ACの「そして誰もいなくなった」の続きである。ACも探偵の視点(素人探偵や非現役探偵を含む)の小説としてはポワロとかミス・マーブルがある。タペンスと何とかというアベック探偵のシリーズもある。この「誰も、」は素人も玄人もボランタリーの探偵もいない。
この小説は謎の人物にまんまと誘い出されて交通の不便な島に集まった10人の視点で進行する。おそらく私の印象に残らなかったのはこの散漫な視点の分散のせいだろう。同様に読者に残るようなキャラも立てにくい。
芝居にしたらもう少し印象が残ったかも知れない。実際彼女はこの小説を劇化しているのではないかな。
犯人は最後に自殺する判事ということになっている。彼が自殺前に(書いていないがそういうことだろう)犯行計画の全容と実施報告を書いて瓶に密封して海に流したということになっている。
したがってこの小説は記述トリックものである。アクロイド殺しと同じである。ただ、記述の流れが十人の視点に分散していること、犯人イコール報告者部分が最後の数ページしかないことでアクロイドとはだいぶ印象がちがう。
さておつぎは何を読むか。アクロイドは同じ記述トリックものだし、オリエント急行は交通途絶の島が吹雪で外界と連絡出来なくなった特急列車の車内に変わっただけだ。これも本来映画や演劇向きの設定だね。記憶では犯人はたしか乗客全員ということだった。「誰も」から趣向を変えたのはそこだけだったと思う。「予告殺人」でも読むか。これは読んだ記憶がないしね。
こうして見ると彼女の得意な状況設定はこのようなパターンの繰り返しなんだね。
ところで「予告殺人」というのは売れていないのかな。あまりAC棚で見かけないようだが。