この本を選んだのは下記の理由による(告解、ハヤカワミステリー文庫)。
1・前回取り上げた敵手が1995年の駄作、これが著者(および訳者)の高齢によるスランプなのかどうか、読み比べたいということ。「告解」は1994年の作品である。
2・登場人物リストを見たり、最初の数ページを読むと競馬の装蹄師の世界を描いたように思われたこと。かねてから、「興奮」などで競馬サークルのグループの描写がきわめて巧みなので、今回は競馬の予想という自分の都合で興味のある職業なのでつい手が出た。
ところがである。確かに下駄屋は出てくるが、主役は競馬世界に二十数年前におこった調教師の妻の変死事件をデフォルメした映画製作の話が延々と続く。そういうことに興味があれば部分的には面白い。どうも、やはりフランシスの年のせいだろうと思うが、筆の運びが快調なのが部分的で間歇的なんだね。つまり面白いところと退屈なところがまだら模様になっている。
変死事件そのものも下駄屋(ソウテイシは一発で変換できないから下駄屋で代用する)の職業上のトラブルとか、八百長工作とかとは一切関係がない。それどころが競馬社会特有の事情は一切からんでいない。落ちも下駄屋の世界とは全く関係がない。
D・フランシスは自分の作品が映画化されたことがあるのだろう。その時に映画製作にも何らかの形で参画した経験があるようだ。ことこまかに記述している、楽しそうに。
だから、そういうことに興味がある人にはいいだろう。
前回も触れたが、相変わらず動機は薄弱で最後の落ちの説明はかなりもたつく。評価は敵手よりはいいが水準すれすれの作品というところである。
どうもフランシスの作品も底が割れたようなので、書評はこれで終わりにするかな。