穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

探偵のいない推理小説

2016-11-24 13:58:57 | アガサ・クリスティー

ACの「そして誰もいなくなった」の続きである。ACも探偵の視点(素人探偵や非現役探偵を含む)の小説としてはポワロとかミス・マーブルがある。タペンスと何とかというアベック探偵のシリーズもある。この「誰も、」は素人も玄人もボランタリーの探偵もいない。 

この小説は謎の人物にまんまと誘い出されて交通の不便な島に集まった10人の視点で進行する。おそらく私の印象に残らなかったのはこの散漫な視点の分散のせいだろう。同様に読者に残るようなキャラも立てにくい。

芝居にしたらもう少し印象が残ったかも知れない。実際彼女はこの小説を劇化しているのではないかな。

犯人は最後に自殺する判事ということになっている。彼が自殺前に(書いていないがそういうことだろう)犯行計画の全容と実施報告を書いて瓶に密封して海に流したということになっている。

したがってこの小説は記述トリックものである。アクロイド殺しと同じである。ただ、記述の流れが十人の視点に分散していること、犯人イコール報告者部分が最後の数ページしかないことでアクロイドとはだいぶ印象がちがう。

さておつぎは何を読むか。アクロイドは同じ記述トリックものだし、オリエント急行は交通途絶の島が吹雪で外界と連絡出来なくなった特急列車の車内に変わっただけだ。これも本来映画や演劇向きの設定だね。記憶では犯人はたしか乗客全員ということだった。「誰も」から趣向を変えたのはそこだけだったと思う。「予告殺人」でも読むか。これは読んだ記憶がないしね。

こうして見ると彼女の得意な状況設定はこのようなパターンの繰り返しなんだね。

ところで「予告殺人」というのは売れていないのかな。あまりAC棚で見かけないようだが。


アガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」

2016-11-24 07:36:24 | アガサ・クリスティー

「そして記憶はまったく抹消されてしまった」。だいぶ前に読んだのだが、この小説の内容で覚えているのは、迷宮入りの事件の真相が明らかになったのは、犯人が書いて瓶のなかに密封して海に流したものが、何年か後に漁船に拾われた、というような結末だったな(ではなかったか)ということだけである。

ところで今度読んでみてもストーリーを思い出すことが全くない。つまり読んだ記憶がない。あれれ、俺の記憶は間違いだったかな。ということで結末に至った。ようやく最終章で瓶の中のメモの事が書いてある。やはり読んだという記憶は正しかった。普通は前に読んだことのある小説は遅かれ早かれ思い出すものである。既読感が蘇る。それが最初の十ページか百ページかの違いがあっても。それが最後の数ページに至ってようやく記憶と合致するというのは私にとっても初めての経験だった。 

なぜか?筋が不自然だったからか。確かにこの小説の構成というかアイデアは不自然である。しかし不自然ならその点が記憶に強く残るものである。畢竟するにACの文章にイメージ喚起力がないと言うことが原因だろう。平板な文章ということかも知れない。もっとも彼女の文章は別の言い方をすれば平明である。そしてこれは文章にとって普通は長所なんだけどね。

次回「入れ子構造の記述トリック」


アガサ・クリスティーのベストテン

2016-11-23 22:13:10 | アガサ・クリスティー

さるサイトにファンクラブ投票によるアガサ・クリスティー(以下AC)作品のベストテンが紹介されている。またAC自選のベストテンも紹介されている。 

彼女はミステリーだけでも毎年一冊は発表していたそうである。毎年クリスマス頃に出したらしい。彼女の長い生涯ではおびただしい数になる。商売を当て込んで日本でも翻訳点数が数十冊になっているようだ。ハヤカワのAC文庫なるものがあり、赤い表紙が諸点にずらりと並んでいる。

こう言う物を片っ端から買うファンもいるのだろうが、私は逆にどれを読んだら多少はあたりがくるのか見当がつかないから素通りする。最近は読むミステリーの本も少なくなったので、どれACでも読んでみようかという気をおこしても選択の基準がない。そこでこのサイトのベストテンを見たときに参考になるかとおもった。さてこの二つのベストテン(ファンクラブとAC自選)の一位から四位までは同じである(奇しくも?)。すなわち

一位 そして誰もいなくなった

二位アクロイド殺し

三位オリエント急行の殺人

四位予告殺人

五位以下はばらばらであった。

このうち、「そして誰も、」と「アクロイド」は読んだ記憶はあるのだが内容は覚えていない。「オリエント急行」はたしかテレビで見たような気がする。それで基準点として「そして誰も、、」から始めようかと書店で立ち読みした。例によって解説だけを。赤川次郎氏の解説があるが、この文章は水準以上であった。この人もミステリー作家らしいが彼の本は読んだことがない。ハヤカワのAC文庫の解説は名も知らぬ(私がしらないだけだが)人のくだらない文章が多いので、おやベストテン一位の解説者にはしっかりした人を選ぶのかなと思った。>>