1992年初版 斉藤健一/訳
※「作家別」カテゴリー内に追加しました
読み始めて、長編でないことに少しガッカリしたけれども
登場人物が章を越えて重なり合う構成が素晴らしく
底辺の生活の中にあるそれぞれの幸福が描かれ
どの物語の終わりにも穏やかな救いがあって
作者の温かい心を感じる
日本の江戸時代も、この見習い制度みたいに丁稚奉公があったよね
職人になるまで仕込まれて、一生それで生活していけるのは手堅いし
それぞれが互いに助け合って生きる仕組みに思える
作者の生きている時代より過去のことを書いているのに
まるで目の前で起きているように描き出せる文才はホンモノ
【内容抜粋メモ】
■徒弟制度について
親は一定の金額を親方に支払い、食事、住まい、知識を与える代わりに
7年間修業し、小遣い程度の給料をもらう
7年後、見習いは職人になり、親方の下で働き続けることになる
親方の娘と結婚するか、親方が死んだ際、おかみさんと結婚する(!)しか
自分の店を持つチャンスはなかった
1764年、小間物商の見習いの少年が親方のお金を1万ポンドも盗んだ事件があった
罰として、当時イギリス植民地だったアメリカに送られ、立派な銀行家になった
■点灯夫の葬式
点灯夫サムの葬式に仲間が棺桶をかついで夜中に運ぶ
ポールキャットは転んで倒れ、そばにいた少年ポッスルが代わりをする
居酒屋「鷲と子ども」での宴会で、飲食の会費1シリングを集める会長は
少年をサムの子どもだと思う
ポールキャットが居酒屋に来て、お礼にポッスルを家に泊める
部屋にはたくさんの聖書の言葉が飾ってある
“神は「光あれ」といわれた すると光があった”
ポールキャットはケチで有名だが、アパートに帰ると誰かが待っていると思うと
つい嬉しくなる
ポールキャット:お前を見習いにしてやろう
暗い夜道をたいまつで照らして目的地まで送る
ポッスルが照らすと、寒さにふるえる女、足のない男などがいきなり街角から照らし出される
ありとあらゆる不幸や悲しみを見て、次第に客はポッスルを避けるようになる
ポッスルは大柄な男の案内をして
枯れ枝みたいにやせた女から青白い炎が飛び出すのを照らす
男は肩に女をかついで家まで連れて帰る
ポッスルが帰らないため、心配して何日も探して歩くが見つからない
ポールキャット:あの子は精霊かなんかだったよ 実にいい夢だった
ポッスルが酒場に来て、川からボロボロの子どもを助けてきた
ポッスル:この子も僕みたいに親方の見習いにできないかな
親方:ポッスル(使徒)とはよく言ったもんだ さあ、帰るぞ、そのちびも一緒だ
■鏡よ、鏡
パリス親方は鏡の枠に装飾をする細工師
見習いのナイチンゲールは親から言われた通り
けして親方とおかみさんの仲を裂くようなことをしないよう気をつける
パリス親方:
鏡で自分の顔を見るのを嫌がるのは、うぬぼれが強い証拠だ
私は目鼻立ちの整っていない若者は見習いにとらない
鏡細工師は自分の顔を平静な気持ちで眺められるようじゃなきゃいかん
娘ルシンダはナイチンゲールを嫌い、ありとあらゆる意地悪をする
ルシンダ:鏡を割ったね これから7年、不幸がつきまとうよ
ルシンダは毎晩ナイチンゲールを自分の部屋に呼び
ガイコツ、血まみれのブタの頭(!)などを見せて喜んでいる
店の影、トイレにまで鏡があり、いつも見られている
鏡を作るグリーニングにとうとうすべて打ち明けると
箱を渡され、ルシンダに見せるよう言う
ルシンダ:仕返しのつもりでしょ 何か汚いものが入ってるんでしょう
箱を開けると完全な鏡にルシンダの姿が映っていた
美人の顔がわがままで残酷さを映し出し、ルシンダはショックを受ける
■モスとブリスター
クリスマス・イヴ
産婆のモスの夢は自分の手でキリストをとりあげること
見習いブリスターの夢は、神の子をみごもり、モスにとりあげてもらうこと
鏡職人グリーニングの妻が破水して、モスが呼ばれる
モスはあらゆる迷信を信じていて、難産にならないようドアを全部開けさせたりする
グリーニングの見習いポースンは本当の息子のように走り回る
