図書館に行った際、入ってすぐの棚にあり
タイトルと表紙が目に入った瞬間
借りて見てみたいと思った
規制の中で撮られた写真ではなく
そこで暮らす生の人々の姿
想像以上の緊迫した瞬間をかいくぐって
何千枚も撮った中から厳選された写真たち
1枚1枚が貴重極まりない
一見、のんびりした農村風景に見えても
解説を読めば、完全に統制され、貧しい中で生きる
ヒトの力、工夫、協力する姿だと分かる
私たちの日常生活とあまりにかけ離れて
複雑なシステムが分かりにくい部分もあれば
男女差別など共通する部分も多々あることに気づく
2007年発行のため、今どう変わったのかが気になる
これらを見て、それまでの北朝鮮のイメージがどう変わるかは
それぞれの中にある
【2007年5月 姜尚中】
貧困、洗脳、偉大なる将軍を崇拝する時代錯誤的な国家
北朝鮮といえば、こんなイメージしか湧かないのではないか
だが、北朝鮮には泣き、笑う「人間」が住んでいる
風景の中に、わずか数十年前の
日本や韓国の姿を発見することは難くない
【まえがき 石任生】
北朝鮮は韓国の人々にははるか未知の世界
朝鮮半島が二つに分断されてから60年が経って
まだ張り詰めた対立構造は変わらない
2000年「南北首脳会談」後、交流が拡がっているものの
自由に旅することは制限されている
韓国の写真家が撮影した写真は
北朝鮮が提供する制限された空間と時間
カメラをかまえて撮影するのは不可能に近い
これらは遠くから用心深く撮ったものだ
北朝鮮の人々は写真を撮るのが好きだ
だが、外部の人間に撮られることはきっぱり拒否する
それは厳しい生活で自らを支える自尊心かもしれない
読者の理解を助けるため詳しい解説をつけた
南北が統一するためのきっかけを提供できればと願う
【解説 安海龍】
日本による植民地からの解放は「南北分断時代」の始まりだった
2000年の「南北首脳会談」以降、離散家族の再会
金剛山観光など交流は進んでいる
韓国では1990年なかばから、日本では21世紀から
北朝鮮の民衆の疲れ果てた「内部映像」が公開された
おもに中朝国境などで隠しカメラで撮影されている
本書は軽水炉建設の記録写真家として北朝鮮に7年間滞在した
韓国の写真家が冷静にかつ鋭く収めた唯一の記録
日本人、韓国人にとってかすかな懐かしさがある
これらは全域の記録ではなく
写真家が滞在したハムギョンナムドだ
当局の統制をかいくぐって撮影された
韓国も北朝鮮も見せなかったひとつの断面である
【石インタビュー】
私はKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の軽水炉の建設過程を記録する担当になった
理事会メンバー(アメリカ、日本、韓国、EU)に報告するために派遣された
1997~2004年は経済的にもっとも大変な時期で「苦難の行軍」と呼ばれる
私も韓国で困窮した農村生活を経験して育った
それが大きな手助けになった
北朝鮮では、塩が不足しているので、海水で塩を作りキムチを漬ける
電気コードの代わりに針金を使う
ヒエ、ドングリなどはよい代用食
これまで大勢が写真撮影をして、フィルムを押収された
私も建設現場以外は許されなかった
外出の際は必ず2人以上の案内員が同行し
監視する任務も与えられていたが24時間持続は出来ない
少しでも緩む瞬間にいつでも撮ろうとした努力の結果
私たちだけでなく、北朝鮮の人々にとっても意義ある行動だと思う
決定的な撮影チャンスでも、ファインダーを覗けず
ピントが合わなかったり、手振れで失敗することもある
牛車に乗る患者を撮ったことが発覚した時
フィルムを押収された時
今でも検問所に行く夢を見て、目が覚めることがある
公式記録の時でさえ様々なもめ事が生じた
カメラを向けた方向に労働者がいたため
人民裁判のようになった
「ポケットに手をつっこんだまま人前で話すのはけしからん」と批判された
カメラがある場所では愛想笑いも作らないが
