メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

カエル

2020-02-13 13:20:00 | lyrics
カエル 笑っていたね 雨が降ると
全身を濡らして
道に出てきて
クルマに轢かれた


スズメ 笑っていたね 朝になると
電線にキレイに並んで
もう誰も思い出さない姿と形


メダカ 笑っていたね 川を覗くと
どこもアスファルトに囲まれて
川はどんよりした色と臭い


ミミズ 笑っていたね 庭を掘ると
土を食べてキレイにしてた
熱射コンクリ道路で干からびた


子ども 笑っていたね そこいらじゅうで
大声出して 鬼ごっこ
いろんな所に×が出て
家でも電車でも黙って機械を観てる



みんな どこへ行ってしまったんだろう

いつのまにか

あっという間だ

気づいたらいない



この世がすべてフィクションなら

ごめんねって謝って

許してくれるだろうか



ごめんねってまた繰り返して

もう誰もいない

あとはよろしくね




2020.1.23



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赤い屋根

2017-07-12 12:00:06 | lyrics
遠いどこかに 私の家がある

霧にかすんだ空き地には ベンチがひとつだけ待っている

巨きな月を観ながら ぼんやりと魂を飛ばす

大洋を優雅に泳ぐウミガメのように



くり返す毎日、毎日、毎日

ここに私がいてもいいスペースがあるだろうか


傍観、傍観

まっ蒼なサンゴの中を ぼんやりとした蒼い目で


そうだ 幼い頃も ここを泳いだ
どこへ行くのかは分からずとも
なにかの運(さだ)めに導かれて



どこかに 私のいていい家はないか

澄みわたる空が見える ベンチはないか

そこにゆったり腰かけて

期待するような口笛をふいて



またくり返し、くり返し、同じ夢を見るんだ


遠いサバンナの夢

横たわるスフィンクスの夢


あたたかい動物のまなざし

つめたい宇宙の呼吸


ひとつ目の宇宙人が 迎えに来てくれるまで

すべてから逃れて



桟橋でハモニカを吹いて

樹の下の芝に寝ころんで


星図をひろげて

悪戯なほほえみを浮かべて



今日もまた

くり返す

くり返す


息を吸って はいて

息を吸って はいて


時には見つめあい

見栄を張り



疲れたら ベンチに戻ろう

家へ帰ろう


波しぶきのかかる

あの赤い屋根の家へ








記 2017.7.11



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黒の美

2017-05-16 13:14:02 | lyrics
烏が一羽 飛んでゆく
風をぬいながら
巧みに空を渡ってゆく

人は縁起が悪いとか
勝手に遠ざける
黒の美


真っ青な秋晴れに
黒いつばさは美しくはばたいてゆく

こんな こんなに
おまえは綺麗なのにね


風の噂もおかまいなし
烏は悠々として
空を舞う






1987.10.23記


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そのひと

2017-04-01 13:51:49 | lyrics
そのひとの眼は
暗く深い色をしていた

いつも見るものの奥を見ていた
いつも誰かを求め
いつも誰かを想いながら

この世に求めるものは存在し得ず
ひとりにしておいてくださいと

その眼を隠しながら
シャツの袖を握りしめたひと

季節はもう
さみしすぎた




1987.10.24記



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谷川俊太郎 「あなたに」

2017-02-28 11:19:08 | lyrics
谷川俊太郎 「あなたに」

九月


人生ハ美シカツタンダツケ
ドウダツタツケ
ボクハモウ忘レチヤツタンダ

人生ハ生キナキヤイケナインダツケ
ドウダツタツケ
ボウハモウ忘レチヤツタンダ

河ノソバデボクハ捨テタンダ
イロンナモノヲ


足ノトレタ犬ノ玩具ヤ
白イオオイノカカツタ夏ノ帽子ヤ

不発ノ焼夷弾ヤ初恋ヲ
河ノソバデ

イヤナニオイノスル河ノソバデ
捨テタンダ

ソレカラ
歌ヲ歌ツテ帰ツタンダ

夕陽ヲ背中ニ
河ノ堤ヲ
歌ヲ歌ツテ大キナ声デ


ソレカラ何ヲシナキヤイケナインダツケ
ボクハ捨テタンダカラ
ソノ次ニ何ヲ

ボクハ忘レツチヤツタンダ
モウ一ペン捨テルンダツケ
ドウダツタツケ

今度ハ河デ泳グンダツケ
臭イ河デ
秋ノ陽浴ビテ素裸デ

ソレトモ
マダ歌ヲ歌ウンダツケ
ドウダツタツケ



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空に小鳥がいなくなった日 谷川俊太郎