ポースンの夢は親方の2人の娘どちらかと結婚して店を継ぐこと
生まれたのは男子で、自分が店を継ぐ夢はあっけなく消え去る
スリーキングズ広場のニュースター旅館でお産だと呼ばれる
3人の王に、新しい星と聞いて、夢が叶うのではという期待をふくらませるモス
ブリスターは邪魔しようと、ケープに結び目をつくる
馬小屋にロバで来たジプシーの女が産気づいたため、おかみさんがモスを呼んだ
見習いも親方もみんな平等な世界がやって来ると期待するポースンも張り切って手伝う
モス:おまえが産まれたあの夜は神の恵みだった
絶望していたブリスターの心は、この言葉を聞いて一挙に晴れあがる
生まれたのは女児
ポースン:グリーニング親方のとこが女の子で、今のが男の子だったらよかったのになあ
■外套
新年 赤ん坊を連れたジプシーの女がケントのリンゴを売り歩く
質屋のトンプソンの見習いクートは、1人で店番を任せられて
客が来るたび、品物の粗を探して買いたたく
クート:
ロングさんの店なら、ここより1ペニー高く引き取るかもしれません
でも、6ペンス値切られるかもしれない
ジプシーの女が外套を持ち込み、盗品と疑って5シリングと値切る
クート:これ以上しつこくすると、おまわりさんを呼ぶよ
その後、ロング質店に行き、見習いジェリーに外套を売って
2人でオペラに行き、天井桟敷からヤジを飛ばしたり
酒場でさんざん飲んで酔っ払う
店の前に大きな男が来ていて、外套を洗濯に出したのを盗まれたから返してくれと迫られる
男:返せないなら、外套の代金10ポンド払ってくれ
ジェリーは大事にしている純銀のコップをクートに売り、値切られる
クートは父の形見の時計をジェリーに値切られる
ジェリー:お前んとこの客をもうこっちに回すなよ!
ケンカ別れした後、大男とジプシーの女がいっしょに歩いているのを見かけ
2人がグルで騙されたと分かる
■バレンタイン
墓地ではお墓に備えた花輪を盗んで葬儀屋に売ろうと3人の子どもが隠れている
ジェソップ葬儀店の娘は16歳で死んだオーランドの墓に花輪を供える
トッド葬儀店の見習いホーキンズは大変な働き者で
ジェソップの仕事を奪い取りすっかり寂れさせてしまった
ジェソップが裕福だった頃、わがまま放題だった娘は霊安室で
オーランドの冷たい指に触ってから恋してしまい、何度もお墓まいりに来ては
「バレンタインの恋人になってください」とささやいていた
ホーキンズが墓地に来て、ミス・ジェソップが好きで、仕事に精を出していたと告白する
家がダメになった理由が自分だたっとは!
花輪が消えているのを見て、オーランドが受け入れてくれたのではと思うが
子どもたちが盗んだと分かる
ホーキンズはクイーン通りに新しい店を出すから一緒に見に行こうと誘う
ホーキンズ:もしよければ葬式に参列してくださいませんか(妙なデートだ・・・
■骨折り損
靴屋街の留め金作り、ノーズ親方の見習いガリー
親は靴作りの職人だが、それを恥じて、人には「革関係の商売」と言っている
母親も見栄っ張りで、息子が「宝石関係の仕事をしている」と話している
ガリーは母の日のプレゼントに模造金の靴のバックルを買う
銀糸を買いに行くと、女たちが糸車を回し
ジャナー親方は銀箔を盗まれないよう見張っている
その様子が巨大なクモそっくりに見える
ジャナー親方:わしの頭のうしろには目がついているんだ!
デージーと目が合い、仕事終わりにデートする
デージーは投げキッスを親方に見られて店を追い出されたと話す
ガリーはつい靴のバックルをプレゼントしてしまう
デージーがガリーの親の店で雇ってもらいたいと頼み
靴屋に入ると、近所に越してきたジョーカーさんが来ていて
部屋の中が片付いているのを見てホッとする
母:
うちの息子はいつもお土産を持ってきてくれるの
私はすぐ気づいたよ お前が母の日のプレゼントを持ってるって
母はデージーの持ってきた荷物をプレゼントだと勘違いして
中身を出すと、汚れたペチコートなどが出てくる
母:出ていけ! この見栄っ張りのごくつぶし!