北朝鮮と韓国の人々が一緒に笑って仕事をしているシーンを撮った写真が一番愛着がある
Q:日本の読者に伝えたいこと
豊かな暮らしをする人々が困難な隣人を助ける
そんな美しい「地球村」になることを心から祈りたい
これらの写真が特定の目的に利用されず
実状を理解するきっかけになれば幸いです
■自分たちのやり方で暮らしてきた
藁で覆った屋根に土が塗られた上に互が積まれた家
「ハモニカ長屋」
窓1つに1世帯が住む
テレビのアンテナがたっている
朝鮮戦争後の1950年代の復興期に建てられた仮設住宅
ベビーブームに産まれた子どもが今でも使っている
住宅普及率は50~60%
食糧不足で家を売って食料を手にする人々も増えた
住民の動員を容易にし、労働力を組織化するため
こうした集合住宅が多い
燃料は練炭、褐炭など
横流しされた燃料が市場でも売られ始めた
「地方都市のアパート」
スラブブロックのため強度に限界があり、高さ制限がある
これらは土レンガで雨に弱い
冬に使う薪をベランダに積んでいる
旧正月、2.16(金正日の誕生日)、4.15(金日成)など
国家的行事の時期は外装作業が厳しく指導される
「典型的な農村地域のアパート」
トウガラシを干している
国家の標準設計により規格化され、集団的所有物のため
「成分」と地位により割り当てる
「成分」
出身の分類
核心階層、動揺階層、敵対階層の3階層15成分がある
「協同農場の文化住宅」
これらは一戸建て
菜園は30坪まで認められ、収穫物は個人所有
副業畑は規模が大きく、トウガラシ、ジャガイモなどを栽培
「奉仕売店(簡易商店)」
人民班の女性に運営許可を与える場合と
賃貸料をとって個人に貸す場合がある
焼き栗、焼き芋、アイスキャンディー、パン、草餅などが売られている
道は広いが未舗装
(パッと見、どれが店か分からない同じ白い壁
売られているものは添加物とかなさそうだな
「路上で遊ぶ子どもたち」
習い事も塾もないため
冬はソリに乗った子どもたちで道は賑やか
独楽、凧、メンコ、ビー玉、石けりなどで遊ぶ
「うらやましいものはない」
北朝鮮の童謡
1ウォン札にも書かれている
「バケツで水を運ぶ子ども」
布製の靴がすり減り、かかとがほとんどない
田舎では、共同井戸から水を汲む
汚染された地下水も多く、疫痢、チフス、コレラなどが脅威
(ここにも児童労働があるんだな
みんな外出用の服1枚で1年を過ごす
学生は学生服1着
幹部たちは金正日の服装を真似ている
「競争図表」
速報板に棒グラフが見える
作業班ごとの生産向上を督励するため
「冷蔵庫を運ぶ牛」
有力者、幹部、金持ちしか持てない所帯道具
「引っ越し風景」
住宅の個人所有ができないので
職場の移動、結婚などがない限り引っ越しはほとんどない
最近は、食料不足で住宅の裏取引でたまに目撃する
「人が生きるのに五臓六腑がなければならないように
家庭にも5ジャン6機がなければならない」
5ジャンは布団用タンス、洋服ダンス、書棚、靴箱、食器棚
6機はテレビ、冷蔵庫、ミシン、カメラ、テープレコーダー、扇風機
これらは最高位の特権層でなければ手に入らない
2ジャン3機あればいほうだ
「駅前」
駅には金正日の肖像画が大きく掲げられている
列車は不定期なので、待つ人々が退屈している
木陰では並んで昼寝している
夏の昼休みは12~14時
「人民保安省の警務官」
AK小銃を携帯している
「女性軍官」
拳銃を所持しているが、赤い手編みの手袋が女性らしい
「中間商人」
1、11、21日に市が立つ
農民が市場で売る場合、場所代が必要なので
専門的な中間商人が生まれた
「交差点娘」
電力不足のため手信号で交通整理をする(クルマもないのに?
2000年以降、日本製の中古自転車が普及し通勤で使われる
午前7時まで それ以降は地下道を通らねばならない
(いろんな細かいルールが多過ぎてムリ・・・/汗
生まれた時からこうなら、全部身につくのかなあ?
