るもの
それが永遠ということなんでしょうか?
先生は、“永遠”という、肉体は滅びても、描いたものが永遠に遺っていく
く:これは、今日のミーティングのトップ的なテーマだね 今日は大変な哲学を語った
***SWITCH***
●2018.1 歌舞伎座
アトリエでの対談から1ヵ月半 襲名披露公演に草間がやって来る
Q:緊張されてます?
ま:
してますよ 毎回、毎回、お会いするのは一期一会だと思っています
歌舞伎座に入っていただくこと自体、こんな光栄なことはない
く:
このような立派なところに招いてくださって本当にありがとうございます
着物がとてもよく似合いますね よろしくお願いいたします
●草間さんにどうしても見てもらいたいものがあった
く:(目に入った瞬間)ああ素晴らしい 本当に素晴らしい と涙が流れる
「祝い幕」に草間弥生の絵が使われた 高さ7.1m×幅30.3m
幸四郎自らが手紙を書き、デザインを依頼
最新の2017年の作品の中から2人で選び出した
く:こんなにステキになって、ほんとに感激いたしました
その言葉に幸四郎さんの目にも涙
ま:ここのためにあるマークのような感じがして
草間はテーマをつけた 「愛を持って人生を語ろう」
この祝い幕を前に人生を語り合う
く:
このような立派な装丁や作品の新しさにかこつけて、素晴らしい視覚を私たちに与えてくれること
私は深く心から嬉しく思っております
ここまで私を導いてくださったあなたに私の深い感謝の気持ちを捧げたいと思っております
ま:
この大きさで先生の作品を観ることが出来るのは、こんなに幸せで贅沢なことはない
なぜ先生の作品が好きかというと、ここにあるものももちろん、ここにある先を見せていただいている
精神性、人間愛、平和などを見せていただいている
観ていて洗われる気持ちがありますし、力を頂いている
く:
あなたのような方がいらっしゃるということは、私たちの気持ちの中で大きく花咲いているということを知って
全世界の人々に私たちの感動を伝えていきたいという思いを、強くいつも持ち続けて芸術家としてやっていきたい
ま:
幕をお願いする時に先生が「新しいことをやりましょうよ」と言っていただいた
これがすごく僕の中で強烈に残っていて、僕自身もいろんなことを考えるのが好きなたちで
この幕が開いて、我々がその舞台に立っているということになりますが
先生の作品の中で舞台に立つことも妄想したりしてますw
く:
あなたの中で驚きは、歌舞伎というのは、ひとつは人間の最先端の姿でありながら
もう1つは古い世界をも押し砕いて、その両方を握りしめている
人間として、芸術家としてなさねばならなかった、その姿の一端を
私の人生が掴むことができたら、私は本当に幸せだと思います
ま:その思いを持ち続ける強さのスゴさにとても感動を受けて感動しています
●松本幸四郎(市川染五郎)さんプロフィール
歌舞伎の名門に生まれ、幼い頃から父を真似て歌舞伎ごっこで遊ぶ子どもだった
5歳で踊りの稽古が始まり、6歳で初舞台を踏む
8歳で8代目市川染五郎を襲名 芸の道を歩みはじめる
ま:
私は曽祖父から歌舞伎役者の家で、生まれた時から歌舞伎の環境で
ほぼ生まれた時から歌舞伎の舞台に立ちたいという思いがあって、6歳で初舞台を踏ませていただいた
正直その時の記憶は「やっと舞台に立てた」という記憶しかない
それがなぜなのか分からない部分はある
ただ好きだっていうだけじゃなく、やはり、父や祖父がこの舞台に立つ姿を見てカッコいいとか、憧れるとかがあって
それをずっと追い続けて今にいる
く:みんなあなたに期待してますからね お忘れなく
ま:
もちろん先人がやってきた素晴らしい芸をみなさんにお伝えすることも役目ですし
一方で新しいこと、これから生まれることを生むのも一つの役目だと思っています
く:
もっともっと高く品格のある素晴らしさ 人間愛に満ちたあなたの今までの人生に
私たちは強い尊敬の念を持っております
●2018 高麗屋 三代の春
それぞれが父の名を継ぐ
●2018.1.2 襲名披露口上初日
ま:
1月に襲名をさせていただきましたが、まだまだ名が変わったことを実感するには時間がかかる
今回、父、私、息子と三代同時に襲名させていただくということは、とても珍しいこと
父も現役で舞台に立つ 息子も舞台に立ちたいという憧れがある中でないと出来ないことなので