奥の仕事場で悲鳴が上がり、ドアを開けると
みすぼらしいブーツがたくさん並ぶ棚があり
重い鉄の靴型の下敷きになって職人の父が倒れている
父:
大声で怒鳴り合っていたから心配になってな・・・
こんなきれいなプレゼントは見たことがないよ
おまえ、ほんとにいい子を選んだな
大きな重しがフッと消えて、デージーに父を紹介する
■エープリル・フール
イスラエルス時計店の見習いバンティングは親方の姉の子ども
とてつもなくぶきっちょで、みんなから“シュレミール(うすのろ)”と言われている
今夜は過ぎ越しの祭りで、娘レイチェルがしきたり通り
4つの質問をするのを楽しみにしている
時計売りのレビーじいさんは、チョッキにあらゆる商品をぶら下げて売り歩く
弟子は足の悪い男の子モーゼ
レビーじいさんは時計屋の前で倒れて、バンティングは医者を呼びに行く
お坊さんはレビーじいさんが毎年、祭りの日にユダヤ人の家で倒れるのを知っている
食堂では預言者エリヤのための席が1つ空けてある
親方は典礼書を読み上げる
一番年下のモーゼが4つの質問の役目になり、レイチェルはガッカリする
見事なコイのごちそうが出て、バンティングはレビーじいさんにも持っていってあげようと思う
灯り持ちの煙を火事だと思い込んだレビーじいさんは通りに逃げだす
バンティングは追いかけてコイ料理をあげる
レビーじいさん、バンティング、灯り持ちで♪子ヤギが1ぴき を歌う
時を忘れ、時に縛られることなく踊る
バンティング:
あなたの目には千年も昨日の1日のように過ぎ去り
夜の間のひと時(ウォッチ)のようなのです
■ロージー・スターリング
鳥かご作りのロージーは美人で評判だが、目が見えない
ベリー夫人は用心しないと悪さされないか心配だといつも注意するため
疑い深く、口が達者になってしまった
五月祭はメイポールの柱を立てる
ただのお針子だった娘が公爵と結婚したのがはじまりで
身分の低い娘たちが集まる
♪ボビー・シャフトは船出した
きっと帰ってきてくれる
そして私と結婚を
かつら用の髪を売る商人デリラの見習いタートルはロージーの最高級の髪に見惚れる
デリラは昔、男前で、キレイな髪の娘を見つけると褒め上げ
髪をひとふさ欲しいと言ってジョキンと切る方法を伝授した
親方を越える男前のタートルは、目の見えないロージーをどう口説いていいか分からず
物売りのじいさんから銀のネックレスを買ってロージーに贈ると喜ぶ
煙突掃除の踊りが始まり、タートルはロージーをダンスに誘う
夢中で踊るロージー
親方:あんなすごい髪見たことあるか! 絶対に切ってやるぞ
タートル:可哀想だと思って止めてください!
タートルは親方を連れて去る
ロージーはタートルを探し、そばにいた煙突掃除の子どもが髪の商いをしていると話す
ロージー:
そんなこと、はじめから分かっていたわよ!
何も信じるものですか 危険なのは闇じゃなく光なのよ
タートルがいない間にロージーは自分で髪を切って売りに来て
ネックレスのお礼だと言ってお金を受け取らなかった
タートル:あの子の髪はまた伸びるんだ!
親方はタートルが妬ましくなる
光の子のあいつは、ぴったりの相手を見つけたのだ 闇の娘を
■無言のお菓子
6月23日のミッドサマー・イブには魔女や魔物が出ると言い伝えられ
娘たちは無言のお菓子を焼いて、階段を追いかけてくる恋人の幻を見ようとする
薬屋チェンバーズ親方は科学者
見習いのパロットは将来『思想の科学』という本を書く夢があり
惚れ薬なんて迷信を信じて薬草を買いに来る客をバカにする
親方は病弱で、あらゆる体調の悪さを毎日ノートに記録して
不調があるたびにクスリを飲んでいる
パロットを息子同然に誇りに思っている
モスが店に来て、難産に効く薬はないか聞く
モス:なにせ大変なおめでたなんだから、念には念を入れとかないとね
親方がモスの言った子宝を願うまじないの薬草を首から下げているのを見て
パロット:あんたも他の奴らと同じだったんだ!
妹キティと2人の友だちは無言のお菓子を焼き
看板絵描きの父はスケッチしている
キティの絵は家中に飾ってあるのに、パロットの絵はない
パロットは儀式の邪魔をしてキティにののしられて逃げ、墓穴に落ちてしまう
灯り持ちの少年に助け出され、店まで逃げると妹の友ベティが来て
階段からパロットを見たからほれ薬を飲ませたという
パロット:ヨハネの黙示録だ ヨハネは英語でジョン 僕の名前もジョンなんだ
■トム・ティトマーシュの悪魔
印刷所の見習いスパローは本屋の見習いティトマーシュに校正刷りを持ってくる
スパロー:あたしの父さんは本が大好きで学校の先生やってるの
マッチと名乗る男が店に来て、60ポンドも払って出版の契約を結ぶ
『天国はなんじの物なり』の初版本が200冊できて
ティトマーシュが読むと、マッチさんが灯り持ちを雇い、夜道を歩いた際に見た
おぞましい光景が数多描かれている
“神はまず悪魔を作った 光をつくるために闇をつくった”
スパローは本を賞賛し、マッチが父だと明かす
本を読んだ主教は販売禁止にし、首つり役人の見習いが取りに来る
見習い:これを焼くとこ見に来ないか?
