■『風と木の詩』2巻(小学館叢書)
竹宮惠子/著
※「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
2巻以降から生々しい性描写が増えて、改めて、当時のファンですら「ページをいったん閉じてしまった」という衝撃が分かった。
ジルベールの過去が明かされていく様子も興味深い。
【内容抜粋メモ】
[第二章 青春]
クリスマス休暇前の2週間は冬期試験で、夏期試験と同様に進級を決める試験だけに、この時ばかりは皆、勉強に専念する。
とくに最上級(7年生)のバカロレア(中等教育修了資格をとる大学入学資格試験)準備級へ進級する学生にとっては、教授たちの推薦を促すかどうかの大事な試験。
ジルベールは、答案用紙を白紙で出して退室し、ロスマリネに手紙を要求するが何もきていないと言われてひどく落胆する。
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音楽教師のルイ・レネは、ルーシュ教授に取り入るため、クリスマスプレゼントとしてセルジュが父と同様、ピアノの才があることを告げる。
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ルーシュは父のピアノ教師をしていたことを話す。
「父上は、コンセルヴァトワール(パリ音楽院)に入れたいほどの才能だった」
ルーシュは弟子をとらない主義だが、「年が明けたらレッスンをみてやろう」と言って去る。
ロスマリネは、ジルベール宛ての手紙を「ギリギリに渡せ」と言われてじらしている。
ようやく叔父オーギュスト・ボウからの手紙をジルベールに渡すと
「制裁には礼を、そういう規律じゃないのか?」と言って握手を交わす(キリストのもう片方の頬を出せ的な? 制裁にお礼まで言い合ってるし
手紙には「休暇はローマに旅行に行く。今日の早朝に発つ」とあり、また裏切られたと知ったジルベールは正気を失う。
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セルジュは、せっかくの休暇なのに家には帰らないと聞いたパスカルは、自宅に招く。
パスカルの家庭は子沢山でほぼ女性! 長女ドロシー、姉メイ、妹のパトリシア(画家志望で美人コンプレックス)、
双子のリラとソニア、ニナ、そして腹違いで体の弱い一番下の男の子ミシェル。父はリヨンン市庁舎の役人。
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パスカル「この機会に女の子ってものが、飾るだけの人形じゃなくて生きものだってことを知るんだな。
父親の半身と、母親の半身で子どもはできる。生殖ってのはその作業なんだから恥じることなどなにもない。偉大なものさ!」
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セルジュは、パトリシアが自分の裸を写生しているのを垣間見てしまい戸惑う。
パトリシア「今が一番きれいな時だから描きとめておこうとしたの。でも私の絵の腕では無理だわ。だからどうせなら見ておいてほしいのよ。
私がきれいだと思うなら、その証拠を。あなたは誠実な人だわ」
セルジュはパトリシアとキスをして、体のほてり、コントロールできない衝動を知る。
パトリシアは、その日から女性らしいドレスを着て、見違えるように変身する。
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パスカル「オヤジの夢はオレなんだよ。長男のオレがあの学校を首席で出て、この町かリヨンで最上の官吏職につく。
平々凡々の出世コース。そして、ごく普通に結婚して、家庭を持つ。最高のレディか、ドタ足のロバがいい。
オレはドタ足のロバでいい。そこに嫁に来る女がいたら結婚するよ。
オレの夢は、オレの夢を果たす天才児を持つことなんだ。天才児っていうのはね、幼い頃から“全人教育”が大切なんだぜ」
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セルジュは、パスカルが首席で卒業するために落第し続けていることを知る
“だけど自分はそうではない。この平和は自分のものではない気がした。
そのせつな心に描いた私の世界は、壮絶な孤独の未来を予知していたのかもしれない。
咲き誇る花も、燃えさかる炎も、はるかかなたの、漠々たる荒野だった・・・”
スケート場で氷の裂け目から落ちたミシェルを助けたセルジュ。
パスカルは心配のあまり、しばらく休暇を延ばすという。
パスカル「人間って産んだほうに責任があると思うか? それとも産まれた人間に?
