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こころのクスリ『パン屋のヤコブ~複雑な世の中のための心やさしい哲学』(DHC)
ノア・ベンシー/著 デーブ・スペクター/訳
なぜかデイヴが訳者。DHCは本の出版までやってるのか/驚
著者は本当にパン屋さん?!→New York Bagel Factory
信じられないくらい早起きをして、毎日こおばしい香りでみんなを幸福にしてくれる
パン屋さんは、まさに神さまの仕事みたいなものだな。
▲あらすじ
ベテランパン職人のヤコブは、仕事の合間に思いついた言葉を
小さな紙片に書き留めていたが、なにかの拍子にパンに紛れ込み、
それを読んだ婦人が「ぜひ、たくさんのパンに入れて売って欲しい」と熱望。
その日から、ヤコブのもとへは、さまざまな悩み、疑問を抱えた人々が訪ねてくるようになる。
【本編のいい言葉抜粋】
ヤコブにとって仕事とは、いろいろな意味で祈りに近いものだった。
毎日繰り返される仕事は、ヤコブの心を体から解き放ち、
目先の切実な問題にとらわれることなく、
シナイの山につれていってくれる優雅な魂のようなものだったのだ。
「知恵は私を満足させない。それどころか、私をもっと飢えさせる」
「実際に持ってもいないものを隠そうとするのは、単なる傲慢ですよ」
「言葉というものは、真実を伝える嘘にすぎません」
哲学者には「失業者」という意味あいがあります。
実際的な仕事をしていないから、哲学という学問を考えられるのだそうですが。
「論理は暗闇を説明することはできるけど、決して明かりにはならないんだよ」
lightには「宗教的な目覚め」という意味もある。
「壁を乗り越えられないという恐怖心が、その壁をつくっているんです」
一人ではわからないことも二人なら見えてくる。
「手をげんこつにしているときは、他人や友人、神さまからの素晴らしい贈り物を受け取ることができない。
手をぎゅっと握っていると、ひがみしかつかむことができないんですよ。そしたら、お腹も魂も飢えてしまいます。
だから、怒りは飢えしかもたらさないんです」
怒りはその人の正確な判断力を狂わせ、自分を束縛することになる。
だから不機嫌な人にはいいことなどないのです。
冷静になって、ものごとの本質を正しくつかみましょう。
経験していないことには信頼をおかない、信じないというのでは世界も広がりません。
「自分を愚か者だと思ったことのない者が、本当の愚か者なんです」
「音符の間にある沈黙こそが、音楽そのものだからです。
檻の中の虎をおさえているものが、仕切り棒の間の空間であるように」
「人生ってボウルみたいなものですよ。ボウルには二つの役目がある。
一つはものを入れること。そしてもうひとつは、それを注いでやることです」
「雷を怖がっちゃいけないよ。あれは、神さまが家具を動かしているだけなんだから」
自分のことしか考えていないから、結婚したら自分の一部が失われてしまうなんて思うんです。
それはうぬぼれというものです。一緒になることによって、もう自分のことだけを考えてはいられなくなる、
うまくいけばうぬぼれることもなくなってしまうかもしれませんよ。
素直に現実を受け入れ、そして自分の声に耳を傾けることが大切なのです。
「私が病気なもので、見舞いに来てくれたのかね」
「いや、病気のことも気になっているけど、あなたを愛しているからきたんだよ」
むしろ世の中から無視されているときのほうが、彼の心は満ち足りているのだった。
やかんはお湯が沸いたとき、ピーッと音をたてる。
同じように自分も、呼ばれるまではじっと我慢しているべきだと彼は考えた。
そして、呼ばれたときは、その声がちゃんと聞こえるようにしていなければならない。
そのためには、いつも注意深くして、すぐ行動に移れるようにしておかなくてはならないのだ。
忍耐力、冷静さ、集中力、そして行動。
真に自由になるためには、欲張った心から解き放たれることがまず第一だ。
「猜疑心を持つということは、自分のポケットから自分の財布を盗むようなものです。
恐怖とは、実際に傷つく前の痛みなんですよ」
「私たちは、自分たちがつくりだしたファラオや、奴隷制度から抜け出さなくてはならない。
私たちは、自分たちのエジプトにいるモーゼにならなきゃいけない。
私たち自身が、『約束の地』へわたるときに越えねばならない国境なのだ」
「少年が、自分の純真な目で世の中の美しいものを眺めながら、ゆっくりといろいろなことを学びはじめる。
知識という小石を積み上げ、時がたつにつれて、彼が学んだものは、目の前にそびえる壁になってゆく。
そうなると、いくら見晴らしても、見えるのは自分が学んだことだけで、その向こうが眺められなくなっているんだ。
壁を壊すのには長い時間がかかり、老人になっていた」
経験とか知識などによって自分がいつも成長していれば、人はけして年老いることなどない。
「ある考えを否定するというのは、その考えにとらわれているのと同じことだ」
相手が何も与えてくれなかったことに感謝しています。
もし自分の期待感のほうが、相手が実際にくれたものより大きいと、
もらったもののことなど忘れて、空しい期待感しか残りません。
「私たちはみんな『ひとつの光』の反映なんです。私たちは全員が目的地のない旅をしているんです。
私たちはみんなお互いそのものなんですよ」
「他人を見て嫌だなと思うところは、自分自身の投影でもあるんだよ」
「すべてのものは過ぎ去っていきます。私たちが日々積み重ねたものは無に帰してしまいます。
でもそれは、私たち人間が、収集する生き物ではないからです。人間は過程の生き物なんです。
四季における真実とは、それらが移り変わるということです。
すべてが生きていたり、死んでいたりしているように見えても、それは外見だけにすぎません」
「私たちはみんな独りぼっちです。みんなが自分たちの無知という壮大な暗闇の中にいます。
誰かが火をおこしたところに炭が残っていないかとさぐっても、あるのは灰だけ。
明かりも暖かさももたらしてくれない灰は、私たちを悲しませます。
けれども、誰かがその夜そこにいて、火をおこし、旅を続けていたと知ること、
それだけで充分なときもあるんです」
【ライル・B・フォックスさんによるあとがき】
配偶者や子ども、友人と付き合っていくには約束、実践、勤勉が必要とされる。
それと同じことが自分自身との関係にも言える。
意識下の自分と、無意識の自分をつなぐ絆は、誠実と謙遜、そして心の平和を心から願うこと。
「もっと多くを望むなら、より少なくなることを願いなさい」