首つり役人の見習いがどれほど孤独か伝わり、見に行く
スパロー:あたしと父さんは、あの本にすべてをそそぎこんだのよ
ティトマーシュは文字の読めない首つり役人の見習いに
主教の説教集を代わりに渡したと明かす
スパローは大笑いして
スパロー:天国はあたしたちのものよ、これからはずっと
■きたないやつ
ペンキ屋の見習いシャッグは、どんなに高い所にのぼってもめまいがしないのが唯一の長所
絹物商会の見習いパイパーは1日中お客と親方夫婦の機嫌をとっている
シャッグはパイパーを標的にペンキを落としたりするのを楽しみにしている
聖バーソロミューの市に行くと、瓶に入った人魚、子どもの透明人間などで呼び込みをしている
綱渡りのショーを見せる美しいベティ王女に恋しているパイパー
1シリング出して、地上4mの高さの綱を渡ったら2ポンドあげるか
ベティと1晩いっしょに過ごせる賭けをしていて、2人挑戦し、失敗している
パイパーも挑戦したが、4歩目で落ちてしまう
シャッグは綱を難なく渡り、女王より2ポンドくれと言う
シャッグはパイパーのことが気がかりで、広場に戻ると
感化院の子どもに身ぐるみはがされ、ぐったりしているのを見つけて
肩にかついで店の前におろし、1ポンドを握らせる
翌朝、パイパーが出て来ると、足場の上で「嫌われ者シャッグ」のマネをして見せる
(人生はみんなそれぞれの役を演じている劇みたいなものだと例えられるのを思い出すな
■敵
棺桶屋の息子ホビーは酒場で働くシスキンに恋している
向かいのチーズ屋の息子ラーキンズがライバル
シスキンにプレゼントしようと泥でキジバトを作るが
ラーキンズに踏み壊されてしまう
怒って、泥でラーキンズの首をつくり、パンチすると
翌朝、ラーキンズの顔にアザができていて、悪魔の力が働いたと思いこむ
フォルコナー人形店に見習いに出されたホビーはリネット・パイ店の娘に恋する
店の粘土を少しずつ盗み、小鳥を作ってプレゼントしようとして
またもやラーキンズに壊される
ラーキンズはパイ店の見習いになり、毎日歯の浮くような褒め言葉でリネットを讃える
ホビーは毎日ラーキンズを観察し、魂を入れて
母親も間違えるほどそっくりな顔をつくる
ミカエル祭の前日 9月29日
ラーキンズに恨みを晴らそうとするも、せっかくつくった傑作を壊すのが惜しくなる
かといって親方や職人に見せることもできずに悩む
悪夢を見て、職人のナイフでラーキンズを殺せとそそのかされる
居酒屋から出て来たラーキンズはべろんべろんに酔っぱらい
何度かチャンスがあったが
ホビー:
君のことは最初から好きだったんだ
粘土で君の像を作ったんだ
2人は和解する
街中の見習いがマザー・グースの歌を歌い出す
♪おまえに金を貸してある
いつ返してくれるんだい?
お金持ちになった時
それはこの街に住む若者みんなの心の底からの叫びだった
■訳者あとがき
レオン・ガーフィールド
1921年生まれ
18世紀のイギリスを舞台とした作品がとくにすぐれている
本書は12の短編からなり、1年の12月に当たり
12の異なる仕事につく見習いの話になっている
18世紀のロンドンは商業が栄え、物があふれ、あらゆる活動の中心地だった
ほかの都市より明るく、街全体が遊園地のようだった
(今の東京みたいだな
反面、煙突から出る煙で病気になったり
便器の中味を窓から捨てたりしていたため、衛生状態が悪かった
灯り持ちが案内している客を襲って金目のものを奪うような物騒な街でもあり
テムズ川に死体が浮いているのも珍しくなかった(!