2017-02-25 13:51:33 | lyrics
谷川俊太郎 私が歌う理由

空に小鳥がいなくなった日



森にけものがいなくなった日
森はひっそり息をこらした

森にけものがいなくなった日
ヒトは道路をつくりつづけた


海に魚がいなくなった日
海はうつろにうねりうめいた

海に魚がいなくなった日
ヒトは港をつくりつづけた


街に子どもがいなくなった日
街はなおさらにぎやかだった

街に子どもがいなくなった日
ヒトは公園をつくりつづけた


ヒトに自分がいなくなった日
ヒトはたがいにとても似ていた

ヒトに自分がいなくなった日
ヒトは未来を信じつづけた



空に小鳥がいなくなった日
空は静かに涙ながした

空に小鳥がいなくなった日
ヒトは知らずに歌いつづけた




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機会 宮沢賢治

2017-02-20 14:40:11 | lyrics
恋のはじめのおとないは

かの青春に来りけり

おなじき第二神来は

蒼き上着にありにけり

その第三は諸人の

栄誉のなかに来りけり

いまおおその四愛憐は

何たるぼろの中に来しぞも




『文語詩篇 未定稿』より


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夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった 谷川俊太郎

2017-02-19 18:55:48 | lyrics
葉書を書くよ

葉書には元気ですなどと書いてあるが

正確に言うとちょっと違うんだな

元気じゃないと書くのも不正確で

真相はつまりその中間

言いかえれば普通なんだがそれが曲者さ

普通ってのは真綿みたいな絶望の大量と

鉛みたいな希望の微量とが釣合ってる状態で

たとえば日曜日の動物園に似てるんだ

猿と人間でいっぱいの


とにかく葉書を書くよ

葉書には元気ですと書くよ

コーラを飲んでから

きみとぼくとどっちが旅に出てるのか

それもよく分らなくなってるけど




草々



(谷川俊太郎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』より)


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「春と修羅・序」 宮澤賢治/著

2017-02-17 16:19:47 | lyrics
「春と修羅・序」 宮澤賢治/著


わたくしといふ現象は

假定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといっしょに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の

ひとつの青い照明です

(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)


これらは二十二箇月の

過去とかんずる方角から

紙と鑛質インクをつらね

(すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時に感ずるもの)

ここまでたもちつゞけられた

かげとひかりのひとくさりづつ

そのとほりの心象スケッチです






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長い夢を見ていた

2017-02-07 11:39:38 | lyrics
長い夢を見ていた
まるでホンモノのようだった

そこでは みんな喋るコトバが違うから

まるでボッシュのようだね
まるでボッシュのようだね

それで わたしは しづかに 笑っていることにした
長く 長く



怖れるな

怖れるな

わたしは まるで何十年も おなじことを言い続けていたのに
とにかく 誰も意味がわからないものだから

右往左往の繰り返し 繰り返し
右往左往の繰り返し 繰り返し


それで わたしは しづかに 笑っていることにした
長く 長く



春のはじまり
1日の終わりに


まあ どうぞ そこにお掛けなさい
わたしの夢の中では
なにも急ぐ必要がない

これまであった たくさんのことを
話そうじゃありませんか
わたしは それを手帳に書きますから

いや、そうだったねえ
ほら、こうだったねえ


わたしの夢と現実は ときどきいれかわる
こんな ほがらかな1日の終わりには

どうぞ そこに ゆったりお掛けになって


コトバが通じないのなら
たがいに ほほえみあって

それだけで










2017.2.2作


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