穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

イシグロ、ハクスリー二作品における家族概念

2017-11-24 11:02:03 | 本と雑誌

 両作品に『家族概念』は有りません。「私を離さないで」は暗々裏の前提として。「すばらしい新世界」では悪徳概念としての家族。

 すばらしい新世界では父、母、家族それに膣口からの出産は口にするのも汚らしい言葉であり、概念です。出産した女性は最大の侮蔑の対象となります。この小説ではリンダという人物が誤って従来型の膣口出産をした為に未開の隔離社会(高圧電流のながれる柵で囲まれた居留地というか流刑地)に追放されます。

 ではセックスはというのは、これは乱交OK、というよりむしろ倫理的に唯一の正しい関係である。乱交しなければならない。ここでよだれの垂れて来た現代女性はいませんか。ロメオとジュリエット型純愛は犯罪となります。ただ階級間での性交が認められているかどうかについては、明示的に小説の中で語られているかどうかは気が付かなかった。

  もちろんハクスリーは反語として言っているのだろう、多分。



安倍首相に勧めたい一書

2017-11-23 23:03:10 | 本と雑誌

 連想は「シリアスな作家の書いたSF」なんですがオルダス・ハックスリーの「すばらしい新世界」(光文社古典文庫)を読み「終わりました」。この前はカズオ・イシグロの「私を離さないで」をどうしても読み終われなかったが、シリアスな作家のSFッぽい小説でかねて書名だけは知っていた「すばらしい新世界」が市中徘徊中眼に留まったわけです。

 いろいろと盛りだくさんな、アイデア一杯の小説でこの辺も「私を離さないで」と違う。二書の共通点と言うと生理学というか医学系のSFということか。なかに一卵性多胎児というのがある。受精卵の早い段階で何回も受精卵を人工的に分裂させて多数の試験管ベビーを生産するというのがある。一つの受精卵から1000人の人間が生まれるというわけ。人口減少回避に釈迦力な安倍首相に勧めたい方法です。もっとも1000人ではなくて1024人というべきかも知れない。

 これなど山中教授の研究につながりそうだ。この小説は1932年の発行で医学的知識ではその後の現在の遺伝学とはかけ離れた所も有るが色々とアイデア沢山です。さらにハクスリーは未来でも単純労働者から高度の管理支配階級まで厳然とした階級制度を実現させる。いかにもイギリスの作家らしい。階級はアルファ階級が一番上で、ベータ、ガンマ、イプシロン階級などに細分化されている。階級間移動無し。なぜなら受精卵の時期にしかるべき化学的、放射線学的処理が施されて単純労働者に適した個体、支配階級に適した個体と理論的かつ理想的な比率で生産される。

 しかし、下層階級が上流階級を妬んだり、反乱を起こすことは有り得ない。なぜなら全員に麻薬(ソーマ)が毎日一定量配給されてどの階級の人間も一生幸せに自足して暮らせるからである。ハクスリーは薬物にこだわりのある作家で後に自らLSD服用体験記を書いている(知覚の扉)。薬物の効用が長々と紹介される所等いかにもハクスリーらしい。

 ようするに、アイデア小説ですな。とすると「私を離さないで」は何小説かな。