ミシェルはオヤジの浮気で産まれた子さ」
[第三章 SANCTUS聖なるかな]
休暇が終わってすぐに寮に戻るのはセルジュくらいで、皆遅れてくるのが通例だった。
家にいるのは窮屈だというセバスチャンに会う。
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そして、まるで食事もとらずに幽霊のようなジルベールに再会し、裸のまま力ない様子で抱きしめられたところを
タイミング悪くセバスチャンに見られて、彼は逃げる。
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「裸でいっしょに寝てくれ。なにもしない神に誓って」というジルベールの尋常ではない様子に従うセルジュ。
その晩は2人で眠り、翌日、元に戻った様子のジルベール。
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セバスチャンから理由を聞かれ、いっしょに眠ったこと以外を話すと、
「ジルベールは、休暇の前になると必ず、ゆううつ病のような状態になって、ある時期を越えると元に戻る繰り返しなんです。
だれが彼とあなたの間をとやかく言おうと、あなたがはっきり否定するかぎり、僕はあなたの言葉を信じます」
ジルベールは、ブロウに「息絶えるまで毎日抱け」と言ったせいで、所構わず裸になったり、キスをしたりして周囲を驚かす。
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最上級監督生ジュール・ド・フェリイは、家柄はロスマリネより上だが、没落貴族で、ロスマリネの権限で学費免除をしてもらっている。
ロスマリネは、オーギュスト・ボウと、ジルベールがどうやっていつもの危機を乗り越えたのかを話す。
ジュールは、この学院に多大な寄付をしている影の実力者ボウと知って驚く。
「ジルベールは、前に自殺未遂を2回、町の浮浪者を挑発して暴行を幾度となく受けている。
つまり、彼が例のショックから立ち直るのは、それ相当の自虐行為によってなんだ。
それがなんの自虐行為もなく立ち直ったのは、誰かに受けとめられたとしか考えられん」
ロスマリネは、セルジュではないかと疑いうろたえる。“仮にも子爵だ”と考え、時間をくれとボウに頼む。
ブロウがジルベールに与えた鞭の傷が酷く、ジュールは
「この鞭傷は十分に虐待の証拠だ。学生裁判にかけられたくなければ手をひけ!」と助ける。
医務室でジュールは
「ロスマリネは友人ではない。ロスマリネは支配する者、僕は支配される者。
金、権力、地位、身分・・・友情なんて、そんな介在物が入らない純潔なところにだけ存在し得る夢みたいなもの。
すべて人は自分のためにだけ行動する。無償の親切や、犠牲的行動も、結局は自己満足のためだ、例外なしに!」
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セルジュは、教師のシューリンまでがジルベールを追いかけ回すのを見てショックを受け、校内の教会に懺悔に来る。
しかし、ここの牧師ですらロスマリネの影響下にあり、セルジュが話したことをすべて報告するようにと言われる。
そうとは知らず、ジルベールとキスしたこと、一緒に裸で眠ったことを話すと、
「上級生や下級生と口づけしたことを懺悔する者は多い。だが、一晩ともに抱き合って過ごしたなどと、恥しらずな!
ジルベールはいけない。彼は成長しないからだ。これから先もよくならない」
“パスカルの言う通り、自分の体が勝手に反応するのは子孫を増やすため?
それなら女の子に対してだけ反応すればいい。そうでないのはなぜ。なぜなんだろう?”
ジュールの個室に行くジルベール。
「君だって個室にしようと思えばできるのに、好きこのんであのトビ色の少年をかくまっているんじゃないのか?」
ジルベールは、父が貧しくなって、亡くなってからは、母一人、子一人なことなどを話す。
1年に2度しかない父兄の面会日で騒がしい校内。
ジルベールは、これまでブロウに頼んでいた来年1年分の授業のノートと引き換えに、他の生徒に体を預ける。
ロスマリネはボウに何を見ていると聞かれ、
「息子を持つ親たちの奇態を。とくに自分がこの世で一番、息子とつながっていると信じている母親たちを」
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ボウは、セルジュが森で昼寝をしているのを知りつつ、ジルベールとの関係をわざと見せつける。
叔父との関係に衝撃を受けるセルジュ。
ジルベール「最初、僕をここへ入れた時、何と言った? 1年・・・1年の辛抱だって?
あれからもう3年だ。僕をこんな牢獄へ放り込んで。
あんたも世間体が大事な年になったってことさ。35にもなって一人身でいるのは、いろいろとまずいんだろ?
