先にフランシスの「大穴」の書評を書いたときに、事故で引退したチャンピオン・ジョッキーを主人公にした小説が沢山あるらしいと書いたが、大穴とこの利腕の二作だけらしい。利腕の巻末に解説を書いている北上次郎氏による。
これがシッド・ハレーものの第二作だ。もっともこの北上氏の解説が何時書いたものかわからないからその後ハレーものがあるのかもしれない。いつも思うのだが巻末の解説でクロノロジーに触れるようなことを書くときには執筆時点を明記してもらいたいね。この北上氏の文章は1985年以降らしいが、25年も前のことだ。
もし、読者がハレーものを一冊だけ読みたいというなら断然利腕をすすめる。相当に腕力ではない、筆力が向上している。前の大穴が左腕で書いたのなら「利腕」は右手で書いたくらいの違いはある。
大穴は仕掛けが漫画みたいで、あちこちでポンポン、プラスチック爆弾が破裂したがそういう不自然さは「利腕」にはない。
最初にハレーが続けざまに四つも依頼を受けてうけに入るのだが、読み始めてちょっと多すぎるんじゃないの、と心配したがなんとかまとめた。
一つの依頼は前妻が詐欺事件に巻き込まれたものでこれは独立、後の三つは競馬がらみで、さらに三つが二つと一つに分かれる。
最後のまとめはしまらないが、とにかくなるほど三つの依頼が必要な筋書きだったのだな、というのがよく読むと(ゆっくりと繰り返し好意的にかつ前向きに読むと)分かるしかけになっている。
八百長の話だが、ウイルスだか菌だか、特殊なものを目立たないように注射する話がある。こんなことが日本でも出来るのかな、出来そうにも思える。
それと人気になった馬をつぶす方法として直前の強い調教と言うのがある。調教助手はただでさえ、たいていは騎手より体重が重い。それが更に鉛をだいたり、鞍の下に鉛を敷いたりする手があるらしい。馬に猛烈な負荷をかけるから傷んでしまって本番ではびりっけつになったりする。この手はオイラも一応予想する時には考えるんだがイギリスでもあるんだね。