一生に一度しかない時間なので、先生の作品に力を頂いて披露が出来る
こんなありがたい、幸せなことはない
(だから3枚の絵なのか
●『勧進帳』について
弁慶は豪胆で仁義に厚い人物像 猛々しいセリフ回し、深みのある芸が求められる
松本幸四郎家にとって弁慶は特別 曽祖父が1600回以上演じ、祖父、父と受け継がれてきた
「飛び六方」は最後の見せ場
(スキップのように花道をはけていく
ま:
1月に演ったちょうど最後の場面 これは曽祖父の代からずっとやり続けているお芝居で
披露の題目として演らせていただきました
く:
ほんとに感動的です 昔の人も今の人も十分に、このすべての精神的な力
人間愛に対する素晴らしさというものを十分に出しているということ
私たちはつくづく感動をもっております
ま:
私も生まれてすぐ、父、祖父が演った弁慶を観て、歌舞伎役者になりたいと思った演目、役でもある
それで襲名披露が出来るのは本当に幸せなことでした
く:
襲名は非常に大きな仕事でしたね 歌舞伎の世界でこれは非常に大きな出来事であって
その中にあなたたちが立って、突き抜けて、最大に天下にこれらを叫び続ける
そうした歌舞伎役者としての精神力の強さを、観ている人たちは非常に強く感じる
ま:
とても苦しかったですね 弁慶を演じる実感を持ちながら、務められたという幸せ
それだけとてつもない作品、役なんだと毎日実感しながら演れた感じ
自身でも自分がやるべきこと、教わってきたこと、自分を信じることが正直難しくて、すぐ不安になるんですけど
でもそれを信じて舞台に立つことへの闘いをしている
く:
私は何十年と絵筆を持って闘い、そしてあなたも歌舞伎という素晴らしい世界
今日まで生きてこられて、なおかつ、もっと強く、もっと素晴らしく生きていこうとする人格に
多くの人々が涙をこぼして、あなたを支持していること(言葉を詰まらせ
そうした気持ちをみなに与えてきたのがあなたの人生というもの
ま:
不安とかではなく“こうしていきたい”その思いの強さが大事なんでしょうか
妄想ですけれども、こんなことがあったら面白い、こういうことをやってみたいと
考えるのが趣味のような人間で、その思いを形にしていくことも大事だと思いますし
「何をしたいか」ということがとても大事だと強く感じる
なにかそれが化学反応が起きるようなことができないかなと考えている
●2017.5 氷艶
歌舞伎とフィギュアスケートのコラボは史上初
Q:幸四郎さんのエネルギー源は?
ま:
お芝居もフィクション 中でも歌舞伎は、堂々たる大ウソつきの世界ですから
フィギュアスケートショーでも架空のものですから
そういうものにどっぷりハマりこんでしまうということは、ある意味、現実逃避ですかねw
現実逃避力がエネルギーみたいな感じ
その妄想することが楽しいし、それを現実にするにはどうしたらいいんだろうってことも楽しい
実際そういうチャンスがあったら、そこからは時間との闘い
最初の思いを大切に忘れずにいれば、それこそ闘っていける
形になった時に、自身も感動が得られるのではないかと思ってます
●2015 アメリカ ラスヴェガス
恋の化け物をプロジェクションマッピングでダイナミックに表現(立ち見なんだ/驚
ま:
僕自身は歌舞伎の力になることを信じて、
先生のように、自分は闘っているんだということを自分で言えるような人生を過ごしていきたい
そのためには歌舞伎の舞台に立ち続ける
く:
そうすべきよ これだけの絵でもね(祝い幕)歌舞伎の世界のこと、言葉を
ひとつの形だけでなく、うんと投げかけてきている
みんなそれぞれの世界の中に入っている
それを見つけるために私は何十年て人生を歩いてきて、ようやくここ来て
もっともっと感動的な世界に入りたいと望んでいる
(このパワー、エネルギーは太郎さんにも通じるな
どんな原子爆弾でも、地球が壊れても、壊れることのない、最高の道を歩んでいきたい
芸術家として、これ以上ないという姿として
自分の功績を芸術として遺していきたい
死んだ後も永遠に遺していきたいと思ってまいりました
ま:ほんとにこれ(祝い幕)を力にして務めたいと思っています
く:いつもあなたの芸術の姿というものを私たちはみんな観てる みんな死に物狂いでやってますよ
ま:僕もそう努めたいと思います
く:これからもうんと闘っていきましょう
2人は握手した
●2月1日 大歌舞伎初日
草間弥生の祝い幕が観客にお披露目され、大勢が写メっていた