知ってるよ。オーギュ。あんたは名士の娘と約束するつもりなんだ。世間並みに結婚して、子どもを作って、平凡に暮らしゃいいさ」
ボウ「学校は、世間に適応するために必要だ」
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ジルベールは、セルジュと鉢合わせになる。ボウは自己紹介をして、ホテルでジルベールと食事の約束があるから招待するという。
ジルベールは、セルジュが来ることを知らずに、顔を見て蒼白となり、ボウがセルジュに話すたび嫉妬で燃え上がる。
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ボウから無視されてジルベールは去る。ボウはセルジュを酔わせて部屋に運ぶ。
セルジュがボウと同じホテルで泊まる許可が下りていると点呼で聞き、夜中に寮を出ようとして、ロスマリネに見つかる。
「門限破りは自室謹慎。外出時間外の脱出は禁固3日。夜間脱出は鞭20!」(まるで囚人か兵隊だ・・・
何も知らず戻ったセルジュは「あの人が、君の故郷のマルセイユへ招待してくれたよ。君がよければ一緒においでって」
ジルベール「僕の部屋へ帰ってくるつもりなら忘れるな。お前を憎む者が同じ部屋の中にいることを!」
セルジュ「それは出て行けということか? それならそうとはっきり言うがいい。
憎むというなら、その理由を聞きたいものだ。最初から君はまっすぐ僕へ要求をしたことがない。
“不当なこと”を要求するのは、プライドが許さないのか?」
(こういう深い愛情をもって、冷静な理論で、堂々と相手と向き合えるところを尊敬するなあ・・・
[第四章 ジルベール]
1872年、マルセイユ。ジルベール5歳。
ボウは、社交界仲間とともに“海の天使城”と呼ばれる実家に戻る。
そこで少女のように美しい子どもを見て、まさかと思う。
ジルベールの両親は東南アジアに行ったきり。代々勤めている執事は
「この家にはすでに“ぼっちゃま”と呼ばれる人間ができてしまいましたから、
私めも、今はその方にお仕えするしかございません」
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ボウは、マルセイユ一の貿易商に養子として孤児院からひきとられた。
養父母が亡くなり、名実ともに継いだ兄の政略結婚の相手はアンヌ・マリー。
実は、兄はソドミーの性癖があり、エスカレートするのを恐れて、養父がボウを連れてきたのだった。
ボウは兄の遊び道具と化し、そうとは知らず、孤独だった妻アンヌはボウを誘惑し、出来た子どもがジルベール。
その浮気現場を目撃した兄は、ボウの腹に炎が燃える薪を押し付けて生涯消えないアザを作る。
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兄は、子どもを殺そうした妻に初めて愛情を抱き、妻の精神療養も兼ねて東南アジアに発った。
ボウはパリへと逃れた。
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残されたジルベールは、使用人に囲まれ、誰にもしつけられず、まるで狼に育てられた少年のようになった。
野山を駆け回り、動物に「ぱぱ」と名づけ、裸で毛布にくるまって、毛布を「ママ」と呼ぶ。
ボウらが楽しげに食事する姿を見て、初めて「孤独」を知って泣いているジルベールを見たボウは、
この野生児を手なずけようと思いつく。
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「命令を受ければ素直に従う。犬として手なずけるのも思いのまま。私だけを信じさせることも!」
社交仲間のソフィアはボウが好きで、ボウの親友はソフィアを愛している気持ちを伝えようとし、
ボウがジルベールにキスする姿を垣間見てしまう。
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“生きものは、生まれて初めて目をあけると、一番初めに母親、あるいは、それに似たものを求めるという。
やわらかく、やさしく、暖かいもの。彼の場合、それはあの寝乱れた毛布だったのだろうか?”