「牛車は非常に有用な移動・運搬手段」
個人では所有できない
協同農場、牛馬事業所で管理される
患者を病院に運ぶのにも使われる(驚
医療施設が劣悪で、クスリも不足しているため
はしかにかかっただけで亡くなったり、失明することもある
「南北交流」
KEDOのパワーショベルで楽しそうに話す南北の人々
(国境やルールがなければ、ヒトはこうして垣根なく話すことが出来る動物だ
■主体思想の国
「赤いマフラーの少年団」
小学2年になると自動的に加入する
「共産主義の後備軍になるために学びながら準備しよう」と強調している
「集団体操」
裏山は段々畑が造成され
「金日成の現地指導を徹底的に貫徹しよう」のスローガンが見える
金正日いわく「集団体操は共産主義者だけができること」
この訓練は「共産主義的人間」に成長させる手段となる
(日本の運動会や、制服、校則なども通じるものがないか?
「速度戦運動」
革命と建設を速やかに行おうという理念
1974年「速度戦青年突撃隊」が組織された
これは社会主義競争運動を展開するため
「宣伝画と速報板」
社労青のスローガンが入った宣伝画
人々が集まる場所に貼り、大衆を先導する
速報板は新聞の代わり
工場などの作業成果も掲示される
(他国の看板やニュースも似たような目的だよね
「太陽像」
金正日死去100日に描かれた肖像画
都市、村の入口に必ず「太陽像」と「永生塔」がある
総合買入商店の看板もある
国家経営の5号商店が崩壊したため、個人の雑貨店で
ロシア国境などから中国製商品を持ってきて売り
利益の一部は上級単位に分配される
■穀物の王様トウモロコシ
「栄養ボット農法」
家畜の堆肥でつくった腐植土に種を撒き
畑に移植して育てる(無農薬か?
農村の労働は基本、女性が担っている
農業と家事の二重苦(これも同じだな
南の人々はこう訴える
「軍隊に行けない農村の男性は、タバコを吸い、木陰で休んでばかり
あらゆる農場仕事は女性が担っているように見える」
「ボギ農業」
作物の間隔を密にして収穫を増やす密植栽培
主体農法は誤差の是正を許さないため
食糧難を悪化させた要因ともされる
「牛は国家財産」
北朝鮮ではガソリンが不足しているため、牛を様々に利用する
300万人が餓死したと言われる「苦難の行軍」の時期も
牛を食べれば公開銃殺すると言われ、牛は生き残った
北朝鮮ではトウモロコシであらゆる料理を作る
麺、餅、粥など30~40種類(グルテンフリーだな
「豆麹」
ドングリで味噌を作ったり、冷麺の材料にもする(!
いったん消えた豆麹が軒下で見られるようになった
配給に頼らず、ほんのわずかな土地にも
豆、アワ、ヒエなどを植えてなんとか適応している
「学生の労力動員」
生徒らは農村の主要な労働力
田植えの時期は授業を中断して農村支援をしなければならない
暖房用の薪を確保するため野原や山にでかける
当局は菜園、副業畑を認めていなかったが
食糧難が深刻になり、政策を変更
個人耕作地を400坪まで認めた
一部では無分別な畑の開墾で森林がさらに荒廃した
(これも地球規模な話
■総出の田植え
1998年から直播きを試みてきた
「冷床苗代」
春に気温が低く、乾いた土に苗代を設置し、移植する冷床育苗
メタンガスを動力にした田植え機を使う
大規模な工事は地域住民を総動員して進められる
トラクターが生産されたのは1958年
ロシア製を分解して、試行錯誤の末に開発に成功
■赤旗1号は走る
1961年自力で製造した「赤旗1号」
石油が足りないため、北朝鮮では電気鉄道が一般的
機関車も古く、のろのろ運転
中国、ロシアを結ぶ鉄道もあり、貿易に重要な意味を持つ
客車は上級座席車と一般座席車に分かれる
権力や金持ちの乗る上級は指定席、一般は自由席
一般にはほとんど窓がない
トイレにも乗客がいるため、とくに女性は停車すると外で用を済ませる
「貨物列車」
中国から借りた貨物列車
品物を覆うワラが垂れている
濫用して壊れそうになってから返したため、中国から多くの抗議を受けた
貨物の上に人が乗るのは盗難から守るため