罪人の処刑が見世物になり、見物人をあてにしたパイ売り屋台が並んでいた
5歳までに死ぬ子どもが60%
親に捨てられ、小さいうちから働かされる子どもも大勢いた
最初に親から受け取るお金が目的で見習いを引きうけて
奴隷のようにこき使って死ぬ見習いも多かった
たくましく、心やさしい見習いたちの友情、恋愛を
当時の風俗を取り入れて生き生きと描いた
※「作家別」カテゴリー内に追加しました
読み始めて、長編でないことに少しガッカリしたけれども
登場人物が章を越えて重なり合う構成が素晴らしく
底辺の生活の中にあるそれぞれの幸福が描かれ
どの物語の終わりにも穏やかな救いがあって
作者の温かい心を感じる
日本の江戸時代も、この見習い制度みたいに丁稚奉公があったよね
職人になるまで仕込まれて、一生それで生活していけるのは手堅いし
それぞれが互いに助け合って生きる仕組みに思える
作者の生きている時代より過去のことを書いているのに
まるで目の前で起きているように描き出せる文才はホンモノ
【内容抜粋メモ】
■徒弟制度について
親は一定の金額を親方に支払い、食事、住まい、知識を与える代わりに
7年間修業し、小遣い程度の給料をもらう
7年後、見習いは職人になり、親方の下で働き続けることになる
親方の娘と結婚するか、親方が死んだ際、おかみさんと結婚する(!)しか
自分の店を持つチャンスはなかった
1764年、小間物商の見習いの少年が親方のお金を1万ポンドも盗んだ事件があった
罰として、当時イギリス植民地だったアメリカに送られ、立派な銀行家になった
■点灯夫の葬式
点灯夫サムの葬式に仲間が棺桶をかついで夜中に運ぶ
ポールキャットは転んで倒れ、そばにいた少年ポッスルが代わりをする
居酒屋「鷲と子ども」での宴会で、飲食の会費1シリングを集める会長は
少年をサムの子どもだと思う
ポールキャットが居酒屋に来て、お礼にポッスルを家に泊める
部屋にはたくさんの聖書の言葉が飾ってある
“神は「光あれ」といわれた すると光があった”
ポールキャットはケチで有名だが、アパートに帰ると誰かが待っていると思うと
つい嬉しくなる
ポールキャット:お前を見習いにしてやろう
暗い夜道をたいまつで照らして目的地まで送る
ポッスルが照らすと、寒さにふるえる女、足のない男などがいきなり街角から照らし出される
ありとあらゆる不幸や悲しみを見て、次第に客はポッスルを避けるようになる
ポッスルは大柄な男の案内をして
枯れ枝みたいにやせた女から青白い炎が飛び出すのを照らす
男は肩に女をかついで家まで連れて帰る
ポッスルが帰らないため、心配して何日も探して歩くが見つからない
ポールキャット:あの子は精霊かなんかだったよ 実にいい夢だった
ポッスルが酒場に来て、川からボロボロの子どもを助けてきた
ポッスル:この子も僕みたいに親方の見習いにできないかな
親方:ポッスル(使徒)とはよく言ったもんだ さあ、帰るぞ、そのちびも一緒だ
■鏡よ、鏡
パリス親方は鏡の枠に装飾をする細工師
見習いのナイチンゲールは親から言われた通り
けして親方とおかみさんの仲を裂くようなことをしないよう気をつける
パリス親方:
鏡で自分の顔を見るのを嫌がるのは、うぬぼれが強い証拠だ
私は目鼻立ちの整っていない若者は見習いにとらない
鏡細工師は自分の顔を平静な気持ちで眺められるようじゃなきゃいかん
娘ルシンダはナイチンゲールを嫌い、ありとあらゆる意地悪をする
ルシンダ:鏡を割ったね これから7年、不幸がつきまとうよ
ルシンダは毎晩ナイチンゲールを自分の部屋に呼び
ガイコツ、血まみれのブタの頭(!)などを見せて喜んでいる
店の影、トイレにまで鏡があり、いつも見られている
鏡を作るグリーニングにとうとうすべて打ち明けると
箱を渡され、ルシンダに見せるよう言う
ルシンダ:仕返しのつもりでしょ 何か汚いものが入ってるんでしょう
箱を開けると完全な鏡にルシンダの姿が映っていた
美人の顔がわがままで残酷さを映し出し、ルシンダはショックを受ける
■モスとブリスター
クリスマス・イヴ
産婆のモスの夢は自分の手でキリストをとりあげること
見習いブリスターの夢は、神の子をみごもり、モスにとりあげてもらうこと