ボウはジルベールをこの城の当主だと紹介する。
ジルベールは、すっかり人気者となり、ソフィアを母のように慕う。
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ボウは親友に、「昨夜のことを黙っていてくれたら、ソフィアを君にあげる」という。
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ボウはジルベールを酔わせ、ソフィアにキスをさせたため、驚いたソフィアは子どもを突き飛ばし、自分を責める。
親友はソフィアを連れてパリに戻る。
“私は彼の母だ。そして父。教師、友人、頼る者、愛する者、嵐からの隠れ場所、そのすべて・・・
これでジルベールを存分にしこめる。
思いのままの人形から、賢く忠実な猟犬へ、賢く忠実な猟犬から、高貴なシャム猫へ”
[巻頭のカラーページ・巻末イラスト集]
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竹宮惠子/著
※「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
2巻以降から生々しい性描写が増えて、改めて、当時のファンですら「ページをいったん閉じてしまった」という衝撃が分かった。
ジルベールの過去が明かされていく様子も興味深い。
【内容抜粋メモ】
[第二章 青春]
クリスマス休暇前の2週間は冬期試験で、夏期試験と同様に進級を決める試験だけに、この時ばかりは皆、勉強に専念する。
とくに最上級(7年生)のバカロレア(中等教育修了資格をとる大学入学資格試験)準備級へ進級する学生にとっては、教授たちの推薦を促すかどうかの大事な試験。
ジルベールは、答案用紙を白紙で出して退室し、ロスマリネに手紙を要求するが何もきていないと言われてひどく落胆する。
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音楽教師のルイ・レネは、ルーシュ教授に取り入るため、クリスマスプレゼントとしてセルジュが父と同様、ピアノの才があることを告げる。
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ルーシュは父のピアノ教師をしていたことを話す。
「父上は、コンセルヴァトワール(パリ音楽院)に入れたいほどの才能だった」
ルーシュは弟子をとらない主義だが、「年が明けたらレッスンをみてやろう」と言って去る。
ロスマリネは、ジルベール宛ての手紙を「ギリギリに渡せ」と言われてじらしている。
ようやく叔父オーギュスト・ボウからの手紙をジルベールに渡すと
「制裁には礼を、そういう規律じゃないのか?」と言って握手を交わす(キリストのもう片方の頬を出せ的な? 制裁にお礼まで言い合ってるし
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手紙には「休暇はローマに旅行に行く。今日の早朝に発つ」とあり、また裏切られたと知ったジルベールは正気を失う。
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セルジュは、せっかくの休暇なのに家には帰らないと聞いたパスカルは、自宅に招く。
パスカルの家庭は子沢山でほぼ女性! 長女ドロシー、姉メイ、妹のパトリシア(画家志望で美人コンプレックス)、
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パスカル「この機会に女の子ってものが、飾るだけの人形じゃなくて生きものだってことを知るんだな。
父親の半身と、母親の半身で子どもはできる。生殖ってのはその作業なんだから恥じることなどなにもない。偉大なものさ!」
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セルジュは、パトリシアが自分の裸を写生しているのを垣間見てしまい戸惑う。
パトリシア「今が一番きれいな時だから描きとめておこうとしたの。でも私の絵の腕では無理だわ。だからどうせなら見ておいてほしいのよ。
私がきれいだと思うなら、その証拠を。あなたは誠実な人だわ」
セルジュはパトリシアとキスをして、体のほてり、コントロールできない衝動を知る。
パトリシアは、その日から女性らしいドレスを着て、見違えるように変身する。
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パスカル「オヤジの夢はオレなんだよ。長男のオレがあの学校を首席で出て、この町かリヨンで最上の官吏職につく。
平々凡々の出世コース。そして、ごく普通に結婚して、家庭を持つ。最高のレディか、ドタ足のロバがいい。
オレはドタ足のロバでいい。そこに嫁に来る女がいたら結婚するよ。
オレの夢は、オレの夢を果たす天才児を持つことなんだ。天才児っていうのはね、幼い頃から“全人教育”が大切なんだぜ」
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セルジュは、パスカルが首席で卒業するために落第し続けていることを知る
“だけど自分はそうではない。この平和は自分のものではない気がした。
そのせつな心に描いた私の世界は、壮絶な孤独の未来を予知していたのかもしれない。
咲き誇る花も、燃えさかる炎も、はるかかなたの、漠々たる荒野だった・・・”
スケート場で氷の裂け目から落ちたミシェルを助けたセルジュ。
パスカルは心配のあまり、しばらく休暇を延ばすという。
パスカル「人間って産んだほうに責任があると思うか? それとも産まれた人間に?