駅で盗まれたり、鉄道労働者が盗む場合もある
■自力更生
「木炭車」
1985年以降、ガソリン類が不足し
小都市、農村では木炭車で人を輸送する
「車待ち 8・3車」
トラックでの移動
乗客はタバコや酒で支払う
「8・3人民消費品創造運動」以後に一般化された
廃品、規格外品を再利用して生活必需品を作ることを奨励した運動
「車両番号」
大きく軍番号と社会番号に分かれる
地域、検察、党機関、教育、科学、文化などの部門の数字が続く
最後に車両の固有番号
01~07 中央党
11 地方党
12 人民委員会
15~17 人民保安省
18~20 国家安全保衛部
38 農業部門
「遮断所」
空車のまま運行する浪費を防ぐため遮断所を設置
最近は私的利用、権力濫用も増えた
「内貨タクシー」
1980年代、ルーマニアから輸入したタキヤ
華僑たちは外貨商店でタキヤを購入できる
内貨タクシー:北朝鮮の通貨
外貨タクシー:
ドル、円に替えた「金票」を運賃とする
一般市民はほとんど利用できない
遠くまで移動する場合、車待ちする場所がある
2000年以降、現金、タバコを見せる行為が禁止されたため
上着に隠して、車が通ると止める
トラックには必ず運転手と助手が同行
故障していても、見張らないと部品がすべて盗られてしまう
「燃料の供給」
現金は通用せず、どうにか配定票を入手しなければならなかった
90年代、ヤミ市場で「ガソリンあるよ」と歩き回る人に聞けば場所を教えてくれる
「名節の贈物はおもに酒」
瓶のフタがしっかりしていないためよく漏れる
漏れを防ぐために斜めに立て
割れるのを防ぐためモミガラを合間に挟む
トラクターは遅いため、通行人に盗まれないよう管理者が見張る
外交団事業部はボルボ、党は新型ベンツ
軍行政委員会はベンツを使う
運転手はクラクションを鳴らし、乱暴に運転するため
一般市民は避けながら歩かないといけない
「回らない風力発電機」
少しでも水があれば超小型の水力発電所が全国各地に造られた
試験的に風力発電所が建てられたが回っていない
(水力ならエコじゃない?
「新興山旅館」
東海(日本海)側でもっとも有名な宿泊施設
トロリーバスが走る
電力の悪化で本数が減った
■苦難の行軍
「セメントを積む」
夏の労働現場の特徴
履いているパンツは妻がミシンで縫ったもの
きれいにアイロンがけされたズボンとシャツを着ているのは
外国人がいるのを意識して着替えるよう指示があったのだろう
日焼けした足は靴を履いたことがないことが分かる
北朝鮮で靴がどれほど貴重かを物語る
「黄金山」
「あらゆる山を黄金山、宝物山にしよう」という金正日の教示が書かれている
山菜、キノコなどは宝物だという意味だが
燃料不足でハゲ山が増えている
「段々畑」
食料増産のための新しい土地探しの戦闘
国土の16%にすぎない耕地面積を増やすため
傾斜15度以上の山間地帯を開墾
段々畑をつくり、急斜面まで開墾し
山々は荒廃し、土砂流失による洪水をもたらした
(自然災害の理由も同じだ
「ヤギは貴重な生命線」
ヤギは個人が育て、乳を搾り、市場に売ることが許されている
子ヤギが乳を飲まないよう、布製の乳カバーをつけている
「草と肉を換えよう」をスローガンに
食糧難解決の一環で「草食家畜」を大々的に飼育する措置がとられた
ヤギの乳は牛より脂分と栄養価が高い
北朝鮮の畜産の中心は、鶏、鴨、ウサギなどの小家畜
「釣り」
金正日は生前釣りが好きだったため
北朝鮮の人々も釣りが大好き
海岸線は制限され、人民武力部が管理しているため
一般市民が近づけず、川釣り
「養魚場」
1990年代以降、漁獲量が急激に減少
2000年末に全国にナマズ工場と養魚場を新設したが
餌の供給が悪く成果が上がらなかったと言われる
「越冬用の燃料」
松の落ち葉をかき集め、燃やせるものを集めないと
厳しい寒さに凍えてしまう
こうして民家の山からハゲ山になっていった
「自転車」
舗装された高速道路を行く2人連れ
カゴの前に自転車番号のプレートがついている
「苦難の行軍」には自転車の盗難に困り
