いや、だめだ。シリアル・リーディングがダメな時にはランダム・リーディングがいいときもある。というわけで二十三章からバックで運転してみました。最終章が二十三章です。
さかさに読んでもピンときません。それで、辛抱強く二十二章、二十一章と逆行しました。どこだったか、二十章前後でなんとなく輪郭が見えてきた。
要するにクローン人間を生産して成長したら臓器を提供させるという話。これは完全なフィクションだろうから、どういう仕掛けなのか(社会的に)描写説明すべきでしょうね。それはない。全部読んでいないけどそう推測されます。
いわば人間の牧場だからクローン人間の人権なんか顧慮しなくていいという設備がほとんどのなかでへールシャムというところの施設ではできるだけ収容者を人間として扱い教育も受けさせようということらしい。ところがほかの施設で現代人より優れた知能や能力もったクローンが出来そうだというので、世論がクローン全般に冷たくなりへールシャムも閉鎖した。そこを昔の収容者がルーツ探しみたいに尋ねるとまあ、こういうことらしい。柴田元幸さま、これでよろしいですか。
これが元収容者の女性の回想モノローグだけで描写されている。これでよろしいですか、柴田先生。対読者の問題はわきに置いておくとして、執筆者としてもこのような作業は相当にしんどい。テレビのインタビューでイシグロ氏が言ってましたが、原稿を三回書き直したとか。対読者の問題はもっと深刻です。
以上に要約してみましたが本文の説明が不十分で本来要約できるような内容ではない。そこを無理やり腕力でやってみたわけですが。
この作品に限って言えばノーベル賞ものでしょうか。せいぜい努力賞か敢闘賞ではないでしょうか。
無数の引っかかる点がありますが箇条書きにしてみると
@収容者たちが家族について考えることがまったくない。クローンだから単性生殖だから?
@名前しかない。きゃしー・Hとか。クローンだからこれは整合性をとっているのか。苗字が意味のないアルファベットの1字のみ
@収容者が介護人になる制度がよくわからない。本来矛盾しているようだが。
文章を読むのが楽しいレベルならテーマなどどうでもいいが、この本(日本訳)の場合はテーマが画然としないとダメでしょう。それがない。