ミシェルはオヤジの浮気で産まれた子さ」
[第三章 SANCTUS聖なるかな]
休暇が終わってすぐに寮に戻るのはセルジュくらいで、皆遅れてくるのが通例だった。
家にいるのは窮屈だというセバスチャンに会う。
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そして、まるで食事もとらずに幽霊のようなジルベールに再会し、裸のまま力ない様子で抱きしめられたところを
タイミング悪くセバスチャンに見られて、彼は逃げる。
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その晩は2人で眠り、翌日、元に戻った様子のジルベール。
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セバスチャンから理由を聞かれ、いっしょに眠ったこと以外を話すと、
「ジルベールは、休暇の前になると必ず、ゆううつ病のような状態になって、ある時期を越えると元に戻る繰り返しなんです。
だれが彼とあなたの間をとやかく言おうと、あなたがはっきり否定するかぎり、僕はあなたの言葉を信じます」
ジルベールは、ブロウに「息絶えるまで毎日抱け」と言ったせいで、所構わず裸になったり、キスをしたりして周囲を驚かす。
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最上級監督生ジュール・ド・フェリイは、家柄はロスマリネより上だが、没落貴族で、ロスマリネの権限で学費免除をしてもらっている。
ロスマリネは、オーギュスト・ボウと、ジルベールがどうやっていつもの危機を乗り越えたのかを話す。
ジュールは、この学院に多大な寄付をしている影の実力者ボウと知って驚く。
「ジルベールは、前に自殺未遂を2回、町の浮浪者を挑発して暴行を幾度となく受けている。
つまり、彼が例のショックから立ち直るのは、それ相当の自虐行為によってなんだ。
それがなんの自虐行為もなく立ち直ったのは、誰かに受けとめられたとしか考えられん」
ロスマリネは、セルジュではないかと疑いうろたえる。“仮にも子爵だ”と考え、時間をくれとボウに頼む。
ブロウがジルベールに与えた鞭の傷が酷く、ジュールは
「この鞭傷は十分に虐待の証拠だ。学生裁判にかけられたくなければ手をひけ!」と助ける。
医務室でジュールは
「ロスマリネは友人ではない。ロスマリネは支配する者、僕は支配される者。
金、権力、地位、身分・・・友情なんて、そんな介在物が入らない純潔なところにだけ存在し得る夢みたいなもの。
すべて人は自分のためにだけ行動する。無償の親切や、犠牲的行動も、結局は自己満足のためだ、例外なしに!」
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セルジュは、教師のシューリンまでがジルベールを追いかけ回すのを見てショックを受け、校内の教会に懺悔に来る。
しかし、ここの牧師ですらロスマリネの影響下にあり、セルジュが話したことをすべて報告するようにと言われる。
そうとは知らず、ジルベールとキスしたこと、一緒に裸で眠ったことを話すと、
「上級生や下級生と口づけしたことを懺悔する者は多い。だが、一晩ともに抱き合って過ごしたなどと、恥しらずな!
ジルベールはいけない。彼は成長しないからだ。これから先もよくならない」
“パスカルの言う通り、自分の体が勝手に反応するのは子孫を増やすため?
それなら女の子に対してだけ反応すればいい。そうでないのはなぜ。なぜなんだろう?”
ジュールの個室に行くジルベール。
「君だって個室にしようと思えばできるのに、好きこのんであのトビ色の少年をかくまっているんじゃないのか?」
ジルベールは、父が貧しくなって、亡くなってからは、母一人、子一人なことなどを話す。
1年に2度しかない父兄の面会日で騒がしい校内。
ジルベールは、これまでブロウに頼んでいた来年1年分の授業のノートと引き換えに、他の生徒に体を預ける。
ロスマリネはボウに何を見ていると聞かれ、
「息子を持つ親たちの奇態を。とくに自分がこの世で一番、息子とつながっていると信じている母親たちを」
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ボウは、セルジュが森で昼寝をしているのを知りつつ、ジルベールとの関係をわざと見せつける。
叔父との関係に衝撃を受けるセルジュ。
ジルベール「最初、僕をここへ入れた時、何と言った? 1年・・・1年の辛抱だって?
あれからもう3年だ。僕をこんな牢獄へ放り込んで。
あんたも世間体が大事な年になったってことさ。35にもなって一人身でいるのは、いろいろとまずいんだろ?
