連想は「シリアスな作家の書いたSF」なんですがオルダス・ハックスリーの「すばらしい新世界」(光文社古典文庫)を読み「終わりました」。この前はカズオ・イシグロの「私を離さないで」をどうしても読み終われなかったが、シリアスな作家のSFッぽい小説でかねて書名だけは知っていた「すばらしい新世界」が市中徘徊中眼に留まったわけです。
いろいろと盛りだくさんな、アイデア一杯の小説でこの辺も「私を離さないで」と違う。二書の共通点と言うと生理学というか医学系のSFということか。なかに一卵性多胎児というのがある。受精卵の早い段階で何回も受精卵を人工的に分裂させて多数の試験管ベビーを生産するというのがある。一つの受精卵から1000人の人間が生まれるというわけ。人口減少回避に釈迦力な安倍首相に勧めたい方法です。もっとも1000人ではなくて1024人というべきかも知れない。
これなど山中教授の研究につながりそうだ。この小説は1932年の発行で医学的知識ではその後の現在の遺伝学とはかけ離れた所も有るが色々とアイデア沢山です。さらにハクスリーは未来でも単純労働者から高度の管理支配階級まで厳然とした階級制度を実現させる。いかにもイギリスの作家らしい。階級はアルファ階級が一番上で、ベータ、ガンマ、イプシロン階級などに細分化されている。階級間移動無し。なぜなら受精卵の時期にしかるべき化学的、放射線学的処理が施されて単純労働者に適した個体、支配階級に適した個体と理論的かつ理想的な比率で生産される。
しかし、下層階級が上流階級を妬んだり、反乱を起こすことは有り得ない。なぜなら全員に麻薬(ソーマ)が毎日一定量配給されてどの階級の人間も一生幸せに自足して暮らせるからである。ハクスリーは薬物にこだわりのある作家で後に自らLSD服用体験記を書いている(知覚の扉)。薬物の効用が長々と紹介される所等いかにもハクスリーらしい。
ようするに、アイデア小説ですな。とすると「私を離さないで」は何小説かな。