彼の作品を読んだのは初めてである。大分前にNHKだったか、「エトロフ発緊急電」というのを見て面白いと思った。なにか日本の小説と異質な物があるような印象を持った。もっとも今に至るまで原作の小説は読んでいないが。
「廃墟に乞う」は短編集である。休職中の刑事が舞い込んで来た依頼を引き受けるという話である。ほとんどが、そして間接的な物を含めればすべて警察の紹介というかお下がりの物件である。チャンドラーのマーロウとバイオレット・マギーのような関係とも云える。
直木賞も懐が深いね(広いね、というべきか)。辻村さんのような純文学気取りの作品から、池井戸潤氏の企業小説、佐々木氏の警察小説(というらしい)そして葉室さんの「蜩の記」のような時代小説まで。
廃墟に乞う、文章は70点に近い。出来にむらあり、短編集だから当然だが。
短編「兄の思い」だったか、思い返すとおやと思うところ、マキリに関したところだったか、そう言う所も散見するが、するりと読ませてしまうのも腕だろう。
このブログで何遍も書いているがミステリーでは謎解きが平板にならない作品は皆無といっていい。しかも、謎解きはラストに来るから余計目立つ。これを避ける方法の一つは「ほのめかし」「暗示」で流すことである。佐々木氏のほとんどの作品(廃墟に乞うのなかの)は謎解きに紙数をかけない。賢明な策といえる。
ようするに全体として文章の力で読ませる腕がある。