鏡職人グリーニングの妻が破水して、モスが呼ばれる
モスはあらゆる迷信を信じていて、難産にならないようドアを全部開けさせたりする
グリーニングの見習いポースンは本当の息子のように走り回る
ポースンの夢は親方の2人の娘どちらかと結婚して店を継ぐこと
生まれたのは男子で、自分が店を継ぐ夢はあっけなく消え去る
スリーキングズ広場のニュースター旅館でお産だと呼ばれる
3人の王に、新しい星と聞いて、夢が叶うのではという期待をふくらませるモス
ブリスターは邪魔しようと、ケープに結び目をつくる
馬小屋にロバで来たジプシーの女が産気づいたため、おかみさんがモスを呼んだ
見習いも親方もみんな平等な世界がやって来ると期待するポースンも張り切って手伝う
モス:おまえが産まれたあの夜は神の恵みだった
絶望していたブリスターの心は、この言葉を聞いて一挙に晴れあがる
生まれたのは女児
ポースン:グリーニング親方のとこが女の子で、今のが男の子だったらよかったのになあ
■外套
新年 赤ん坊を連れたジプシーの女がケントのリンゴを売り歩く
質屋のトンプソンの見習いクートは、1人で店番を任せられて
客が来るたび、品物の粗を探して買いたたく
クート:
ロングさんの店なら、ここより1ペニー高く引き取るかもしれません
でも、6ペンス値切られるかもしれない
ジプシーの女が外套を持ち込み、盗品と疑って5シリングと値切る
クート:これ以上しつこくすると、おまわりさんを呼ぶよ
その後、ロング質店に行き、見習いジェリーに外套を売って
2人でオペラに行き、天井桟敷からヤジを飛ばしたり
酒場でさんざん飲んで酔っ払う
店の前に大きな男が来ていて、外套を洗濯に出したのを盗まれたから返してくれと迫られる
男:返せないなら、外套の代金10ポンド払ってくれ
ジェリーは大事にしている純銀のコップをクートに売り、値切られる
クートは父の形見の時計をジェリーに値切られる
ジェリー:お前んとこの客をもうこっちに回すなよ!
ケンカ別れした後、大男とジプシーの女がいっしょに歩いているのを見かけ
2人がグルで騙されたと分かる
■バレンタイン
墓地ではお墓に備えた花輪を盗んで葬儀屋に売ろうと3人の子どもが隠れている
ジェソップ葬儀店の娘は16歳で死んだオーランドの墓に花輪を供える
トッド葬儀店の見習いホーキンズは大変な働き者で
ジェソップの仕事を奪い取りすっかり寂れさせてしまった
ジェソップが裕福だった頃、わがまま放題だった娘は霊安室で
オーランドの冷たい指に触ってから恋してしまい、何度もお墓まいりに来ては
「バレンタインの恋人になってください」とささやいていた
ホーキンズが墓地に来て、ミス・ジェソップが好きで、仕事に精を出していたと告白する
家がダメになった理由が自分だたっとは!
花輪が消えているのを見て、オーランドが受け入れてくれたのではと思うが
子どもたちが盗んだと分かる
ホーキンズはクイーン通りに新しい店を出すから一緒に見に行こうと誘う
ホーキンズ:もしよければ葬式に参列してくださいませんか(妙なデートだ・・・
■骨折り損
靴屋街の留め金作り、ノーズ親方の見習いガリー
親は靴作りの職人だが、それを恥じて、人には「革関係の商売」と言っている
母親も見栄っ張りで、息子が「宝石関係の仕事をしている」と話している
ガリーは母の日のプレゼントに模造金の靴のバックルを買う
銀糸を買いに行くと、女たちが糸車を回し
ジャナー親方は銀箔を盗まれないよう見張っている
その様子が巨大なクモそっくりに見える
ジャナー親方:わしの頭のうしろには目がついているんだ!
デージーと目が合い、仕事終わりにデートする
デージーは投げキッスを親方に見られて店を追い出されたと話す
ガリーはつい靴のバックルをプレゼントしてしまう
デージーがガリーの親の店で雇ってもらいたいと頼み
靴屋に入ると、近所に越してきたジョーカーさんが来ていて
部屋の中が片付いているのを見てホッとする
母:
うちの息子はいつもお土産を持ってきてくれるの
私はすぐ気づいたよ お前が母の日のプレゼントを持ってるって
母はデージーの持ってきた荷物をプレゼントだと勘違いして
中身を出すと、汚れたペチコートなどが出てくる
母:出ていけ! この見栄っ張りのごくつぶし!