知ってるよ。オーギュ。あんたは名士の娘と約束するつもりなんだ。世間並みに結婚して、子どもを作って、平凡に暮らしゃいいさ」
ボウ「学校は、世間に適応するために必要だ」
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ジルベールは、セルジュと鉢合わせになる。ボウは自己紹介をして、ホテルでジルベールと食事の約束があるから招待するという。
ジルベールは、セルジュが来ることを知らずに、顔を見て蒼白となり、ボウがセルジュに話すたび嫉妬で燃え上がる。
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ボウから無視されてジルベールは去る。ボウはセルジュを酔わせて部屋に運ぶ。
セルジュがボウと同じホテルで泊まる許可が下りていると点呼で聞き、夜中に寮を出ようとして、ロスマリネに見つかる。
「門限破りは自室謹慎。外出時間外の脱出は禁固3日。夜間脱出は鞭20!」(まるで囚人か兵隊だ・・・
何も知らず戻ったセルジュは「あの人が、君の故郷のマルセイユへ招待してくれたよ。君がよければ一緒においでって」
ジルベール「僕の部屋へ帰ってくるつもりなら忘れるな。お前を憎む者が同じ部屋の中にいることを!」
セルジュ「それは出て行けということか? それならそうとはっきり言うがいい。
憎むというなら、その理由を聞きたいものだ。最初から君はまっすぐ僕へ要求をしたことがない。
“不当なこと”を要求するのは、プライドが許さないのか?」
(こういう深い愛情をもって、冷静な理論で、堂々と相手と向き合えるところを尊敬するなあ・・・
[第四章 ジルベール]
1872年、マルセイユ。ジルベール5歳。
ボウは、社交界仲間とともに“海の天使城”と呼ばれる実家に戻る。
そこで少女のように美しい子どもを見て、まさかと思う。
ジルベールの両親は東南アジアに行ったきり。代々勤めている執事は
「この家にはすでに“ぼっちゃま”と呼ばれる人間ができてしまいましたから、
私めも、今はその方にお仕えするしかございません」
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ボウは、マルセイユ一の貿易商に養子として孤児院からひきとられた。
養父母が亡くなり、名実ともに継いだ兄の政略結婚の相手はアンヌ・マリー。
実は、兄はソドミーの性癖があり、エスカレートするのを恐れて、養父がボウを連れてきたのだった。
ボウは兄の遊び道具と化し、そうとは知らず、孤独だった妻アンヌはボウを誘惑し、出来た子どもがジルベール。
その浮気現場を目撃した兄は、ボウの腹に炎が燃える薪を押し付けて生涯消えないアザを作る。
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兄は、子どもを殺そうした妻に初めて愛情を抱き、妻の精神療養も兼ねて東南アジアに発った。
ボウはパリへと逃れた。
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残されたジルベールは、使用人に囲まれ、誰にもしつけられず、まるで狼に育てられた少年のようになった。
野山を駆け回り、動物に「ぱぱ」と名づけ、裸で毛布にくるまって、毛布を「ママ」と呼ぶ。
ボウらが楽しげに食事する姿を見て、初めて「孤独」を知って泣いているジルベールを見たボウは、
この野生児を手なずけようと思いつく。
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「命令を受ければ素直に従う。犬として手なずけるのも思いのまま。私だけを信じさせることも!」
社交仲間のソフィアはボウが好きで、ボウの親友はソフィアを愛している気持ちを伝えようとし、
ボウがジルベールにキスする姿を垣間見てしまう。
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“生きものは、生まれて初めて目をあけると、一番初めに母親、あるいは、それに似たものを求めるという。
やわらかく、やさしく、暖かいもの。彼の場合、それはあの寝乱れた毛布だったのだろうか?”
ボウはジルベールをこの城の当主だと紹介する。
ジルベールは、すっかり人気者となり、ソフィアを母のように慕う。
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ボウは親友に、「昨夜のことを黙っていてくれたら、ソフィアを君にあげる」という。
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ボウはジルベールを酔わせ、ソフィアにキスをさせたため、驚いたソフィアは子どもを突き飛ばし、自分を責める。
親友はソフィアを連れてパリに戻る。
“私は彼の母だ。そして父。教師、友人、頼る者、愛する者、嵐からの隠れ場所、そのすべて・・・
これでジルベールを存分にしこめる。
思いのままの人形から、賢く忠実な猟犬へ、賢く忠実な猟犬から、高貴なシャム猫へ”
[巻頭のカラーページ・巻末イラスト集]
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