番号プレートを発給し、自転車免許証と照合して検閲する
自転車を盗むと労働鍛錬隊で3か月の思想教育を受ける
必要な荷物はリュックを背負って移動する
男は亭主関白なため決して子どもをおぶわないが
「苦難の行軍」の時期、子どもおぶって歩く若い男性を見た
タイトルと表紙が目に入った瞬間
借りて見てみたいと思った
規制の中で撮られた写真ではなく
そこで暮らす生の人々の姿
想像以上の緊迫した瞬間をかいくぐって
何千枚も撮った中から厳選された写真たち
1枚1枚が貴重極まりない
一見、のんびりした農村風景に見えても
解説を読めば、完全に統制され、貧しい中で生きる
ヒトの力、工夫、協力する姿だと分かる
私たちの日常生活とあまりにかけ離れて
複雑なシステムが分かりにくい部分もあれば
男女差別など共通する部分も多々あることに気づく
2007年発行のため、今どう変わったのかが気になる
これらを見て、それまでの北朝鮮のイメージがどう変わるかは
それぞれの中にある
【2007年5月 姜尚中】
貧困、洗脳、偉大なる将軍を崇拝する時代錯誤的な国家
北朝鮮といえば、こんなイメージしか湧かないのではないか
だが、北朝鮮には泣き、笑う「人間」が住んでいる
風景の中に、わずか数十年前の
日本や韓国の姿を発見することは難くない
【まえがき 石任生】
北朝鮮は韓国の人々にははるか未知の世界
朝鮮半島が二つに分断されてから60年が経って
まだ張り詰めた対立構造は変わらない
2000年「南北首脳会談」後、交流が拡がっているものの
自由に旅することは制限されている
韓国の写真家が撮影した写真は
北朝鮮が提供する制限された空間と時間
カメラをかまえて撮影するのは不可能に近い
これらは遠くから用心深く撮ったものだ
北朝鮮の人々は写真を撮るのが好きだ
だが、外部の人間に撮られることはきっぱり拒否する
それは厳しい生活で自らを支える自尊心かもしれない
読者の理解を助けるため詳しい解説をつけた
南北が統一するためのきっかけを提供できればと願う
【解説 安海龍】
日本による植民地からの解放は「南北分断時代」の始まりだった
2000年の「南北首脳会談」以降、離散家族の再会
金剛山観光など交流は進んでいる
韓国では1990年なかばから、日本では21世紀から
北朝鮮の民衆の疲れ果てた「内部映像」が公開された
おもに中朝国境などで隠しカメラで撮影されている
本書は軽水炉建設の記録写真家として北朝鮮に7年間滞在した
韓国の写真家が冷静にかつ鋭く収めた唯一の記録
日本人、韓国人にとってかすかな懐かしさがある
これらは全域の記録ではなく
写真家が滞在したハムギョンナムドだ
当局の統制をかいくぐって撮影された
韓国も北朝鮮も見せなかったひとつの断面である
【石インタビュー】
私はKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の軽水炉の建設過程を記録する担当になった
理事会メンバー(アメリカ、日本、韓国、EU)に報告するために派遣された
1997~2004年は経済的にもっとも大変な時期で「苦難の行軍」と呼ばれる
私も韓国で困窮した農村生活を経験して育った
それが大きな手助けになった
北朝鮮では、塩が不足しているので、海水で塩を作りキムチを漬ける
電気コードの代わりに針金を使う
ヒエ、ドングリなどはよい代用食
これまで大勢が写真撮影をして、フィルムを押収された
私も建設現場以外は許されなかった
外出の際は必ず2人以上の案内員が同行し
監視する任務も与えられていたが24時間持続は出来ない
少しでも緩む瞬間にいつでも撮ろうとした努力の結果
私たちだけでなく、北朝鮮の人々にとっても意義ある行動だと思う
決定的な撮影チャンスでも、ファインダーを覗けず
ピントが合わなかったり、手振れで失敗することもある
牛車に乗る患者を撮ったことが発覚した時
フィルムを押収された時
今でも検問所に行く夢を見て、目が覚めることがある
公式記録の時でさえ様々なもめ事が生じた
カメラを向けた方向に労働者がいたため
人民裁判のようになった