奥の仕事場で悲鳴が上がり、ドアを開けると
みすぼらしいブーツがたくさん並ぶ棚があり
重い鉄の靴型の下敷きになって職人の父が倒れている
父:
大声で怒鳴り合っていたから心配になってな・・・
こんなきれいなプレゼントは見たことがないよ
おまえ、ほんとにいい子を選んだな
大きな重しがフッと消えて、デージーに父を紹介する
■エープリル・フール
イスラエルス時計店の見習いバンティングは親方の姉の子ども
とてつもなくぶきっちょで、みんなから“シュレミール(うすのろ)”と言われている
今夜は過ぎ越しの祭りで、娘レイチェルがしきたり通り
4つの質問をするのを楽しみにしている
時計売りのレビーじいさんは、チョッキにあらゆる商品をぶら下げて売り歩く
弟子は足の悪い男の子モーゼ
レビーじいさんは時計屋の前で倒れて、バンティングは医者を呼びに行く
お坊さんはレビーじいさんが毎年、祭りの日にユダヤ人の家で倒れるのを知っている
食堂では預言者エリヤのための席が1つ空けてある
親方は典礼書を読み上げる
一番年下のモーゼが4つの質問の役目になり、レイチェルはガッカリする
見事なコイのごちそうが出て、バンティングはレビーじいさんにも持っていってあげようと思う
灯り持ちの煙を火事だと思い込んだレビーじいさんは通りに逃げだす
バンティングは追いかけてコイ料理をあげる
レビーじいさん、バンティング、灯り持ちで♪子ヤギが1ぴき を歌う
時を忘れ、時に縛られることなく踊る
バンティング:
あなたの目には千年も昨日の1日のように過ぎ去り
夜の間のひと時(ウォッチ)のようなのです
■ロージー・スターリング
鳥かご作りのロージーは美人で評判だが、目が見えない
ベリー夫人は用心しないと悪さされないか心配だといつも注意するため
疑い深く、口が達者になってしまった
五月祭はメイポールの柱を立てる
ただのお針子だった娘が公爵と結婚したのがはじまりで
身分の低い娘たちが集まる
♪ボビー・シャフトは船出した
きっと帰ってきてくれる
そして私と結婚を
かつら用の髪を売る商人デリラの見習いタートルはロージーの最高級の髪に見惚れる
デリラは昔、男前で、キレイな髪の娘を見つけると褒め上げ
髪をひとふさ欲しいと言ってジョキンと切る方法を伝授した
親方を越える男前のタートルは、目の見えないロージーをどう口説いていいか分からず
物売りのじいさんから銀のネックレスを買ってロージーに贈ると喜ぶ
煙突掃除の踊りが始まり、タートルはロージーをダンスに誘う
夢中で踊るロージー
親方:あんなすごい髪見たことあるか! 絶対に切ってやるぞ
タートル:可哀想だと思って止めてください!
タートルは親方を連れて去る
ロージーはタートルを探し、そばにいた煙突掃除の子どもが髪の商いをしていると話す
ロージー:
そんなこと、はじめから分かっていたわよ!
何も信じるものですか 危険なのは闇じゃなく光なのよ
タートルがいない間にロージーは自分で髪を切って売りに来て
ネックレスのお礼だと言ってお金を受け取らなかった
タートル:あの子の髪はまた伸びるんだ!
親方はタートルが妬ましくなる
光の子のあいつは、ぴったりの相手を見つけたのだ 闇の娘を
■無言のお菓子
6月23日のミッドサマー・イブには魔女や魔物が出ると言い伝えられ
娘たちは無言のお菓子を焼いて、階段を追いかけてくる恋人の幻を見ようとする
薬屋チェンバーズ親方は科学者
見習いのパロットは将来『思想の科学』という本を書く夢があり
惚れ薬なんて迷信を信じて薬草を買いに来る客をバカにする
親方は病弱で、あらゆる体調の悪さを毎日ノートに記録して
不調があるたびにクスリを飲んでいる
パロットを息子同然に誇りに思っている
モスが店に来て、難産に効く薬はないか聞く
モス:なにせ大変なおめでたなんだから、念には念を入れとかないとね
親方がモスの言った子宝を願うまじないの薬草を首から下げているのを見て
パロット:あんたも他の奴らと同じだったんだ!
妹キティと2人の友だちは無言のお菓子を焼き
看板絵描きの父はスケッチしている
キティの絵は家中に飾ってあるのに、パロットの絵はない
パロットは儀式の邪魔をしてキティにののしられて逃げ、墓穴に落ちてしまう
灯り持ちの少年に助け出され、店まで逃げると妹の友ベティが来て
階段からパロットを見たからほれ薬を飲ませたという
パロット:ヨハネの黙示録だ ヨハネは英語でジョン 僕の名前もジョンなんだ
■トム・ティトマーシュの悪魔
印刷所の見習いスパローは本屋の見習いティトマーシュに校正刷りを持ってくる
スパロー:あたしの父さんは本が大好きで学校の先生やってるの
マッチと名乗る男が店に来て、60ポンドも払って出版の契約を結ぶ
『天国はなんじの物なり』の初版本が200冊できて
ティトマーシュが読むと、マッチさんが灯り持ちを雇い、夜道を歩いた際に見た
おぞましい光景が数多描かれている
“神はまず悪魔を作った 光をつくるために闇をつくった”
スパローは本を賞賛し、マッチが父だと明かす
本を読んだ主教は販売禁止にし、首つり役人の見習いが取りに来る
見習い:これを焼くとこ見に来ないか?
