この小説はエアタクシーの操縦士が主人公である。5,6人乗りのチェロキーとかセスナで騎手や競馬関係者をほうぼうの競馬場に運ぶ。
イギリスの競馬場には飛行機の離着陸を認めるところがあるようだ。4ハロンも直線路があればコンクリートで舗装してなくて芝生でもセーフらしい。パドックや検量室のすぐそばに降りるから、お座敷を掛け持ちしている売れっ子の騎手には便利だ。
利用するのは有名な(忙しい、金がある)騎手、調教師、馬主、競馬愛好家など。料金は乗客同士で割り勘にする。地方競馬なんかにいくと最寄りの駅から相乗りタクシーというのがあるが、あれと同じだ。
小さな会社が複数あるらしい。よく利用する騎手一人を乗客として確保するかどうかが会社の浮沈にかかわると言うから小さな業界である。有名ジョッキーの奪い合いが暴力沙汰になるところも書いてある。
主人公は飛越と同じタイプである。エリートあるいはキャリア・パイロットがわけありでエアタクシーの運転手に身をやつしている。飛越では伯爵の息子、混戦ではもとBOACの国際線搭乗員。事故がらみの過去で今はタクシーの運転手。
ところでBOACて分かる?昔のイギリスのフラッグ・キャリアでたしかつぶれてしまった。日航みたいな会社だ。いまはBAというのが一応フラッグ・キャリアらしい。
そして、飛越も混戦も主人公は挫折して消極的な人生を送っており、影の薄い青年と言う設定になっている。下腹部はセメントでかためたような、この小説に出てくる若い挑発的な女の表現を借りれば、氷ずけになっている。
それが事件に巻き込まれていって大活躍と言うのは飛越と同じだ。なんだか航空関係者を描くと人物の性格が似てくるらしい。飛越は66年作、混戦は70年作だが。
事件は(言ってしまっていいかな)保険金詐欺である。ここでもDFの黒髪フェチぶりが出ている。有名ジョッキーの妹で美人のあいかたは黒髪である。
190ページあたりから経験の浅いパイロット(これが黒髪美人)が兄を乗せて悪天候の中を飛行するが、計器が故障してしまった(これも犯罪の一部、壊されたのである)。計器飛行が出来ない。主人公が後から離陸して追いかける。各地の管制官に誘導してもらって彼女の飛行機を発見、雁行して無事着陸まで誘導する。
こううまくいくかなという感じはあるが、このあたりはやはりパイロットでなければ書けない。少なくともイギリスの航空管制システムを熟知していないと書けないだろう。
前にも書いたがDFは第二次大戦で空軍パイロット、除隊してこの小説に出てくるようなエアタクシーの経営者兼パイロットだった。その経験が生かされた小説だ。