「ポケットに手をつっこんだまま人前で話すのはけしからん」と批判された
カメラがある場所では愛想笑いも作らないが
北朝鮮と韓国の人々が一緒に笑って仕事をしているシーンを撮った写真が一番愛着がある
Q:日本の読者に伝えたいこと
豊かな暮らしをする人々が困難な隣人を助ける
そんな美しい「地球村」になることを心から祈りたい
これらの写真が特定の目的に利用されず
実状を理解するきっかけになれば幸いです
■自分たちのやり方で暮らしてきた
藁で覆った屋根に土が塗られた上に互が積まれた家
「ハモニカ長屋」
窓1つに1世帯が住む
テレビのアンテナがたっている
朝鮮戦争後の1950年代の復興期に建てられた仮設住宅
ベビーブームに産まれた子どもが今でも使っている
住宅普及率は50~60%
食糧不足で家を売って食料を手にする人々も増えた
住民の動員を容易にし、労働力を組織化するため
こうした集合住宅が多い
燃料は練炭、褐炭など
横流しされた燃料が市場でも売られ始めた
「地方都市のアパート」
スラブブロックのため強度に限界があり、高さ制限がある
これらは土レンガで雨に弱い
冬に使う薪をベランダに積んでいる
旧正月、2.16(金正日の誕生日)、4.15(金日成)など
国家的行事の時期は外装作業が厳しく指導される
「典型的な農村地域のアパート」
トウガラシを干している
国家の標準設計により規格化され、集団的所有物のため
「成分」と地位により割り当てる
「成分」
出身の分類
核心階層、動揺階層、敵対階層の3階層15成分がある
「協同農場の文化住宅」
これらは一戸建て
菜園は30坪まで認められ、収穫物は個人所有
副業畑は規模が大きく、トウガラシ、ジャガイモなどを栽培
「奉仕売店(簡易商店)」
人民班の女性に運営許可を与える場合と
賃貸料をとって個人に貸す場合がある
焼き栗、焼き芋、アイスキャンディー、パン、草餅などが売られている
道は広いが未舗装
(パッと見、どれが店か分からない同じ白い壁
売られているものは添加物とかなさそうだな
「路上で遊ぶ子どもたち」
習い事も塾もないため
冬はソリに乗った子どもたちで道は賑やか
独楽、凧、メンコ、ビー玉、石けりなどで遊ぶ
「うらやましいものはない」
北朝鮮の童謡
1ウォン札にも書かれている
「バケツで水を運ぶ子ども」
布製の靴がすり減り、かかとがほとんどない
田舎では、共同井戸から水を汲む
汚染された地下水も多く、疫痢、チフス、コレラなどが脅威
(ここにも児童労働があるんだな
みんな外出用の服1枚で1年を過ごす
学生は学生服1着
幹部たちは金正日の服装を真似ている
「競争図表」
速報板に棒グラフが見える
作業班ごとの生産向上を督励するため
「冷蔵庫を運ぶ牛」
有力者、幹部、金持ちしか持てない所帯道具
「引っ越し風景」
住宅の個人所有ができないので
職場の移動、結婚などがない限り引っ越しはほとんどない
最近は、食料不足で住宅の裏取引でたまに目撃する
「人が生きるのに五臓六腑がなければならないように
家庭にも5ジャン6機がなければならない」
5ジャンは布団用タンス、洋服ダンス、書棚、靴箱、食器棚
6機はテレビ、冷蔵庫、ミシン、カメラ、テープレコーダー、扇風機
これらは最高位の特権層でなければ手に入らない
2ジャン3機あればいほうだ
「駅前」
駅には金正日の肖像画が大きく掲げられている
列車は不定期なので、待つ人々が退屈している
木陰では並んで昼寝している
夏の昼休みは12~14時
「人民保安省の警務官」
AK小銃を携帯している
「女性軍官」
拳銃を所持しているが、赤い手編みの手袋が女性らしい
「中間商人」
1、11、21日に市が立つ
農民が市場で売る場合、場所代が必要なので
専門的な中間商人が生まれた
「交差点娘」
電力不足のため手信号で交通整理をする(クルマもないのに?
2000年以降、日本製の中古自転車が普及し通勤で使われる
午前7時まで それ以降は地下道を通らねばならない
(いろんな細かいルールが多過ぎてムリ・・・/汗
生まれた時からこうなら、全部身につくのかなあ?