首つり役人の見習いがどれほど孤独か伝わり、見に行く
スパロー:あたしと父さんは、あの本にすべてをそそぎこんだのよ
ティトマーシュは文字の読めない首つり役人の見習いに
主教の説教集を代わりに渡したと明かす
スパローは大笑いして
スパロー:天国はあたしたちのものよ、これからはずっと
■きたないやつ
ペンキ屋の見習いシャッグは、どんなに高い所にのぼってもめまいがしないのが唯一の長所
絹物商会の見習いパイパーは1日中お客と親方夫婦の機嫌をとっている
シャッグはパイパーを標的にペンキを落としたりするのを楽しみにしている
聖バーソロミューの市に行くと、瓶に入った人魚、子どもの透明人間などで呼び込みをしている
綱渡りのショーを見せる美しいベティ王女に恋しているパイパー
1シリング出して、地上4mの高さの綱を渡ったら2ポンドあげるか
ベティと1晩いっしょに過ごせる賭けをしていて、2人挑戦し、失敗している
パイパーも挑戦したが、4歩目で落ちてしまう
シャッグは綱を難なく渡り、女王より2ポンドくれと言う
シャッグはパイパーのことが気がかりで、広場に戻ると
感化院の子どもに身ぐるみはがされ、ぐったりしているのを見つけて
肩にかついで店の前におろし、1ポンドを握らせる
翌朝、パイパーが出て来ると、足場の上で「嫌われ者シャッグ」のマネをして見せる
(人生はみんなそれぞれの役を演じている劇みたいなものだと例えられるのを思い出すな
■敵
棺桶屋の息子ホビーは酒場で働くシスキンに恋している
向かいのチーズ屋の息子ラーキンズがライバル
シスキンにプレゼントしようと泥でキジバトを作るが
ラーキンズに踏み壊されてしまう
怒って、泥でラーキンズの首をつくり、パンチすると
翌朝、ラーキンズの顔にアザができていて、悪魔の力が働いたと思いこむ
フォルコナー人形店に見習いに出されたホビーはリネット・パイ店の娘に恋する
店の粘土を少しずつ盗み、小鳥を作ってプレゼントしようとして
またもやラーキンズに壊される
ラーキンズはパイ店の見習いになり、毎日歯の浮くような褒め言葉でリネットを讃える
ホビーは毎日ラーキンズを観察し、魂を入れて
母親も間違えるほどそっくりな顔をつくる
ミカエル祭の前日 9月29日
ラーキンズに恨みを晴らそうとするも、せっかくつくった傑作を壊すのが惜しくなる
かといって親方や職人に見せることもできずに悩む
悪夢を見て、職人のナイフでラーキンズを殺せとそそのかされる
居酒屋から出て来たラーキンズはべろんべろんに酔っぱらい
何度かチャンスがあったが
ホビー:
君のことは最初から好きだったんだ
粘土で君の像を作ったんだ
2人は和解する
街中の見習いがマザー・グースの歌を歌い出す
♪おまえに金を貸してある
いつ返してくれるんだい?
お金持ちになった時
それはこの街に住む若者みんなの心の底からの叫びだった
■訳者あとがき
レオン・ガーフィールド
1921年生まれ
18世紀のイギリスを舞台とした作品がとくにすぐれている
本書は12の短編からなり、1年の12月に当たり
12の異なる仕事につく見習いの話になっている
18世紀のロンドンは商業が栄え、物があふれ、あらゆる活動の中心地だった
ほかの都市より明るく、街全体が遊園地のようだった
(今の東京みたいだな
反面、煙突から出る煙で病気になったり
便器の中味を窓から捨てたりしていたため、衛生状態が悪かった
灯り持ちが案内している客を襲って金目のものを奪うような物騒な街でもあり
テムズ川に死体が浮いているのも珍しくなかった(!
罪人の処刑が見世物になり、見物人をあてにしたパイ売り屋台が並んでいた
5歳までに死ぬ子どもが60%
親に捨てられ、小さいうちから働かされる子どもも大勢いた
最初に親から受け取るお金が目的で見習いを引きうけて
奴隷のようにこき使って死ぬ見習いも多かった
たくましく、心やさしい見習いたちの友情、恋愛を
当時の風俗を取り入れて生き生きと描いた