「牛車は非常に有用な移動・運搬手段」
個人では所有できない
協同農場、牛馬事業所で管理される
患者を病院に運ぶのにも使われる(驚
医療施設が劣悪で、クスリも不足しているため
はしかにかかっただけで亡くなったり、失明することもある
「南北交流」
KEDOのパワーショベルで楽しそうに話す南北の人々
(国境やルールがなければ、ヒトはこうして垣根なく話すことが出来る動物だ
■主体思想の国
「赤いマフラーの少年団」
小学2年になると自動的に加入する
「共産主義の後備軍になるために学びながら準備しよう」と強調している
「集団体操」
裏山は段々畑が造成され
「金日成の現地指導を徹底的に貫徹しよう」のスローガンが見える
金正日いわく「集団体操は共産主義者だけができること」
この訓練は「共産主義的人間」に成長させる手段となる
(日本の運動会や、制服、校則なども通じるものがないか?
「速度戦運動」
革命と建設を速やかに行おうという理念
1974年「速度戦青年突撃隊」が組織された
これは社会主義競争運動を展開するため
「宣伝画と速報板」
社労青のスローガンが入った宣伝画
人々が集まる場所に貼り、大衆を先導する
速報板は新聞の代わり
工場などの作業成果も掲示される
(他国の看板やニュースも似たような目的だよね
「太陽像」
金正日死去100日に描かれた肖像画
都市、村の入口に必ず「太陽像」と「永生塔」がある
総合買入商店の看板もある
国家経営の5号商店が崩壊したため、個人の雑貨店で
ロシア国境などから中国製商品を持ってきて売り
利益の一部は上級単位に分配される
■穀物の王様トウモロコシ
「栄養ボット農法」
家畜の堆肥でつくった腐植土に種を撒き
畑に移植して育てる(無農薬か?
農村の労働は基本、女性が担っている
農業と家事の二重苦(これも同じだな
南の人々はこう訴える
「軍隊に行けない農村の男性は、タバコを吸い、木陰で休んでばかり
あらゆる農場仕事は女性が担っているように見える」
「ボギ農業」
作物の間隔を密にして収穫を増やす密植栽培
主体農法は誤差の是正を許さないため
食糧難を悪化させた要因ともされる
「牛は国家財産」
北朝鮮ではガソリンが不足しているため、牛を様々に利用する
300万人が餓死したと言われる「苦難の行軍」の時期も
牛を食べれば公開銃殺すると言われ、牛は生き残った
北朝鮮ではトウモロコシであらゆる料理を作る
麺、餅、粥など30~40種類(グルテンフリーだな
「豆麹」
ドングリで味噌を作ったり、冷麺の材料にもする(!
いったん消えた豆麹が軒下で見られるようになった
配給に頼らず、ほんのわずかな土地にも
豆、アワ、ヒエなどを植えてなんとか適応している
「学生の労力動員」
生徒らは農村の主要な労働力
田植えの時期は授業を中断して農村支援をしなければならない
暖房用の薪を確保するため野原や山にでかける
当局は菜園、副業畑を認めていなかったが
食糧難が深刻になり、政策を変更
個人耕作地を400坪まで認めた
一部では無分別な畑の開墾で森林がさらに荒廃した
(これも地球規模な話
■総出の田植え
1998年から直播きを試みてきた
「冷床苗代」
春に気温が低く、乾いた土に苗代を設置し、移植する冷床育苗
メタンガスを動力にした田植え機を使う
大規模な工事は地域住民を総動員して進められる
トラクターが生産されたのは1958年
ロシア製を分解して、試行錯誤の末に開発に成功
■赤旗1号は走る
1961年自力で製造した「赤旗1号」
石油が足りないため、北朝鮮では電気鉄道が一般的
機関車も古く、のろのろ運転
中国、ロシアを結ぶ鉄道もあり、貿易に重要な意味を持つ
客車は上級座席車と一般座席車に分かれる
権力や金持ちの乗る上級は指定席、一般は自由席
一般にはほとんど窓がない
トイレにも乗客がいるため、とくに女性は停車すると外で用を済ませる
「貨物列車」
中国から借りた貨物列車
品物を覆うワラが垂れている
濫用して壊れそうになってから返したため、中国から多くの抗議を受けた
貨物の上に人が乗るのは盗難から守るため
駅で盗まれたり、鉄道労働者が盗む場合もある
■自力更生
「木炭車」
1985年以降、ガソリン類が不足し
小都市、農村では木炭車で人を輸送する
「車待ち 8・3車」
トラックでの移動
乗客はタバコや酒で支払う
「8・3人民消費品創造運動」以後に一般化された
廃品、規格外品を再利用して生活必需品を作ることを奨励した運動
「車両番号」
大きく軍番号と社会番号に分かれる
地域、検察、党機関、教育、科学、文化などの部門の数字が続く
最後に車両の固有番号
01~07 中央党
11 地方党
12 人民委員会
15~17 人民保安省
18~20 国家安全保衛部
38 農業部門
「遮断所」
空車のまま運行する浪費を防ぐため遮断所を設置
最近は私的利用、権力濫用も増えた
「内貨タクシー」
1980年代、ルーマニアから輸入したタキヤ
華僑たちは外貨商店でタキヤを購入できる
内貨タクシー:北朝鮮の通貨
外貨タクシー:
ドル、円に替えた「金票」を運賃とする
一般市民はほとんど利用できない
遠くまで移動する場合、車待ちする場所がある
2000年以降、現金、タバコを見せる行為が禁止されたため
上着に隠して、車が通ると止める
トラックには必ず運転手と助手が同行
故障していても、見張らないと部品がすべて盗られてしまう
「燃料の供給」
現金は通用せず、どうにか配定票を入手しなければならなかった
90年代、ヤミ市場で「ガソリンあるよ」と歩き回る人に聞けば場所を教えてくれる
「名節の贈物はおもに酒」
瓶のフタがしっかりしていないためよく漏れる
漏れを防ぐために斜めに立て
割れるのを防ぐためモミガラを合間に挟む
トラクターは遅いため、通行人に盗まれないよう管理者が見張る
外交団事業部はボルボ、党は新型ベンツ
軍行政委員会はベンツを使う
運転手はクラクションを鳴らし、乱暴に運転するため
一般市民は避けながら歩かないといけない
「回らない風力発電機」
少しでも水があれば超小型の水力発電所が全国各地に造られた
試験的に風力発電所が建てられたが回っていない
(水力ならエコじゃない?
「新興山旅館」
東海(日本海)側でもっとも有名な宿泊施設
トロリーバスが走る
電力の悪化で本数が減った
■苦難の行軍
「セメントを積む」
夏の労働現場の特徴
履いているパンツは妻がミシンで縫ったもの
きれいにアイロンがけされたズボンとシャツを着ているのは
外国人がいるのを意識して着替えるよう指示があったのだろう
日焼けした足は靴を履いたことがないことが分かる
北朝鮮で靴がどれほど貴重かを物語る
「黄金山」
「あらゆる山を黄金山、宝物山にしよう」という金正日の教示が書かれている
山菜、キノコなどは宝物だという意味だが
燃料不足でハゲ山が増えている
「段々畑」
食料増産のための新しい土地探しの戦闘
国土の16%にすぎない耕地面積を増やすため
傾斜15度以上の山間地帯を開墾
段々畑をつくり、急斜面まで開墾し
山々は荒廃し、土砂流失による洪水をもたらした
(自然災害の理由も同じだ
「ヤギは貴重な生命線」
ヤギは個人が育て、乳を搾り、市場に売ることが許されている
子ヤギが乳を飲まないよう、布製の乳カバーをつけている
「草と肉を換えよう」をスローガンに
食糧難解決の一環で「草食家畜」を大々的に飼育する措置がとられた
ヤギの乳は牛より脂分と栄養価が高い
北朝鮮の畜産の中心は、鶏、鴨、ウサギなどの小家畜
「釣り」
金正日は生前釣りが好きだったため
北朝鮮の人々も釣りが大好き
海岸線は制限され、人民武力部が管理しているため
一般市民が近づけず、川釣り
「養魚場」
1990年代以降、漁獲量が急激に減少
2000年末に全国にナマズ工場と養魚場を新設したが
餌の供給が悪く成果が上がらなかったと言われる
「越冬用の燃料」
松の落ち葉をかき集め、燃やせるものを集めないと
厳しい寒さに凍えてしまう
こうして民家の山からハゲ山になっていった
「自転車」
舗装された高速道路を行く2人連れ
カゴの前に自転車番号のプレートがついている
「苦難の行軍」には自転車の盗難に困り
番号プレートを発給し、自転車免許証と照合して検閲する
自転車を盗むと労働鍛錬隊で3か月の思想教育を受ける
必要な荷物はリュックを背負って移動する
男は亭主関白なため決して子どもをおぶわないが
「苦難の行軍」の時期、子どもおぶって歩く若い男性を見た